夏目が離れたことに気づかない小春は呼び続けても顔も出さない毛玉にため息をついていた。
「こんだけ呼んでも出てこないなんて…もうここにはいないのかな…」
「それもあり得ない事ではない…しかしあれだけいる中でどうやってあいつだと見分ける気だ?」
「そんなに毛玉いたの?」
「ああわんさかとな。」
小春は奈々と帰ったためその集団を見ていない。
だから夏目と斑の言葉を聞いて想像するしかなかった。
正直あんな可愛い毛玉が沢山いると思うと可愛いモノ好きとしては一度でもいいから見てみたい気はするが。
「しょうがない…大変だけど一匹一匹指輪が引っかかってないか見るしかないかなぁ」
「何とも地味かつ苦行だな」
「うん…想像しただけで疲れそうだよ……ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんは………、…お兄ちゃん?」
斑と話しをしている間夏目の声や足音はなく、小春は不思議とそれを不思議に思わなかった。
それは斑も同じだったのか小春が兄に話しを振るまで夏目がいなくなったことに気づかなかった。
小春は兄の姿どころか気配もない事に焦りを覚える。
ここには動物だけではなく妖も多いのだから。
「ど、どうしよう!!お兄ちゃんがいない!!」
「ええい!なんであいつはジッとしてられんのだ!!」
夏目兄妹は両方とも目を離すと離れる癖があるが、その筆頭が夏目だった。
が、どちらかと言えばどっちもどっちであるが、今日は夏目が突っ走っているようで斑はきっと毛玉を見つけ一人追いかけてしまったのだろうと夏目を探そうと来た道を戻ろうとした。
しかし丁度その時、聞き慣れた声に引き止められた。
「夏目ー!小春ー!!」
声の方へ振り返るとそこにはヒノエと中級達がいた。
ヒノエ達はこちらに駆け寄り、小春も斑も夏目を捜索しようとしていた足を止める。
「丁度よかった!実はあの妖は危険なんだよ!お前達は早くここから離れた方がいい!」
「ヒノエ!お兄ちゃん見なかった!?」
駆け寄ってくるヒノエに小春は兄を見なかったかと聞き、同時にヒノエも何かを言いかけた。
2人の言葉は重なり、重なる言葉に小春もヒノエも『えっ』と目を丸くする。
「夏目がいなくなったのかい!?」
「あの妖知ってるの!?っていうか危険ってなに!?」
一瞬静けさが落ちたが、また2人の言葉は重なった。
それでもお互い何を言っているのかギリギリだが聞こえた2人はまた口を閉じてしまう。
『とりあえず落ち着け』という斑の言葉にまた同時に口を開きそうだった2人は開いていた口を閉じる。
このままではまた同時に言いそうなので斑が『まずは小春から言え』と主導権を握り、斑の言葉に小春は頷きヒノエへ顔を上げる。
「ヒノエ、あの妖知ってるの?」
「ああ…あれは『カル』っていう妖さ」
「カル…?」
小春の問いにヒノエは頷いて見せ、小春は毛玉の名前を初めて知った。
そして同時にヒノエから毛玉の恐ろしさも知る。
『カル』という妖は集団で渡り鳥のように旅をしている幻の妖らしく、カルはとても食い意地が張って各地の妖を食い漁っているとも言われている噂があるらしい。
本当か、噂か…あの毛玉だって妖だから人や妖を食べることもあるかもしれないが、今は嘘なのか本当なのかを考える暇はなかった。
「まずいね…小春は斑がついているからいいが、逸れた夏目が危険かもしれない!人の子が一人でカルの群れに出くわしてしまったら…!!」
「―――ッ!!」
危機が迫っているからか斑の今の姿に気づいていないヒノエの言葉に小春は息を呑んだ。
そして考えるよりも先に体が動き走りだす。
「小春様!?どこに…!」
「駄目だ!小春!!お前まで一人になるんじゃないよ!!」
「ええい!誰かあいつらに首輪をつけろ!!!」
兄の気配など察知できるほど小春は人間離れしていない。
しかしジッとしていられず小春は闇雲に走る。
闇雲に走っても無駄だと知っているのに今はその考えすら至らなかった。
とにかく夏目を見つけなければ…夏目の姿を遠目でも見たい…小春はそればかり頭に浮かんでいた。
するとどこからか兄の声が小春の耳に届き、小春は無我夢中でその声の方向に向かって走る。
「!――お兄ちゃん!!」
暫く走っていると兄はカルの集団に埋め尽くされ、小春は慌てて傍に駆け寄る。
「――ッ!」
小春が近づいたのに気付いたカルは数匹夏目から離れ小春に威嚇をする。
だがそれでも小春は夏目を助ける事しか頭になかったためカル達の威嚇などで引き下がることはなく逆に向かっていく。
そんな小春にカル達は毛を逆立てながら飛び上り小春に向かっていこうとした。
だが、その向かってくるカルの身体が小春に当たる事はなかった。
「小春!!夏目!!」
小春が兄同様カルに覆い尽くされるよりも早くヒノエ達が到着し、ヒノエ達は持っていた松明で夏目に群がっているカル達を追い払う。
「夏目様!小春様!ご無事ですか!?」
夏目に群がり小春に襲い掛かろうとしていたカル達はヒノエ達の追い払いに攻撃もせずあちこちへ逃げていく。
ヒノエ達はそれらを追うことなく小春と夏目に駆け寄る。
小春も露わになる夏目の姿に駆け寄り、心配そうに兄を見下ろしていた。
夏目は気が遠のいていたのか全身に追った傷の痛みに小さく声を零しながら起き上がり、心配そうに見つめてくる妹に小さく笑ってやる。
笑う気力はあるらしい夏目に小春は少しだけホッと胸を撫で下ろす。
「怪我は!?」
「いや、今のところは大した怪我もないよ」
「お兄ちゃん、あの子達に刺された?」
「それは大丈夫だ…どちらかと言えば噛みつかれたかな…?」
「えええ!?か、噛みつかれた!?大丈夫!?」
カルには毒があるというのは小春本人が体験しているためそれを心配していると夏目から出てきた『噛みつかれた』という言葉に小春は思わず声を上げて驚いた。
夏目は驚く妹に『まあでもたいしたことはないと思う』と安心させようとして言うが毒のある妖に噛みつかれたと聞いて安心できる人はいないだろう。
「とにかくここから離れよう…またカル達が戻ってくるかもしれないしね」
ほのぼのとさせる兄妹にヒノエはそう言い、ヒノエの提案に夏目と小春は立ち上がった。
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