(4 / 13) 18話 (4)

カフェは隣町にあり、小春は一人電車に乗って帰ってきていた。
探すには小春のオシャレした格好は不向きだが、家に一度帰って支度し直す時間さえ今は惜しく感じる。
小春は焦っていた。
話を聞いているだけでぞっとする光景を一度夏目は見ており、更には襲われ顔も見えなかったとはいえ犯人と一度接触しているから危険は小春よりある。
小春はとにかくあの夏祭りがあった場所まで行こうと走って、お堂まで行って、そこで兄がいなかったらそこでまた考えればいいと思いながら走る。


「小春ちゃん!」


お堂を目指そうとしたとき、後ろから声をかけられ小春は振り返る。
そこにいたのは…


「名取さん!」


表向きは芸能人としてテレビに引っ張りだこでありながら裏の顔は祓い屋である名取周一だった。
小春は名取の姿に目を丸くし立ち止まる。


「良かった…夏目は?」

「それが…私今日友達と遊んでて別行動で…」


名取も裏の仕事で来たらしく、小春の傍に夏目や斑がいないことに不審がる。
名取が会う時はいつも一緒だから違和感を感じたのだろう。
小春は友人と会っていた事や、兄の事が気になって途中で切り上げた事を伝え、名取は『なるほど』と零す。


「実は私も夏目のところに行くところなんだ」

「えっ…!?」

「ちょっとひっかかってることがあって夏目を探していたんだ…そしたらさっき飛ばした式に夏目が引っかかったみたいでね…そこへ向かう途中だったんだ、だから小春ちゃんも…」

「行きます!!」

「あ…う、うん…行こうか…」


名取も夏目を目指して走っていたらしい。
人型の紙を飛ばして情報を収集していると数枚のうちの一枚が夏目に引っかかったらしい。
それを伝え一緒に行くかと小春に言おうとした名取の言葉を小春は先回りして頷いた。
相変わらず突っ走り気味な小春に名取は苦笑いを浮かべた。



****************



夏目はその日、斑と二人で情報を集めていた。
妖たちに聞いても知らないという者が多く、ようやく情報を得たのは馴染みの河童だった。
相変わらず川から離れて干からび寸前な河童に水を与えダメ元で情報を聞くと、河童は一度妖が襲われている場面を出くわしたという。
幸いにも隠れて無事だったらしく、夏目はその情報の中に『襲われている妖をじっと見ている着物を来た男が見ていた』という情報も得た。
その男はまさに夏目が危惧していた『人間』だったのだ。
そして、夏目はまさに妖が襲われているところを遭遇することになる。
しかも襲われているのはお堂で助けてもらった女の妖だった。
考えるよりも体が助けに向かい、会ったのが…―――的場という人間の男。
その男とは初対面だったが、名前を聞いたとき既視感を感じ不思議に思った。
だが、男は味方ではないようで話を聞かせてくださいと言いながらも式神らしいものを夏目に差し向けた。
そのピンチをまた女の妖に助け出され、そして飛んできた名取の紙人形に鼻をくすぐられくしゃみした拍子に夏目は女の妖と斑と共に落下したのだ。
襲われて怪我も負っていた女の妖は気を失ってしまい、夏目は女の妖を引きずって廃屋に身を顰めることにし、今さっき紙を飛ばしたであろう名取に文句を言いに斑は夏目を残し廃屋を出ていく。
斑に下手に動くなよと忠告された夏目は大人しく斑が来るまで待つことにした。


(小春を連れてこなくて正解だったな…妖を使って襲わせる人と小春を会わせたくない…ましてや何のためかは分からないが死ぬまで妖の血を取る人なんて…)


改めて犯人らしき人物と会って、夏目はこの場に妹がいなくてよかったと思った。
希望としては今すぐ問題を解決し早く妹の傍に帰りたかった。


(でも…あの的場って人は一体…)


