場所を移し、小春は傷だらけの兄にハンカチで傷を拭っていた。
傷と言ってもかすり傷にもならないほどの軽傷だが、血は滲んでいた。
心配そうに自分の傷を拭いてくれる妹に夏目は笑みを浮かべ『ありがとう、もう大丈夫だよ』と言ってやる。
まだ不安は残るが兄の笑みに小春も釣られたように笑い、ほっとした息を突き兄の隣に座り、兄の温もりを感じるように夏目の肩に頭を預ける。
寄り添う兄妹を見守った後、ヒノエは小春と夏目のそばにいるブタ猫…もとい、斑を見下ろす。
その目は呆れていた。
「まったく…用心棒がなんてザマだい」
「うるさい!私とてこの札がなければあんな小物…!!うぅ…くそっ!何度やってもはがれんわ!鬱陶しい!」
「ああ、だめだよ、先生…毛も沢山抜けちゃうよ…」
自称用心棒と名乗っているくせして役に立たない斑にヒノエは呆れた。
その目線にムッとさせながら斑は顔半分を覆っている札を取ろうとするも中々強力で取れない。
小春は無理に取ろうとし毛が抜けてしまうと注意し止めさせるため、砂袋の斑を抱き上げ膝の上に乗せて背中を撫で宥める。
その効果があってか札を取ろうとするのを止める。
そんな小春にヒノエは溜め息をついた。
「毛の心配してる場合じゃないだろ小春」
「えーでも…」
「そうですぞ!光らぬ豚猫などただのブサ巨顔足短豚猫ですぞ!」
「何ィ!?」
招き猫バージョンの斑なら怖くないのか、上級の妖だというのに酷い言いぐさである。
小春の膝の上から短い足をシャッシャッと出すが、警戒心が高い猫でしか見えないため、怖くもない。
そんな斑を見た後ヒノエは溜め息を呑み込むように煙管を咥え煙を吸い込み溜め息交じりに吐き出し、夏目を見た。
「とにかく、斑がそんなでは迂闊に手出ししない方がいい…今回は助けてやれたが次も助けれるかは私も分からんからな…」
「そうは言っても…」
ヒノエは近づくなと警告する。
だが、夏目の脳裏にはアマナとの約束もあり、その約束を破ればここ一帯は焼け野原となる。
そして次に脳裏に浮かんだのが藤原夫妻、西村や北本、田沼、多軌…などの親しい人、そして…隣に座る唯一の妹、小春。
その人達を守るにはその助けたカルを見つけて指輪を返さなければならない。
だからヒノエの忠告は受け入れることはできなかった。
「すまないが俺一人じゃどうしようもない…しばらく力を貸してくれ」
人間の力で敵う相手ならば誰も巻き込まなくてすんだ。
しかし今回はカルの数が多すぎるし、カル自体小さく、その指輪を持っているカルを見つけるのが2人と一匹では難しいと夏目は判断した。
この一帯を焼け払うという危険な妖を相手に妹を守りきれるかも分からない。
だからダメ元でヒノエや中級達に助けを求めたのだ。
ヒノエは夏目の言葉にフンと鼻を鳴らしそっぽを向いた後…ニヤリと笑い夏目に抱き付いた。
「ふん…素直なお前は……気持ちが悪いね〜!!」
「おまかせください!夏目様!小春様!!我々が光らぬ三毛ブタに代わりお守りいたします!!」
「騙されるな夏目!小春!!こんな下心見え見えに騙されるな!!」
ヒノエ達の協力も得て、自称用心棒の代わりも得て、夏目と小春は指輪をひっかけたカル探しに出かけた。
小春も夏目も中級達が背中に差してある『夏目ご兄妹様に恩を売る会』というのぼりは見なかった事にした。
―――それから2人はヒノエ達と共にカルを探す。
それは薄暗くなるまで続き、妖達に聞いて回っていた2人にヒノエが帰るように勧める。
「夏目、小春…あとは私らに任せろ」
「でも…」
「ここらでも夜には質の悪い奴らが出てくる…どうせ昨日もろくに寝てないんだろ?探しといてやるから帰りな」
「……分かった…」
八ツ原も平和そうに見えても、やはり質の悪い妖もいるようで、ヒノエの言葉に甘え夏目と小春は帰る事にした。
小春も兄の後に『ヒノエ、中級、ありがとう…あとお願いね』と手を軽く上げて続き、2人は斑と共にいるべき場所へと帰っていった。
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