(6 / 10) 3話 (6)

場所を移動し、夏目達は名取が宿泊している宿へ向かった。


「いつもは隣の榊市に住んでいるんだ」

「はあ…」

「紹介しよう、右が笹後、左が瓜姫。使役している妖かしだ。」


小春は玄関に車椅子を置かせてもらい部屋まで名取が小春を横抱きで抱き上げて移動したのだが、最初は夏目がそうしようとしたが名取にその役目を奪われてしまった。
それにムッとさせるも奪い返すほど子供でもない為少し不機嫌そうにしてても黙って名取の後ろについていく。
名取は使役しているという2体の式神を出し、夏目に紹介した。
小春には手の平に笹後と瓜姫の名を書き、それぞれ触らせた。
瓜姫は喫茶店での事以来小春に少し怯えを見せていたが主が小春の手を掴んで触らせている為小春の手を叩き落とす事も出来ず、笹後は少し複雑そうな表情を浮かべていた。
小春は式神という存在を始めて知り、そして触れた事に嬉しそうに笑い、夏目と名取はその笑みに釣られて微笑む。
小春の膝の上で通常運転な斑は自分以外の者に触れることはものすっごく不快だったが嬉しそうに笑う小春を見てフン、と鼻を鳴らすだけで終わらせた。
名取は人通り自己紹介も終わらせ早速、と本題を出す。


「今回ある旧家からの依頼があってね。あけると呪われるといわれている開かずの倉があったんだけど、財政難で質屋を呼んだんだ…鍵を預かった質屋が倉を開け主人共々物色した。…それ以来倉を開けた質屋は毎夜魘され事故にあいかけるなどの不吉な事が起こっているらしい。」

「それって妖かしの仕業ですか?」

「調べてきたこの2匹はそう言っている…ご先祖が金目の物を溜め込んで封印した依頼、妖かしがその倉に住み着き人の侵入を拒んでいるらしい…困ったものだな…妖かしはいつも理不尽で迷惑な存在だ…」

「…そうですかね…事情が分からないとなんとも…」

「君は優しいね…妖怪の肩を持つのかい?」

「…そういう言い方は……」

「あはは。」


夏目は名取の言い方にムッと小さく眉間にシワを寄せる。
名取は妖かしの肩を持つような夏目に小さく笑った。
夏目は気まずそうにしているとふと名取が眼鏡をかけているのに気付いた。


「あれ、名取さんは眼鏡するんですね…」

「ああ、これ?伊達だよ。妖かしを見る時は肉眼より見えやすいんだ…ガラスや鏡を通した方がね。」

「へえ…」


初めて知った知識に夏目は関心したように声をもらす。
夏目や、今では視覚を失った小春も眼鏡やガラス、鏡が無くても肉眼で人間と区別出来ないほど妖かしを見る事が出来るのでそんな知識今まで入ってこなかった。
夏目はふと名取の手首を見ると名取の皮膚に取り憑いているというヤモリの入れ墨がシュルシュルと手首に移動し、丁度ブレスレットのように名取の手首に巻くように止まった。


(ブレスレットみたいだ…)

「初めて笑ったね。」

「え…」

「この痣も役に立つ事があるんだな。」


痣を見られて不快感をあらわにさせる事もなく、余り笑ってくれない夏目が笑ってくれた事に名取は嬉しそうに小さく笑った。
無神経に痣を笑う自分に起こる事もなく軽蔑するでもなく一緒に笑ってくれる名取に夏目は目を見張る。
目を見張る夏目に名取は夏目の頭を撫でてやり、小春の頭も撫でてやる。
小春は耳が聞こえず名取達の会話が聞こえなくて斑を撫でていたが名取に突然頭を撫でられ驚くも、名取に顔を上げ嬉しそうに笑った。
そんな小春を見て名取は目を細め笑みを深める。


「君達は優しい子だ……優しい…ただの子供だよ…だから何も恥じることはないんだ」


夏目はそう言った名取に静かに目を伏せた。





それから夏目達は名取と他愛の話しをし、時間になり帰る事になった。
送ってくれるという名取の言葉に少し気を許し始めた夏目は断る理由も無い為素直に受け取った。


「じゃあ明日、質屋主人の自宅で待ってるよ。」

「…まだ手伝うなんて言ってませんよ……」


はい、と地図が書いてあるメモを渡され夏目は溜息をつく。
溜息をつく夏目に名取は「あはは」と笑うだけで強制も諦めもしない。
すると近くの茂みから不気味な声が聞こえ不自然に茂みも揺れていた。
所々聞き取り難い『友人帳』という単語に夏目はサーッと顔を青くさせる。


