(3 / 18) 17話 (3)

夏目と斑の目の前には地獄絵図に近い光景が広がっていた。


「ど…どういう、ことだ…おい夏目…どういう事だ!?」

「そんなの俺が聞きたい!!おい先生!小春の傍にいる男は誰だ!?なんで小春があの男に向かって笑顔を向けてるんだ!?あの白い封筒はなんだ!?ラブレターか!?ラブレターなのか!小春!!」


その光景とは愛する妹の傍に知らない男がいるという単純かつ馬鹿げた光景だが、シスコン&トモコン(友樹コンプレックス)な夏目と斑からしたら非常事態に近い。
むしろヨハネの黙示録の天使のラッパレベルである。
今、2人の脳裏に天使がおりラッパを鳴らしていた。
夏目はちゃっかり小春の手にある白い封筒も目撃しており一人暴走していた。


「―――ッは…!もしかして今まで俺たちを避けていたのって…まさか…いや、小春に限ってそんな……ッ!」

「おいどういう事だ………―――!、ま、まさか…か…かr」

「い、言うな!!それ以上言うな先生!!もう俺のライフはゼロだ!!」

「あ、ああ……そうだな…うん…すまん…」


夏目が2人を見て何かを思いついたようだが、言葉には出来ずその先を言う事はなかった。
斑も最初こそ夏目が気づいた事に気づくことはなかったが、ハッとさせ、その夏目が言えなかった言葉を言おうとした。
しかしそれを何者でもない夏目が止めたのだ。
隣に並んでいた夏目は何かを言いかける斑に向かって手を伸ばし止め、斑も言えば自分自身ダメージが大きいと察し珍しく夏目に素直に謝る。
2人同時に口を閉じたせいか辺りは蝉の鳴き声だけしか響かず、セミの鳴き声がするのに不思議と2人の耳には届いておらず静まり返っていた。


「……………」

「……………」


2人はジッと男を見る。
見る、というよりは睨んでいた。
もう2人の中ではすでに男が小春の彼氏という設定になっており、すでに彼らの(被害)妄想の中では『娘さんをください!』の段階まで来ていた。
当然雷オヤジ如く『誰が貴様のような馬の骨ともしらん男に大事な小春をやれるかあああ!!』と藤原家にはないはずのちゃぶ台をひっくり返してもいた。


「先生…」

「…なんだ」

「もし…もしも…俺に何かあったのなら……俺の代わりに小春の事、守ってくれ…」

「!―――夏目…お前…まさか…っ!」


暫く小春と男を見ていると不意に夏目が斑に声を掛け、斑は不機嫌なのか低い声で返事をする。
しかし夏目の意味の分からない言葉に最初怪訝とさせていた斑だったが、意味を察したのかハッとさせ小春と男から夏目へと顔を上げる。
夏目は男を睨んでいたが斑の視線に気づいたのか斑を見下ろしふと笑う。
その笑みは何もかも捨てる覚悟のある男の顔だった。
女顔の癖に男らしい…だと…!?、と失礼な事を思いながら斑は首を振る。


「やめろ!夏目!!お前…ッお前は今何をしようとしているのか分かっているのか!?」

「ああ…そうじゃないとニャンコ先生にこんな事頼まないさ……一番危険だし。

「………だがお前…流石にお前でも今回ばかりは…」


最後の言葉をスルーしながら戸惑いが隠せない斑に夏目はふと笑う。


「俺はさ…小春の事が大事なんだよ、先生…小春は俺の宝物なんだ…ずっと一緒に暮らすことに憧れて、願って…やっとその願いが叶った…それだけでもう十分なんだよ……それにさ…俺はいつかこうなるって気がしたんだ…小春もずっと子供のままじゃいられないんだ…小春は美人だし可愛くて器量もいい…そんな小春を男が放っておくわけないだろ?大丈夫だよ…大丈夫さ……何を言われても小春の為に俺は立たなくては駄目なんだ…」

「夏目……、…あいつは手強いぞ…それでも行くのか?」

「勿論。」


ふ、と笑う夏目に斑は目尻が熱くなる。
しかし2人以外の人間からしたら『お前何言ってんの』だろう。
だが2人は既に2人の世界に入っており気づかず、自分の問いに力強く頷いた夏目に斑も笑った。


(もやしだもやしだと思っていたが…夏目め…いつのまにか立派に成長しておるわ…)


おい、誰か突っ込み連れてこい。――そんな言葉が聞こえそうである。
もう2人を止める者はいない。
『じゃあ、後は頼むな、先生』と最後の願いのように夏目は斑に頼み、その頼みに斑は『ああ、もちろんだ…お前の分まで小春を守ると誓おう』と頷いた。
頷いた斑に夏目は安堵の笑みを浮かべさあ戦場へ逝かん!!と意気込み一歩足を踏み出し小春と男の元へ向かおうとした。
しかし…――――男は小春の手をギュッと握った。
それを見て夏目は表向き冷静さを保っていた頭がプチンとキレる。



「あんた小春のなんなんだ!!!」



夏目は可愛い妹に手を出す(と言っても手を握っただけである)男に頭に血が上る。
そのまま目にも止まらない速さで小春と男の間に入り手も振りほどき小春を背に隠し男を…文乙を睨む。
小春は突然間に入り自分を背に守る兄に驚き、文乙はその速さから『呵!忍者!』と何故か大喜びだった。

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