小春はふと意識が浮上しゆっくりと瞼を開ける。
視線の先には自分の包帯を巻いている手が兄の手を下敷きに重なるように置かれており、もう片方の手も兄の手が覆うように握られていた。
握られている手を見て小春は昨日の夜の事を思い出した。
兄の手は怪我している方の手に触れていたのに、いつの間にか両手とも握られており、小春は見ていた夢の事も思い出す。
(お兄ちゃんが助けてくれたのかな…)
助けて、と言っても危機感もなかったが、あの門の先にはあまりいい感じはしなかったのは確かだ。
何がいけないのかは小春には分からず、なんとなく、の感覚で小春自身もはっきりとは言えない…そんな曖昧な夢だった。
だから小春は兄が止めてくれた気がしたのだ。
後ろへ振り返れば兄はまだ眠っており、夜遅くまで妹の自分の手を取って握ってくれたようである。
「起きたか、小春」
ジッと兄を見上げていると隣の小春の布団で眠っていた斑が声を掛ける。
小春より先に目を覚ましたらしい斑に小春は兄を起こさないよう小声で『おはよう、先生』と呟けば斑は『ああ』とだけ返ってきた。
そんな斑に慣れた小春は時計を見た。
「ち、遅刻する…ッ!!」
その時計の針はいつも起きる時間よりだいぶ進んでおり、小春は兄が寝ているうんぬんは頭にポーンと抜け落ち、ガバリと起き上がった。
「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!起きて!!学校遅刻しちゃう!!」
今日は平日なため当然学校はある。
まだ眠たいが、サボるわけにはいかないため小春は隣に寝ている兄の肩を揺すって起こそうとする。
小春に起こされた夏目も時計を見て慌てて着替えをしカバンを持って慌てて一階へと降りていった。
「「おはようございます!!」」
寝坊した2人は急いで着替えて下へと降りて行った。
ドタドタと降りてきた2人に滋と塔子は目を丸くして驚きながら朝の挨拶を返す。
「寝坊か?」
「珍しいですね」
いつもなら余裕を持っている2人がこんなに慌てる事が珍しくて滋と塔子は切羽詰まりながら忙しく動く2人を愛で追っていた。
流石兄妹と言うべきか、夏目と小春は同じタイミングで焼いていた食パンを咥えていた。
行儀悪くも立ったままだが時間も迫られているので許してほしいところだ。
塔子は咎めることせず忘れそうなほと慌ただしい2人に弁当を持って渡してやる。
夏目の弁当の包みのハンカチは男の子らしい青、そして小春の包みのハンカチは女の子らしいピンク色だった。
その色は夏目と小春が希望したわけではなく塔子が決めている。
やはり長い間子供がいなかった事もあり塔子は2人の物を買うのが楽しいのだろう。
特に子供の服を選んだり一緒に買い物をするのが塔子にとって憧れでもあった。
「あら、右手どうしたの?」
弁当をそれぞれ渡した塔子は小春に弁当を渡した際包帯を巻いているのに気づく。
小春の右手には妖の棘で刺さった怪我のため包帯が巻いてあり、小春は塔子の問いに初め言葉を詰まらせながら『昨日、カッターでちょっと…』と濁らせて誤魔化した。
その誤魔化しを信じた塔子は『気を付けてね』と心配そうに返し、ふと包帯が緩んでいることに気づく。
「あらあら包帯が緩んでるじゃない」
「あ、ありがとうございます…」
包帯を巻きなおしてくれる塔子に小春は気恥ずかしく感じながらも心は暖かくなり照れながら塔子にお礼を言った。
小春が照れている姿を塔子、滋、夏目は微笑みを浮かべ暖かい優しい目で見つめていた。
「ってほのぼのしてる場合じゃない!!!」
今、藤原家はほんわかな空気が流れている。
――が…忘れていけないのが時間だった。
夏目は顔を赤くして照れている妹を目を細め見つめていたがふと壁にかけ掛けてあった時計を見てハッと我に返った。
兄の言葉に小春も我に返り小春と夏目は手に持っていた食べかけのパンを口に咥えながら玄関へと向かって走っていった。
玄関で靴を履こうとした小春だったが『あ!あの子忘れてた!!』と毛玉の事を思い出し急いで二階へ上がり傷に響かないよう優しくかつ急いで兄のもとへと戻り外へと出た。
向かった先は毛玉と出会った場所。
カラスが待ち構えているという心配もあったが様子を見る限りではカラスの気配も影もなく夏目と小春は毛玉をそっと木の枝に乗せてやる。
「よし、血も止まったな…もうカラスにいじめられるなよ?」
「じゃあね」
背の高さもあり小春の手から夏目へと移され毛玉は木の枝に飛び乗った。
夏目と小春にそう注意されつつやはり毛玉は何も鳴かずずっと2人を見ているだけだった。
それでも夏目と小春は笑みを絶やさず別れを告げたのだが、別れの際伸ばされた2人の手に毛玉は擦り寄ってきてくれた。
それだけでも嬉しく感じ、夏目と小春は笑みを深める。
毛玉と別れた小春達はそれから死に物狂いで走り、遅刻すれすれに学校へと到着したという。
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