「(あの茂みに何かいる…!離れないと名取さんを巻き込むか…!)あの、じゃあ俺はこれで…」

「待って。言ったろ?君がコソコソすることはないって。」

「え…」


小春は斑も居るから心配は余りないが関係ない名取を巻き込むことは出来ない、と夏目は小春を連れて名取の傍から離れようとする。
しかし名取に腕を取られ名取に振り返ったその時、茂みの中にいた妖かしが襲い掛かってきた。
それに目を丸くさせ小春を後ろから抱きしめ守ろうとした夏目だったが名取が素早く頭の大きな妖かしの額にずっと持っていた枝を突き刺し夏目は唖然とする。
その枝には何か紙が突き刺されており、妖かしは激痛に悲鳴をあげ、小春はビクリと肩を揺らし夏目はハッと我に返った。
悲鳴を上げても名取は止めず、再び刺そうと腕を振り上げたのを見て夏目は慌て名取を止めた。


「やめてください!!もう手負いです!!」

「何言ってるんだ…君達を狙っているみたいじゃないか。」

「もう大丈夫ですって!」

「甘いよ。人を襲うのを許しておけるわけないだろう?」

「……ッ」


夏目に止められた名取は笑っていた。
笑っていたが目は笑っておらず夏目はその目を見つめゾッとさせる。


「…あなたの妖怪祓いってこんななんですか!?傷を負わせるのはやりすぎですよ!」

「君だって見えているのだろう?妖かしに苦しめられている君なら解るだろう?」

「ッそうですよ!見えているし聞こえているんだ!!だからこそこういうやり方ならば賛成は出来ません!!」

「………」


名取は夏目の言葉に目を見張る。
同じ妖かしが見える者同士苦しみは同じだと思っていたのだから驚きは当然だろう。
名取は先ほどの妖かしを見る目は消えゆっくりと目を細める。


「…そういう鬱陶しい考え方をしているとシワ寄せが自分に返ってくるよ。」

「それでもその方が俺には納得できます!……助けてくれてありがとうございました…」

「…………」


夏目はやり方はどうあれ助けてくれたことには変わりないと小さいがお礼を呟き小春の車椅子を押して名取と別れる。
名取は夏目達を追うこともなくただ静かに夏目の背を見つめ見送った。





夏目はせっかく自分と同じ見える人と出会えたのにその人とも同じ気持ちを分かち合えないのか、と顔を曇らせ口を閉ざしたまま帰るため小春の車椅子を押していた。


「触れられた一瞬奴の妖かしへの憎しみが見えた…何だかんだ言って妖かしでは色々苦労したんだろう」

「…………」

「夏目、あまり気を落とすな。お前が落ち込んでいては小春が余計怯えるぞ」

「え…」


重い溜息を1つこぼすと斑の言葉に夏目は目を見張り立ち止まった。
斑は小春の膝の上で夏目を見上げ、夏目は小春を見下ろすと顔を見なくても怯えて体を震わせていたことが目に見え慌てだす。


「小春!?どうした!?」

「落ち着けと言っておるだろう。耳が聞こえん小春に普通に話しかけても分からん。」


小春は顔を俯かせ歯をカタカタ小さく鳴らしながら怯えており、顔色も悪い。
それに夏目は更に慌てだしいつもの会話形式ではなく普通の声をかけ斑に突っ込まれてしまう。
斑の突っ込みに『そうだった!』と小春の手の平に文字を書く。
兄の心配そうな言葉に小春は少し顔をあげるのだが、やはりまだ顔色は悪い。


『…あの人、こわい…』

「『あの人?名取さんか?』」

-コク-

「『どうして…確かに妖怪たちに酷い事したけどいい人だよ…多分…』」

「多分って…」


名取が怖いという妹に夏目は一瞬言葉を失ったが怯える小春を安心させようとする。
しかし多分がついているのだから余り安心は出来ないだろう。
自信がない夏目に斑は呆れるように呟くが、夏目は泣くのを我慢しているように目蓋が震える小春を見て半目で見てくる猫に構う余裕は無かった。


「『小春?大丈夫だ、あの人は他の人みたいに俺達を苛める人じゃないよ』」

「………」


ぐずっ、と鼻を鳴らし小春は納得したのか小さく頷き、夏目は納得してくれた妹に一先ず胸を撫で下ろした。


(…この調子じゃ明日、小春は連れて行けないな…でも…1人にはさせられないし……)


