「『小春、お前は行かない方がいい』」
そうお兄ちゃんに言われて私は置いていかれた。
お兄ちゃんは最近出会ったと言う"あの子達"を祓う人の所に行ってしまった。
あの人に会いに行ってしまった…
私は一人ぼっちの広い部屋のリビングでただお兄ちゃんの帰りを待っていた。
お兄ちゃんが暖房をかけてくれたのだろう…部屋はとても暖かい。
(お兄ちゃんを追いかけれたらなぁ…)
足が不自由なだけなら手で車椅子を動かして追いかければいいだけの話し。
だけど私はそうはいかない。
目も見えなくては何処に向かえばいいか分からない。
まずここから動くのも怖い。
(あの人はいや…あの人は怖い…)
私は一人で恐怖に耐えようとひざ掛けをギュッと握った。
あの人は怖い。
妖怪に酷い事をしたし、するためここに来てお兄ちゃんに接触した。
長年目も見えなくて耳も聞こえない私だって空気くらい分かる。
妖怪の悲鳴が声の音がビリビリと私の体に響き私はそれに今目の前で何が起こっているのか分かってしまった。
(だけど…嫌いじゃない…)
そう、嫌いじゃない。
あの人は優しいから…
妖怪には怖い人かもしれないけど、目が見えなくて耳も聞こえなくて、口も聞けない私にあの人は優しく普通に接してくれる。
それに私の頭を撫でてくれたあの人の手はとても心地よかった。
だけど怖い。
私はその2つの感情がくるくると交互に回り戸惑ってしまう。
どうしたらいいのか分からなくて…でも目も見えない自分に何が出来るのか分からなくて…私は入れていた力を抜くように小さく長い溜息に似た息をついた。
(いやだなぁ…お兄ちゃんが傷つくのも、猫ちゃんが傷つくのも……あの人が傷つくのも…やだなぁ…)
そう思いながら溜息を1つこぼしたその時―…
ならお前が癒せばいい…―――のようにお前が傷を癒してやればいい。
聞いたことのある声に私はハッとさせて顔を上げた。
目の前にはこれも見た事のある白い手が浮かび上がり、私に手を差し出すように手を伸ばしている。
―― お前が望めば何でも願いを叶えてやろう。 ――
―― お前が行きたい場所に連れて行ってやろう。 ――
―― お前が望むもの全てを与えてやろう。 ――
その声は燕さんの時の声で、暗闇の中に浮かび上がるように腕しかないモノも同じだった。
私は再び現れたその腕と声に恐怖はやはりなかった。
なぜ、と聞かれても理由は見当たらないけど…怖いという感情が生まれることはこの先ないと断言できる。
そして、私はその冷たいその腕に手を伸ばした。
だから、返そう。
全てを返すことは出来ないが、少しの間だけ―――を返そう。
その声の言葉の意味を私は分からなかった。
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