次の日、夏目と斑はお堂辺りへ向かう予定だった。
妖たちを襲ったのが人かもしれないという斑の言葉が逆に夏目の決意を固くしたのだ。
「お兄ちゃん…やっぱり、駄目?」
しかし小春はこの日奈々達と予定があったため、夏目からついて行くの却下されてしまった。
本当は小春も兄が危険な事に関わろうとしているのを傍で見ていて自分だけが安全な場所にいるなんて事はしたくないとついて行こうとした。
しかし数日前から奈々、リン、薫と今人気のカフェに行く予定だったのを思い出したのだ。
小春としては友人と兄と比べることができないくらい両者共に大切だが、どちらかと言えば兄の方が大切だったため黙っていた。
後でいけなくなったと謝ればいいと思って黙っていたのだが…夏目もその事を思い出したのだ。
嬉しそうに『ここのね、カフェに奈々ちゃんたちと行くの』雑誌を見せて報告してきた妹を思い出した夏目は、当然ついて行くことを却下した。
しかし小春も小春で頑固だった。
次の日になっても小春はついて行こうとしており、出かける今だって夏目の服をちょこんと摘まんで上目遣いで兄に問いていた。
夏目は諦めない妹に苦笑いを浮かべる。
「ごめんな…でも奈々ちゃんたちに悪いだろ?」
「それは…そうだけど……でも…私もついて行きたい…お兄ちゃんだけ危険な目に合わしたくないもの…」
首を振るしょんぼりとする妹の頭を夏目はポンと手を置いて優しく撫でる。
妹の気持ちは兄としてとても嬉しいが、正直夏目は兄として小春がこの事件から外れてくれた方が安心できた。
離れて行動するのは寂しさはあるがどちらかと言えば小春がこの日友人との約束があったのには喜んでいたのだ。
夏目は小春の気持ちを重視してるし、自分が小春を巻き込んだなんてもう考えず、一緒に乗り越えようと思っているが…それでもあんな血生臭い事件に可愛い妹を巻き込ませたくなかった。
無理だろうけど今日中に終わらせて小春を遠ざけたかった。
「気持ちは嬉しいけど、やっぱり友達は大切にしないと…やっと出来た友達だろ?」
「うん…」
「それに奈々ちゃんは小春が妖を見えるって知っても友達でいてくれる子だ…大切にしないと…な?」
「うん…分かった…」
それに夏目は小春に友達が出来たこともまた嬉しいのだ。
幼い頃小春も見えるために虐められることが多かった。
母も父も息子と娘が妖が見えるが故に友達も作れず兄妹でいる時間が多い事に心配そうにしていた。
その後影鬼に全てを奪われずっと今まで学校にも行けず病院のベットに縛り付けられていたから今の小春の変化が自分の事の様に嬉しかった。
だから自分よりも友人たちを優先してほしいし、だからこそこんな事件に妹を巻き込みたくなかったのだ。
それを言えば小春は怒ってしまうが、夏目は心から小春の幸せを願っているだけである。
兄の言葉にやっと納得したのか服を摘まんでいた手を放す。
しかし顔は俯いてしまい、沈んでいた。
元気のない小春に夏目はそっと俯く小春の両頬へ手を伸ばし、痛くないよう優しく顔を上げさせ、そっと小春の額と自分の額をくっつけた。
「小春…そんな顔しないでくれ…一生の別れでもないだからさ」
「………」
「そんな悲しそうな顔小春には似合わないし、奈々ちゃんたちも一緒にいて楽しくないだろう?それに、小春が悲しそうな顔をしていたら俺も悲しくなってしまうんだ…だから笑ってくれ…小春には笑顔が一番似合うんだから…」
「お兄ちゃん…」
事の重大さは小春も分かっていた。
話にしか聞いたことがないから夏目ほど衝撃はないが、妖を殺すほど傷つけ血を取るなんて普通は考えない。
夏目と小春だってそんな考え今まで思いつかなかった。
だから余計に兄が心配だった。
妖ならまだいい。
相手が妖なら兄の妖力がこもっているパンチで大体どうにかなるし、用心棒の斑がいるから安心できる。
だけどもしかしたら相手は人間かもしれないという疑惑が浮かんでしまったために小春は心配でならなかった。
だけど、兄にそこまで言われてしまえば何も言えず、小春はぎこちないが兄の願い通り笑みを浮かべた。
ぎこちない笑みに夏目も笑みを浮かべ、包んでいた小春の頬を擦って撫でた。
****************
兄よりも遅く、小春は奈々達と待ち合わせしている場所へと向かい、小春は奈々達4人で話題になっているカフェへと向かった。
最近雑誌やテレビでも取り上げられているという事で人も賑わっており、小春達は丁度タイミングよく待たずに入れた。
女の人が多いせいか周りの話声が大きく、自然と小春達も声が大きくなっていた。
「―――でね、その時の顔が面白くて面白くて…」
「へえ〜…見てみたかったなぁ…」
「そういうのってさ、動画取ってたらテレビでやってるハプニング集とかに送れば採用されるんじゃない?」
小春は兄の言う通り笑顔を浮かべてリンや奈々や薫の話を聞いていた。
ふむふむと頷きながら、時折話にも入ったりといつも通りを装っていた。
装いは成功しており、小春の内心は三人に気付かれていない。
小春は笑っているがやはり考えるのは兄の事ばかり。
心配すぎて話について行こうとしてもなかなか頭に入らなかった。
「小春?どうしたの?」
「え?な、なにが?」
「いや…なんかぼうっとしてたから…」
小春はいつの間にか考えこんでいたようで奈々に声をかけられているのに気づいていなかった。
奈々の声にハッと我に返った小春は慌てて表情を作る。
誤魔化すように笑う小春に奈々は先ほどからぼうっとしていた事を伝えた後、『熱でもあるの?』と小春の額に手を当てる。
だが、熱どころか微熱もなく、体調が悪いというわけではなさそうだった。
小春は心配そうに見てくる奈々、リン、薫に『えっと』としどろもどろとどう言い訳をしようか考える。
しかし中々考えが纏まってくれない。
「……あの…奈々ちゃん、リンちゃん、薫ちゃん…私…用事があって…その…」
「用事?なんだ、だったら最初から言ってくれればいいのに…」
「…ごめんね…」
「何謝ってるの?私達に気を使ってくれたんでしょ?でも今度からはちゃんと最初から言ってね、そんなことくらいじゃ怒らないからさ」
「…うん」
結局小春は友人たちよりも兄を取った。
自分の知らないところで今も兄が傷ついていると思うと居ても立っても居られないのだ。
詳しい事は話さず用があるだけしか言わず、それでも奈々達は不快そうにはしていない事にホッとしながら自分の分のお金を奈々達に渡して小春は店を出る。
兄がどこに行ったかは分からないが、兄が言っていたお堂にまず行ってみようと思い、昨日夏祭りをしていた場所へと向かった。
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