(6 / 18) 17話 (6)

それから散歩も切り上げ夏目達はまっすぐに藤原家へと戻っていった。
丁度玄関の前を通ろうとした塔子とばったり会い走ってきましたよと言わんばかりに息を切らし汗だくの2人を見て塔子は驚きが隠せず、仕舞おうとした洗濯物のタオルを2人に渡す。
最初こそせっかく洗ったのだからと断ったが塔子が譲らず、ありがたく汗を拭わせてもらった。


「全くお前はすぐに妖に関わりおって!!」


塔子にお礼を言って部屋へ戻ればどっと疲れが襲ったのか夏目はぐてっと畳の上に伸びてしまう。
小春も走った疲れと驚きもあってか夏目の横で座り込み、伸びてる夏目に斑はプンプンと怒り説教する。
斑の怒りのお言葉に夏目はゆっくりと起き上がり座った。


「子猫だと思ったんだ…それに襲われてたんだぞ」

「まったく…しかし毛玉の妖とはまた面妖な……おかしな妖もいたものだな。」

「先生だって毛玉みたいなものじゃないか」

「何だと!?」


やはり妖と言えどまだまだ自分のいらない者がいると感心している斑に毛玉毛玉と言うが斑も毛玉だと夏目が答える。
今の招き猫の姿も触れれば小春と夏目の日々の努力の賜物なのか毛はふんわりとしており、本来の姿もそれに反映されているのかは不明だが触り心地は最高ともいえる。
自分を棚に上げて…と呟く夏目に斑は毛玉の妖と同等扱いが気に入らないのかムッとさせ声を上げた。
プリプリと怒る斑に夏目は慣れたように『はいはい』と適当に流していたのだったが…


「あれ、ニャンコ先生…何か変だぞ?」

「変?何がだ」

「何か…しっぽがいつもと違うような…」


斑を軽く流しながら息も整ったため立ち上がり下で飲み物でも取りに行こうとした夏目だったが、ふと斑を見ると何か違和感が湧く。
その違和感を探るためジッと見ているとそれは尻尾だった。
夏目の言葉に斑は自分の一番後ろにある尻尾を見る。
自分の丸々とした愛らしい尻尾が、いつの間にかふわふわのゴージャスに変わっていた。


「な、なんじゃこりゃ!!しっしっ!あっちへ行け!!」


生き物かは不明だが豪華な尻尾を振り払おうと前足を振るが、如何せん斑のボディはぽっちゃりボディである。
尻尾には悲しくも届かず尻尾のゴージャスは取れない…と思っていた。
しかしそのゴージャスな尻尾は斑の追い払う言葉に答えたように独りでに斑の尻尾から離れていき、ぴょんぴょんと跳ねながら部屋の隅へと移動する。
どうやら先ほどの毛玉の妖怪が斑のシッポにくっついてついて来てしまったようで、夏目達は隅っこへと移動した毛玉をジッと観察するように見つめていた。
するとパチリと毛玉に目が生えた。


「「「!―――ッうわあああ!!!」」」


目が生えたように見えたが、それは毛玉が瞬いただけだったがそれでも夏目達は驚きの声を上げ、三人は驚きのあまり抱き合う。
斑は夏目と小春に挟まれながら『しっしっ』と短い前足を追い払うように振る。


「あれ?なんか可愛いぞ…?」

「え?あ…本当だ…なんか可愛い…」

「何ィ!?お前ら毛がポワポワしていれば何でもいいのか!!?外見に騙されおって!!首も無いような生物だぞ!?」

「何言ってんだよ…首なら先生だってないだろ。」


ぱちくりと真ん丸な目が夏目達を見ていた。
夏目の手の平に収まるほどの大きさの毛玉はジッと夏目達を見上げ、斑は毛玉を可愛いと評価する兄妹に抗議の声を上げる。
夏目がポツリと真実を呟けば斑はカチンと来て怖くないガンを飛ばし、そのガンに答え夏目もガンを飛ばす。
ヤ○ザや強面以外では美形ほどガンを飛ばして恐ろしい生き物はなく、しかし斑は慣れているのか殴られるまでが勝負だと負けじと睨んでいた。


