青之丞は小春を空き部屋へと移す。
布団を敷く間壁に寄り添わせて座らせ、布団を敷き終えると静かに…まるで宝物のように小春を布団に寝かせ、青之丞は寒くないように毛布と掛け布団を掛けてやる。
「こんなにも…冷たくなって…」
首までかけてやると青之丞はそっと小春の頬に触れた。
そこは真白と呼ばれた少年が触れて凍らせ、夏ではないためか小春の頬はまだ凍っている。
青之丞が両頬に手を当ててやれば、青之丞の体温で薄い膜のような氷はすぐに解けてくれる。
氷が水になり小春の頬を濡らし、その濡れた頬を拭うものがないためか裾で拭ってやる。
どんなに揺すっても喚いても起きない小春に青之丞はわずかに悲しげな視線を送る。
「…本当によく眠っている……お守りの効果などないというのに……起きたくはない理由があるのか…」
よく眠っている小春だが、音羽の言うお守りの効果ではないのは青之丞は知っている。
あの時、音羽は嘘を言った。
小春を傍に置きたいがための嘘。
夏目を自爆させるための嘘。
小春と夏目を決別させたいがための嘘を、音羽はついた。
青之丞は音羽が生まれた時から音羽についていく覚悟を決めていたが…やはり微かに残る良心が痛む。
音羽が何をしようと自分達兄妹だけは味方であると、幼い音羽を見続けてきた兄妹はそう誓ったのだ。
お守りの効果はただ小春を守るためだけの物で、眠るなどの効果はない。
あのお守りの主はもう息絶えているのが気配で分かり、効果も一度きり。
一度使い切ればしばらくは効果が継続はするがそれ以上の効果は得られない。
だから小春がこんなにも眠りにつくことが青之丞には不思議でならなかった。
「不憫な者だ…音羽様に目を付けられただけではなく、別の者にも…」
濡れた頬を拭い終え、青之丞は小春の頬を指の背で撫でてやる。
流石10代と言うべきか…小春の頬は滑らかでいつまでも撫でても飽きないほどだった。
そして思うのは哀れみ。
音羽に狙われ、別の妖にも命を狙われ…青之丞はただの人の小春に同情していた。
「しかし…貴女には犠牲になってもらわねば困るのだ……長年、音羽様が望まれた想い…望み…熱望……それを、貴女は叶えなければならない…音羽様のために…」
同情はするが心の底ではいつも音羽のためと小春を獲物として見ていた。
主の望通りの事を叶えるのが僕である自分の役目。
それがどんな結果になろうと青之丞は音羽に否とは言えない。
「そう……貴女が化け物を産み無駄死にしようとも……我々はあの方に尽くさねばならない…」
青之丞、そして蒼葉。
この2人は音羽を中心に回っている。
主だから…そして、大切な人だからどんな非道な事でも音羽に付き従い、守らなければならない。
それが仕える妖であるのだから。
「せめて…私だけは貴女を愛してさしあげましょう。」
青之丞はそう呟き、小春の額に唇を当てた。
20 / 26
← | back | →
しおりを挟む