どうしよう、と夏目は斑に擦り寄られ慰められている妹を見下ろし目を伏せた。
すると道の端に見たことのあるボロボロの縄が目につき、小春が落ち着いたのを見てその縄のところに向かい手に取る。


「この縄…」

やめんか小童

「!、あっ!ごめん!!」

「………」


手に取った縄をグイグイと引っ張ると後ろから最近見かける妖かしがおり、やはりその縄はその妖かしの首に繋がれている縄だと言うことが分かった。
夏目は怒られ慌てて縄から手を離す。
謝った夏目をチラッと見ただけで妖かしはある家に入っていく。


「この家……」


夏目は妖かしが入っていった家を見上げた後名取から貰ったメモを見る。
そこはメモに書いてあった問題の家だと言うことが分かり、夏目は『じゃぁ…あの妖かしが…?』と妖かしが消えた方向へ目を移した。
すると門の柱の部分に妖かしが首に付けられているのと同じくボロボロの縄に苦無のようなもので止められているのが見て首をかしげる。
夏目は斑のお陰で涙も引っ込んだ小春を連れ何となく妖かしの後を追った。


「この縄は誰が?」

「………」


追いかけてきた夏目を疎ましそうに妖かしは振り返る。
それに苦笑いを浮かべる夏目だったが疎ましそうにされても去ることはしない。
すると妖かしが何かに気付き、体を夏目の方へ向けた。


「あ…お前達、あの子の匂いがする…」

「あの子?」


初めて低い声ではない声を聞き、夏目は"あの子"という言葉に首をかしげる。
しかし妖かしは言う気にならないのか2人の間に無言が続いた。
夏目は言うつもりも無い妖かしから無理矢理聞こうというつもりもないため、ふと小さく笑みを浮かべる。


「――座って。その包帯気になるから撒きなおさせてくれよ。済んだらもう無視していいからさ…」

「………」


妖かしは意外にも夏目の言うことを聞きゆっくりと倉の入り口にある小さな階段に座った。
夏目は小春に事情を話し少し待っててもらい、小春は夏目の言葉に小さく笑って頷いた。
それに小さく笑みを浮かべ、夏目は座る妖かしの手にある包帯を巻きなおす。


「…何処ぞの…」

「え?」

「昔、何処ぞの祈祷師がこの縄を…私は山守りをしていたが捕まってあの柱に縛られた。この家と倉を守るよう命じられた。蔵を開けるものがいたらその者を祟るようにと…」


緩んでいる包帯を巻き直した夏目だったが、突然妖かしが喋りだし顔を上げる。
妖かしは面を被っている為表情は窺えないがそれでも夏目は話してくれることを少し嬉しく思う。


「最近倉を開けた者がいる。そのものを祟るため通っている…役目を果たさねばやがてこの縄が締まり首が落ちるようになっている…」


妖かしの言葉を聞きながら夏目は縄が繋がられている門の柱を思い出す。
その柱には爪の跡があり、ふと妖かしの手を見ると爪が割れているのが見えた。


「昔は逃げようとしたがやがて諦めた…諦めて1人ぼぉっとそこに座っていた……何年も、何年も…」


妖かしは昔を思い出しているのか声はとても穏やかでとても優しかった。
妖かしの話を夏目はただ黙って聞いていた。


「あれは人の子だった…お前のように私を見ることが出来た…その子が包帯を巻いてくれた…」


懐かしそうに話す妖かしだったがふと言葉を切り夏目から顔をそらし、夏目はどこか遠くを見つめているように見えた。


「倉が開いた時…役目など果たさずこのまま首が落ちるのもいいと思った…」

「え…」

「何の未練もない…けれど…けれど縁とは面白いものだ…あの子が祓い人としてこの街に帰ってきた。」

「―――!」


妖かしの言葉に夏目は目を見張る。
祓い人。
夏目の脳裏に1人の人物が浮かび上がる。
妖かしはそんな夏目に気付かずフフ、と笑った。


「あの子になら祓われていいと思った…あの子の手柄になるのは喜ばしい……異形とは面倒だね…こんな布切れ一枚の礼もろくに出来ない…」

「…………」


夏目に巻き直してもらった包帯が巻かれている手を見つめ妖かしはポツリと呟く。


夏目の耳にはその呟きがとても悲しげに聞こえた気がした。

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