「………」


そんな男性陣などよそに小春は毛玉をジッと見つめていた。
座り込んだまま猫のように姿勢を低く隅っこにいる毛玉の妖と見つめ合っていた。
と、言うよりは睨み合っていたと言うべきだろうか。
アマナなどの大きな妖は苦手意識が働くがどうやら毛玉のような小さな妖は平気のようである。
片や毛玉の妖、片や可愛い妹…夏目と斑は睨みあいもよそにその光景を見つめ固まった。


((ナニコレ!超可愛い…っ!!!))


可愛い×可愛いは正義だった。
斑は毛玉を可愛いとは思っておらず小春しか見ていない。
夏目は毛玉も小春も可愛いと思っていた。
お互い対象の相手は違えど可愛い者に悶える寸前だった。
そんな2人をよそに小春は触れようと恐る恐る手を伸ばす。
しかし…


「シャーーッ!!」

「きゃっ!」

「小春!」


驚かさないようにそっと手を伸ばしたが、毛玉はその手に驚いてしまい全身の毛を逆立て威嚇した。
驚いた小春が起き上がり驚いた声を上げればその声に我に返った夏目と斑が我に返る。
威嚇するように小春を背に隠すよりも早く毛玉が部屋中を跳ねまわる。


「こら!暴れるな…ッ!!」


毛玉が小春に当たらないよう小春の手首を掴んで引き寄せ夏目は腕の中に小春をしまい込み守る。
ドンドンと音を立てる毛玉に夏目の腕の中にいる小春の体は微かに震えていた。
それを感じながら夏目の腕の力は強まる。


「血…」


夏目の腕の中にいると思うだけで安心でき、夏目のぬくもりと鼓動を感じている小春は身体の震えも落ち着き周りを見る余裕が出来ていた。
ふと小春の視線の先を毛玉が着地し、また跳ねまわった。
それは一瞬で目にも止まらない速さだったが、毛玉が着地した場所に赤い点が出来た。
それをジッと睨むように見れば血だった。


「――ッ待って!!血が出てるっ!!傷が酷くなっちゃう!!やめてっ!!」

「小春!?」


血を見れば妖が怪我をしていると気づき、小春の頭に妖の苦手意識が消えた。
小春は夏目の胸元を押しのけるようにして腕から離れ必死に飛び跳ねる毛玉へ手を伸ばす。
何回か失敗はしたものの、小春は夏目が止めるのも聞かず毛玉をキャッチすることに成功した。
その際勢い余って畳の上に倒れてしまう。


「っい…!」

「!――放せ小春!」

「やだっ!」

「小春!!」

「ぜったい放さないっ!!」


小春に掴まり妖の毛は更に逆立ち、その毛が小春の小さな手に刺さる。
妖の血の痕以上の血が小春の手から流れ、それは小春の顔が痛みにゆがみ小さく声を零したことから小春の血だという事が伺える。
斑が痛みに声を零した小春に放すように声を上げるも小春も負けじと首を振る。
夏目も毛玉の毛が刺さった事に慌てて小春の名を叫び咎めるがそれでも小春は毛玉を離さなかった。
その間も毛玉の毛は逆立ち続け小春の手の平を傷つける。
ズキズキと痛むその手をよそに小春は毛玉に笑みを向けた。


「だ、大丈夫、だよ…っ、ここにはあなたを傷つける人達、いないから…だから…落ち着いて…私もお兄ちゃんも先生もあなたを傷つけようとしているわけじゃないから…」


小春を警戒しているのか毛玉はフーフーと警戒心をあらわにしていた。
妖を落ち着かせようとする小春の意図を察し夏目はハラハラしながらも黙って見守ることにした。
フーフーとまるで猫のように威嚇する毛玉は小春の言葉が通じたのか少しずつ興奮が収まっていき、逆立っていた毛もふにゃりと柔らかい毛へと戻っていく。


