家に帰れば夕飯の支度をしていた塔子に見つかり、心配をかけていたようで汚れている2人を見て慌てていた。
着替えるよりも風呂に入って綺麗にした方がいいと言われ、夏目は先に小春を斑と入らせ、自分はあとで入った。
シスコンが一番妹を狙っている斑と小春を一緒にお風呂に入る事を許しているのは、まだ小春が妖を怖がっている事と、招き猫の姿だから、という理由からだった。
丁度お風呂から出た時に滋が帰り夕飯となり、小春と夏目は藤原夫婦といつもの楽し気な食卓を囲む。
だが、だからこそ、アマナの指輪を探し、この一帯を…この家を焼かれないようにしなければならないという気持ちが強くなる。
「―――ぃっ…!」
「!――小春?」
お腹も満腹となりゆっくりゆったりとしていると、眠る時間となった。
明日は休みではないため学校を行って、その帰りにヒノエ達と一緒にカルを探しに行こうと予定を立てながら窓を少し開けてカーテンを閉めていた夏目の耳に小春の小さい声が聞こえ、振り返る。
小春の声は布団を捲ろうといた際、手の平の傷で痛みが走った時に出たようで小春は包帯を巻いている手を庇うように胸に抱く。
夏目は痛そうに眉を顰める小春に慌てて歩み寄る。
「大丈夫か?」
「う、うん…ちょっと痛かっただけだから…」
「でも傷が開いたかもしれないだろ?ほら、見せてみろ」
夏目は小春の手を取り包帯を解いて傷口を見る。
傷はそれほど大きくはないが、カルは人にとって有害だったらしく傷の治りが遅い。
傷口を見れば開いてはいないが、包帯には少しだけ血が滲んでいた。
夏目はそれを見て慌てて救急箱を取り素人なりに治療して新しい包帯へと巻き直す。
『これでよし』と満足げで過保護な兄に小春は苦笑いを浮かべてしまうも、不意に兄もカル達に襲われていたのを思い出し、今度は小春が慌てる番だった。
「そ、そう言えば…お兄ちゃんもあの子達に襲われてたよね!手当しなきゃっ!」
「ああ、俺は大丈夫だ…ヒノエ達がすぐに来てくれたから刺されたとかないよ」
あの兄の姿を覆い隠すか如く大量にカルに埋もれる兄の姿を思い出し小春は慌てた。
まだ蓋が開いている救急箱に手を伸ばそうとする妹の手を優しく取り、夏目は首を振って答えた。
夏目は確かにカルに襲われはしたが、その時は襲われたばかりでまだ傷を負おうことはされておらずほぼ無傷に近い。
それを聞いて小春はホッと安堵の息をつき、安心したように笑みを見せてくれる。
夏目はその妹の笑みに一帯を焼かれるという不安が吹き飛んだ気がした。
「じゃあ、もう寝ようか…明日は学校だし、放課後はヒノエ達と一緒にカルを探そう」
夏目の言葉に小春も頷きながら、兄に手当てをしてくれた事をお礼を言ったと布団へと潜り込み、夏目も電気を消した後それに続く。
イカと酒を嗜んでいた斑も小春達が布団に入ろうとしたのを見て小春の布団へと歩み寄るのだが…
「きゃあっ!!」
「!!―――小春!?」
「どうした!小春!!」
小春は布団に入りぬめりとした物を感じ、思わず驚いて叫んでしまい手で触れて見る。
真っ暗でも何かがついているのが見え、小春の叫び声に飛び起きた夏目は電気をつける。
明るくなり、小春は手についた物を見る。
それは――…
「ち、血!?」
真っ赤な液体だった。
それを見て思わず小春は血だと思った。
手の傷が開いたのかと思うも赤いそれがついた手は包帯が巻いていない手だった。
その手には赤い何かがついていたが、それは血より薄い赤色だった。
数秒手についたそれを見て小春は血ではないのに気付く。
「あれ…これ…血じゃない…」
小春の手についているのが赤い色をしているのを見て、夏目も一瞬血だと思った。
当然その血は小春のだと思い夏目はぞっと背筋に冷たい何かが走った。
自分の知らないうちに怪我を負ったかと思ったが、小春の呟きに血ではないと気づき、小春の布団を捲った。
小春の布団を捲れば敷布団に真っ赤なシミが広がり、その中に赤い色の粒のようなものが何粒か置かれていた。
まだ潰れていない粒を一粒摘まみ、目の前に持っていけばその正体が分かった。
「これって、木の実か?」
「木の実?なんでこんなところに…鳥でも入ってきたのかな…」
まだ暑さが残る時期なため、窓は基本開けっ放しである。
田舎だから緑も多く、時折鳥が迷い込んでくることもある。
だから鳥が木の実を隠そうと布団に潜り込んだと思ったのだが、どうやらそれは違うらしい。
斑もその木の実を器用に猫の手で取り匂いを嗅ぐ。
「む…これは赤笹の実だな…」
「え?」
「赤笹の実…?」
「妖の間では毒消しとして有名だ」
「毒消し?何でそんなものが小春の布団に…」
その木の実は妖が食べる実らしく、効果は毒消しだという。
毒消し、という効果に夏目も小春もどうして小春の布団に入っているのかと首を傾げかける。
だが、2人の脳裏に白くフワフワしたカルを思い出し、ハッとさせる。
「お兄ちゃん…ひょっとして…あの子が持ってきたのかな…」
「ああ!もしかしたらまだこの部屋にいるかもしれない!!おーい!いるのか!?」
小春の言葉に頷き、夏目は周りを見渡しカルを呼ぶ。
どんなに叫んで見つけよと部屋中をくまなく探し回るが、やはり白い毛の塊は見つからなかった。
疲れたのか夏目達はぐったりと倒れる。
「い、入れ違いか…」
