(5 / 8) 16話 (5)

夏目と小春と斑が露神に会いに来たのは、ただ会いたいからではなかった。
夏目が一晩中考えた結果、二枚重なっている紙はどうしても剥がせないため、2人同時に名前を返そうと考えたのだ。
それに斑も小春も色よい返事をし、露神もまた名前を返してくれるならと喜んだ。
ただし、一つ問題があった。
この友人帳を制作したのは祖母であり、夏目でも小春でもない。
その為もう一枚の妖が分からないのだ。
名前は頭の中で浮かび、妖の文字は人間の夏目達には分からない。
その為返そうにも困難は避けられないだろう。
だが、運のいい事に露神はその妖を知っていると言う。
名前を取られた際、悔しくて次に名を取られたという噂を聞きつけ会いに行ったと言う。
当時は祖母の時代なため時間は経過しているものの覚えていると露神は言った。
そして場所を移し藤原家へと戻った夏目達と露神は夏目が用意した紙と筆でそのもう一人の妖の姿を描いてもらった。
…が、露神が描いたその妖の絵はとても笑いを呼ぶ物だった。
例えるならオバケの○太郎が近いだろうか…
最初こそ肩を揺らしながらも三人は笑い声をあげるのを必死に抑えた。
しかし結局は耐えきれず夏目達は大爆笑。
露神は『罰当たり共ーっ!』とお面の下の顔を真っ赤に染め怒声を浴びせた。
だが、それでも笑い声は途絶えることはなかった。



****************



それから露神が描いた似顔絵(?)を頼りに夏目達はその妖が当時住んでいたという三の塚での捜索を始めた。
夏目はまだ妖が苦手な妹を外そうと考えたが、それでは逆に小春が不安がるし、何より除け者にされるのを嫌がるのを知っているため口に出す前に考えただけでとどまった。
除け者にされたくないのは小春だけではなく夏目自身も嫌だから余計にだろう。
夏目と露神は単独で、そして小春は斑をボディガードに付けそれぞれもう一人の妖を探し続けた。


「なんだお前達、眠そうだな…捜索疲れか?」

「…まあね。」


数日費やしても中々妖に辿りつけない日々が続く。
学校がある日は学校が終わればすぐに露神と合流し、ギリギリまで探し続ける。
そんな日が毎日続くと流石に夏目も疲れが出始め疲れた体を解すように歩きながら背を伸ばし欠伸を1つ零す。
小春も兄に釣られてか小さな欠伸を零した。
そんな2人を見上げ斑は声をかける。
欠伸で溜まった涙を手でぬぐいながら夏目は頷くと…露神の祠の前に桃を貰った女性――ハナがいた。
ハナは露神の祠の前で手を合わせており、今日は桃ではなく三色団子を三つお皿に乗せてお供えしていた。
露神は手を合わせるハナの前でジッと見上げていた。


(そうか…ハナさんには見えないんだ…息が掛かるほど近くにいるのに…)


その姿を見て夏目は少し切なくなった。
露神が…妖が見えるのが当たり前の夏目と小春と、妖が見えないのが当たり前のハナ。
3人とも同じ人間なのに見えない者と見える者。
露神があれほど見上げていても、目線を向けていても、ハナを意識していても……ハナは見えない。
一方通行な彼ら2人を見ていると何とも言えない切なさが夏目を襲った。


「あら…貴方たち」

「あ…どうも…」

「こ、こんにちわ…」


手を合わせ何かを祈っていたハナは祈り終えたのかふと顔を上げ立ち上がる。
そして帰ろうと夏目達の方へ振り返れば当然夏目達と目と目が合い、2人の存在に気づく。
ハナは少し目を見張ったがにこりと優しい笑みを浮かべてくれた。
その笑みにぎこちないが2人も笑顔で返し、軽く頭を下げる。
ハナがいるため露神と合流し捜索する事が出来ず、とりあえず形だけだがハナと同じく露神の祠の前に手を合わせた。
2人並んで手を合わせる姿を見てハナは何故か嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべ見つめていた。


「貴方たちもお参り?」

「え?ああ、まあ…」


ハナがいたためそのまま留まる事できず、小さな声で『また引き返しにくる』と露神に伝え、露神が頷いたのを見て夏目と小春はハナと一緒に帰ることにした。
ハナは問いに頷いた夏目と小春に更に嬉しそうに笑みを深め『良かったわ』と呟いた。
そのハナの言葉に夏目はキョトンとする。


「もう最近来るの私だけみたいで…露神様、お寂しいんじゃないかと思っていたんですよ」

「…いつ頃からお参りに?」

「小さい頃からよ」

「へぇ…」


小首を傾げる夏目と小春にハナはやはり嬉しそうに笑った。
どうやらハナもハナで露神の事を思っていたようで、姿は見えずとも露神の事を信じて心配しているハナに夏目は切ないと思っていた心が温かくなるのを感じた。
小春もまた夏目と同じく心が温かくなるのを感じ、自然と笑みが零れる。
するとハナが急に『ふふ』、と小さな笑い声を零し、夏目と小春は小さい笑い声を零すハナに首を傾げる。
不思議そうに見る2人にハナは『笑わないでくださいね』と呟いた後、2人にある話を聞かせる。


「私、一度だけ露神様をお見かけしたことがある気がするんです」


ハナの言葉に夏目だけではなく小春も驚いた表情を浮かべた。
ハナはその驚く2人を神様を見たからだと勘違いし、驚いた2人に悪戯が成功したようにくすりと笑みを深める。
ハナが露神を見たのは今日のような暑い日だったという。
女学校の帰り、その日もハナは露神の祠にお参りに来ていた。
毎日のようにお供え物を送り祈っていた。
しかしふと顔を上げれば祠の後ろに足が見え、ハナは当然驚いたが気づかないふりをした。
すると翁の面を被った男性…露神が気持ちよさそうに空を仰ぎ『今日はいい天気だなぁ』と呟いたという。
その呟きにハナは思わず『そうですね』と答えそうになったが、ハナは自分が今ここで返事を返せば見られたと知った露神が消えてもうハナ達を見守ってくれないかもしれないと思ったらしい。
ハナはその話をし、でも、と続け、『思い切って声をかけたらよかったかしら』と言葉を重ねた。
ハナの言葉に夏目は目を瞬かせる。


「え…どうしてそう思ったんですか?」


夏目は声をかければよかったというハナに思わず疑問を投げかけてしまう。
夏目や小春にとって妖は人と同じ立ち位置だが、ハナのような見えない者はそうではない。
妖も神様も、なんとなくで区別しているだけで、ハナは露神を神様だと思っているが元を辿れば妖なのだ。
人間が忌み嫌う、妖なのだ。
見えない者よりも妖への恐怖心が強い夏目は素直にハナの言葉に疑問に思った。
他意はないのだろう。
でも、と続け重なった言葉に普通に疑問に思っただけだったのだろう。
夏目や小春は人間のように妖を見ることができるのだから。
そんな夏目の問いに気分を害した様子もなく笑みを浮かべたままハナは答えてくれた。


「だって、露神様いつも一人ぼっちでしょう?私なら寂しくて耐えられないかも…だからせめて声だけでも掛けてあげればよかったかしらって思ったの」


ハナの答えは夏目の心に入り、夏目はハナの笑みに眩しそうに目を細める。
小春は…ハナの言葉に心の影を更に深めていった。

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