「よし!今のうちに摘み出せ!」

「そうだね…」


とりあえずは敵ではない事は分かって貰たのか目を瞑り大人しくなった毛玉に小春も夏目もホッと胸を撫で下ろす。
落ち着いた毛玉に斑は『厄介ごとは御免だ』と言い切り、それに返事を返しながら小春は起き上がるも窓へと近づくこともなければ廊下へ放り出す気配もなかった。


「薬、持ってくるから待っててくれ」

「うん…ありがとう、お兄ちゃん」


夏目も元々怪我を負っているらしい毛玉を追い払うつもりはなかったのか、斑の言葉に便乗せず立ち上がり一階へと薬を取りに向かった。
その間小春はカバンからタオルを取り出し片手には毛玉を乗せ、もう片方でタオルを膝も使いながら器用に折り机に乗せた後そっと静かに毛玉を降ろした。
毛玉は眠っているのか微動だにしない。


「持ってきたよ、小春」


兄が戻ってくるまで小春は毛玉を優しく指の背で労わるように撫でてやり、放り出すこともない小春と夏目に諦めに似たため息を尽きながら斑もそれ以上何も言わず小春の横にちょこんと座る。
暫くすると薬箱を手に夏目が戻り、小春が手を出して薬を受け取ろうとしたが夏目は『小春も手を怪我しているだろ?俺がやるよ』と手で制し、妖用の薬がないため、無いよりはましだと人間の塗り薬を毛玉に塗る。
本当は手を怪我した小春を先に治療してやりたがったが、それは小春が望まないし、夏目も小春を第一に考えながらも怪我をしている毛玉の事も心配だったため毛玉を優先した。


「小春も手を出して」


毛玉に小さい小指用の絆創膏を貼った後夏目は隣で見守っていた小春へ振り返り小春に手を出すよう伝え小春はおずおずと手を差し出した。
小春の小さな手の平にはいくつもの傷痕があり、他人の目で見たその傷は痛々しかった。


「小春…毛玉を助けたかったのは分かる…だけど無茶だけはしないでくれ…」

「…ご、ごめんなさい…」


妹を溺愛する兄として夏目は小春の手の平の傷に眉を顰め痛々しそうに傷を見つめていた。
何とか血が止まったその傷に塗り薬を塗ると痛むのか小春は小さく息を呑んだ。
そんな小春に夏目は小春を見ずポツリと呟いた。
それは心配していたからの言葉だったが、小春はその夏目の声が少し低く責められていると思ったのか肩を落としショボンとさせながら謝る。
声に元気がない妹に夏目は少し言い方がきつかったことに気づき気まずげに謝る。


「ぁ…ご、ごめん、怒っている訳ではないんだ…でも心配なんだ…」

「うん…ありがとう、お兄ちゃん…」


普段夏目に甘やかされている小春からしたら低い兄の声など向けられた事がなく、怒っているのだと思ってしまう。
小春は怒っていないという兄にホッと安堵の息をつき、心配してくれた事をお礼を言った。
小さくも笑った小春に夏目もまた安堵の息をつき、出来るだけ痛くしないよう傷薬を塗っていく。
2人のやり取りを見て斑は『その言葉お前に返したいわ』と夏目に向かって心の中でそう呟いていた。
無茶をしているのは何も小春だけではないのだ。


「お。起きたか?」


小春の傷にクスリを塗った後包帯を見ていると視線を感じた夏目は机の方を見る。
そこにはタオルの上で眠っていた毛玉がおり、毛玉は目をぱちくりさせていた。
どうやら気が付いたようでジッと夏目と小春を見上げており、夏目はそれに気づき安心させるよう笑顔を浮かべた。


「それ、人間の傷薬だから効くかどうか分からないけどな…一晩休んだら帰るんだぞ?」


会話ができないため言葉が通じるかは分からないが、言わないよりはいいだろうと思いとりあえずは毛玉に語りかける。
語りかける夏目を毛玉はジッと見つめているとしばらくすれば隣にいる小春へと目線を送り、また夏目と小春を見上げる。
鳴くこともなく自分達を見上げる毛玉が可愛くて夏目と小春は笑みを深めた。

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