「ま、まあ、奴とは限らんからな…」
結局見つからず寝直す事にした。
この毒消しが確実にあの助けたカルだという証拠はないが、夏目も小春もこの木の実はあのカルが持ってきたのだと思っており、二人とも可愛い恩返しにクスリと微笑む。
小春はまだ潰れていない粒を一粒手に取って口に入れて食べる。
木の実だから果物のような甘さはないが、酸味の中にほんの少し甘さが感じられ不味くはない。
一粒食べた後、残りはティッシュを敷いてその上に置き、潰れて色が染み込んでいるのは塔子に誤魔化して何とか洗ってもらおうとある程度ティッシュでふき取る事にした。
「もし、この木の実を持ってきてくれた子があの子だったら…あの子は群れにも戻らずずっとこの実を探してくれてたのかな…」
「かもしれないな…」
「あんな小さい体であんなに広い森の中……せめて名前くらい付けておけばよかったかな…」
もう一粒口に入れながら小春はポツリと呟く。
小春と夏目の中ではすでにあの助けたカルがこの木の実を持ってきてくれた事になっているが、もしそうならば愛着が湧いてもいいから名前くらいつけてあげればよかったかな、と思う。
そう小春が零せば斑が短い足を上げて挙手する。
「お!よし!じゃあモサモサだから『モサ』だ!!」
「却下!モサって…猛者かよ…」
「じゃあお前はなんてつけるんだ!?」
「え、俺?…『毛玉』、とか…」
「それはお前芸がなさすぎだろ!!もっと動物を愛せ!むしろ私を愛せ!!」
「じゃあポワポワのボール玉みたいだから 『ケマリ』でいいんじゃないか?」
「安直!!お前のネーミングセンスは安直すぎぞ!!!あと私を無視すんな!!」
「あっ!じゃあ、はい!!『毛太郎』は!?お兄ちゃんの言う通り毛玉みたいだし!」
「「却下!」」
「えーー!!」
モサ、毛玉、ケマリ、毛太郎…この場に普通のセンスの人間はいなかった。
結局名前は『ケマリ』で決まった。
小春は2人同時に却下されショックを受けたように項垂れる。
「さ、寝よう。」
「…うん」
項垂れる小春を見て正直シスコンである夏目は負けそうになる。
だが管太郎に続きここで負ければ多分一生この先名づけ親は小春になるだろう事は予想していた。
だからここは心を鬼にした。
夏目は小春に一緒の布団で寝るよう言う。
それに小春は何の疑問も持たず承諾し、夏目の布団で一緒に寝ることにした。
それほど大きなシミではないが、まだ新しいためパジャマにも色が移ってしまうし、汚れた(と言ったらあの子には悪いが)布団で小春を寝かせたくはないと思ったからである。
この兄妹にとって、一緒の布団で寝る事なんて何の問題なく、抵抗もない。
夏目が電気を消し、お互い『おやすみ』と言い合い目を瞑っていると、不意に物音が2人の耳に入る。
小春が目をパチリとさせれば真っ暗な世界が広がる。
仰向けで眠っていたためか暗闇に慣れてきた目には天井が見えた。
しかしふと何かの違和感を感じた。
それはいつも見る真夜中の天井の隅に何か白い物が浮かんでいるのが見えた。
そちらを何気なく目をやればそこには……いたのだ―――あのカルが。
「「いたーーーーっ!!!」」
「フギャッ!?な、なんだ!?なんだ!?」
小春は助けたケマリだと認識した瞬間、飛び起きる。
それは夏目も気づいていたのか小春と同じタイミングで叫び声も重なっていた。
斑はうつらうつらと眠りの世界へ誘われかけていたのか、2人の叫び声に起こされ混乱していた。
ケマリも2人の声と見つかったというのもありビクリと体を震わせた。
驚き逃げようとする毛太郎に夏目は慌ててケマリを引き留める。
「良かった…小春に毒消しを持ってきてくれたのはやっぱりお前だったのか…」
「そっか…ありがとう、ケマリのおかげで痛みが消えたよ」
ケマリは夏目の言葉に動きを止めた。
ケマリは表情がないため何を考え夏目と小春の言葉をちゃんと理解したかは分からないが、話しを聞いてくれているのは分かる。
小春はケマリが怖がらないようそっとケマリに手を差し出す。
「ね、ケマリ…こっちに来てくれないかな……多分だけどね、あなたの体に赤い指輪が絡まっているの…それを持ち主に返さなきゃいけないの…触れられるのは嫌いかもしれないけど…どうしても必要なの…ね、お願い、ケマリ」
「………」
小春は出来る限り優しい声でケマリに声をかける。
ケマリは動じないように思えたが、数秒後、ふわりと隅から小春の手へと降りてこようとした。
しかし…
「夏目様!!小春様!!大変ですぞ!!八ツ原で…」
窓から中級達が現れ、声の大きさと突然の訪問によってケマリは驚いてしまい、暴れまわる。
ここに連れてきた時のようにケマリはあちこち飛び回り、夏目は小春を庇おうと手を伸ばす。
「いっ…!」
「―――!!」
小春も夏目もケマリを落ち着かせようとケマリの名前を呼ぶが、夏目が庇う前にケマリは小春の頬に傷をつけてしまう。
小春の小さく零れた声にケマリは気づき、一つ目の頭を台にして外へと逃げてしまった。
「小春!大丈夫か!?」
「う、うん…かすり傷だから大丈夫…それよりケマリを追わないと…!!」
小春の傷が掠り傷程度だと知りホッとした夏目は小春の言葉に頷き二階の窓から外へと出る。
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