夏も過ぎたとはいえまだ暑い季節。
友人帳はもちろんだが汗を拭くためのタオルや水分補給のための飲み物などをカバンに入れ、夏目と小春と斑は散歩に出ていた。
「暑いな」
「うん、暑いね」
「小春、休憩して水飲むか?」
「ううん、まだいいよ…お兄ちゃんは辛くない?」
「いや、大丈夫だ…小春、辛くなったら言ってくれよ?」
「うん」
夏目は小春との短くとも充実している会話を心から楽しんでいた。
あの妖に襲われてから小春の口数は減った。
気持ちも落ち込んでいるように顔を俯かせていた。
会話をしようにもただ返事を返すだけとなり、夏目は切なく思った。
塔子や滋も小春の変化は当然感じており心配になり声をかけるも小春は元気のない声、そして笑顔でただ『大丈夫』『何でもないです』と言うだけでそれ以上は何も言わない。
それは見えない塔子と滋に言えないのは夏目もわかるが、見えるのに相談もされずただただ誰にも言わず心に溜めていく妹を見て何もできない自分が堪らなく嫌になる。
だから少しの変化でも夏目は嬉しくなった。
このまま元の小春に戻ればいいと心の中で呟く。
だから夏目はいつも以上に出来るだけ小春と手を握るようにしている。
人と触れ合えばいずれ小春の凍った心も溶けると思って。
だから今日も夏目は自分から小春の手を握り歩いていた。
少しいつもの小春に戻ってくれているとはいえ、手を差し出してもまだ今は戸惑うばかりでいつもなら嬉しそうに手を握ってくれるのに手を握ってくれることも無くなった。
今日も差し出した手を困ったように見ていた小春を夏目は無理やり自分から握り、それを思い出し寂しく思っていると小春の頭がぐらつき、一瞬だがよろける。
それを見て夏目は小春の頭上を睨む。
「おい、先生」
夏目は低い声で小春の頭上にいる斑へと声を掛けた。
斑は玄関で靴を履いている小春の頭に飛び乗ったのだ。
日の暑さ+猫の体温+斑の重さにふらつく小春は何とかバランスを保っていたが時折頭をぐらぐらさせていた。
「なんだ、夏目」
「小春の頭から降りろよ…暑苦しいだろ?」
「お前は私の可愛い肉球がアスファルトで火傷してもいいのか!」
「さっきから小春がふらついてるんだよ。百歩譲って頭に乗るのはいいけど少しはダイエットしてからにしてくれよな」
「何だと―!?」
小春の頭に乗りグラグラとさせる斑にどくように言うも斑は首を振るばかり。
確かに手足の短い斑はアスファルトが近いため熱気は小春達よりも強い。
アスファルトだから肉球も火傷する事はするだろう。
しかしだからと言って男の自分よりもか弱い小春の頭に乗っかるのはどうなんだと夏目は思う。
夏目は決して降りない斑に溜息をつき一度足を止めて繋いでいた小春との手を放し、砂袋のように重い斑を持ち上げて小春の腕に抱かせる。
地面に降りたくないというのならまだ頭より腕の中の方が安定感があるし、小春も終始頭をグラグラさせなくてもすむと考えたのだろう。
「さ、行こう」
抱き付いているのがブタ猫だという事を除き、猫を抱きしめている妹に可愛いと自己満足に頷き散歩を続けようと歩き出した。
しかし歩こうとした先にカラスが何羽か騒いでいた。
よく見ればカラスは何か白いものを突っついており夏目は突っつかれているのが猫だと思い慌ててカラスへ駆け寄り追い払う。
人間の登場にカラス達は鳴き声を上げながら上空へ逃げていき、カラスがいなくなったのを見て小春も兄のもとへと駆けよった。
駆け寄れば夏目は子猫を手に持ち上げてた。
「お兄ちゃん…」
「この子猫…頭がない…」
「えっ!?」
「それどころか手足もない…!」
兄の元へ駆け寄れば手の中にあるのは白いモフモフとした子猫……いや、手足も頭もない子猫だった。
兄の言葉に小春も夏目同様顔を青ざめていたのだが…
「「うわあ!!毛玉が動いたーーっ!!」」
「夏目!小春!!それは妖者だ!!捨てろ!捨てて逃げるのだー!!」
もぞり、と夏目の手の中の白いモフモフが動いた。
死んでいると思っていた夏目と小春はモフモフが動き出し慌てふためく。
斑も妖だと気づいたようだが突然動き出したソレに驚き声を上げる。
斑の声にパニックを起こしていた夏目はすぐには放すことはできなかったが声を上げながら手を放し小春の手を取りその場から逃げるように立ち去った。
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