怪我をしてたのに運んでくれた妖の看病をしながら夏目は先ほどあった的場という事物を思い浮かべる。
同じ祓い人である名取とは少し違った雰囲気を持つあの的場という男の事を考えていると背後にカタリという音がし、夏目は振り返る。
そこにはあの的場が自分に差し向けた式神がいた。


「―――ッ!!」


夏目は目を丸くしながら手を伸ばし捕まえようとする式神から紙一重に逃げる。
どうやら目的は自分を捕まえる事らしく、横になっている妖には目もくれない。
妖に危害を加えないなら自分がここから逃げた方が妖は安全だと判断し外に逃げようとする。
しかしあと少しで扉だというのにその扉を同じ的場の式神が開いて現れた。
夏目はそこからは離れ部屋の奥へと進む。
しかし狭い廃屋ではあっという間に追い詰められてしまう。
黒い手が4つも伸ばされ夏目は逃げ場を失いもう駄目かと思ったその時―――二匹の式神が突き飛ばされ転倒する。
目をギュッと瞑っていた夏目はその音に恐る恐る目を開けると、目の前に見慣れた背中が見え目を見張る。


「退きなさい、的場に仕えるモノ…彼はこの名取の友人…これ以上彼への無礼を名取家は許さない…帰って主に伝えなさい」


その背中の人物は名取だった。
どうやら夏目の危機を察して駆け付けてくれたようで、名取の姿と、名取の言葉に去っていく式神を見て夏目は息を吐き出しその場に座り込む。


「な…名取さん…」

「やあ無事で良かったよ、夏目」

「お兄ちゃん!!大丈夫!?」

「小春!?」


助けてくれた名取にお礼を言おうとしたとき、入り口から斑を抱っこした妹が入って来た。
小春の姿に目を丸くさせ唖然としていると小春は兄の傍に駆け寄り不安そうな表情で夏目の顔を覗き込みながらそっと夏目の頬に手を伸ばす。


「お兄ちゃん…怪我は?」

「ないよ、大丈夫…」

「そっか…よかった…」


体を見れば夏目の言葉通り怪我はないようで小春は心底ホッとしたように座り込む。
夏目は『そんなところに座り込むと汚いぞ』と言おうとしたが、ハッとさせ『そうじゃないだろ!』と首を振る。


「小春!なんでお前がここにいるんだ!?奈々ちゃんたちと一緒にカフェに行ったんじゃなかったのか!?」

「行ったけど…でもやっぱりお兄ちゃんが心配で途中で帰ってきちゃった…」

「帰ってって…お前なぁ…」

「だって妖の血を取るような人が相手なんでしょ!?私一人だけ遊ぶなんてできないよ!!」

「でもな、小春…」

「私謝らないから!お兄ちゃんが私を大切に思ってくれるのと同じように私だってお兄ちゃんが大切なの!奈々ちゃんたちも大切だけど…私…お兄ちゃんの方が心配なんだよ…っ」


ポツリと小春の大きな宝石のような瞳から透明の雫が零れる。
小春は泣いていた。
夏目は妹に泣かれ怒りよりも焦りが強く、あわあわとさせ目を擦り涙を拭いながら俯く妹にどうしたらいいのか戸惑っていた。
しかし小春の言葉に夏目は自分の気持ちばかり考え小春の気持ちも考えていないことに気付く。
それでもまだ小春を危険な事に巻き込ませたくないという気持ちはあるが、それでも正直友人たちより兄である自分が心配で遊びも切り上げてきてくれたことに嬉しく思うのも本心だった。
にやけそうなのを抑えながら夏目は恐る恐る小春の体を抱きしめる。
ギュッと抱きしめる夏目のぬくもりに夏目が無事だと実感できて余計に小春が泣いてしまう。
ひっく、と嗚咽を零す妹を抱きしめ宥めるように背中を撫でる。


「小春…ごめん……ごめん、小春…」

「お兄ちゃんのばか…」

「うん…」


兄の温もりと宥めるように背を撫でてくれるその手にやっと落ち着いたのか涙が止まり、小春は抱き着いていた兄から離れ、夏目は小春の目に溜まっている涙を指で拭ってやる。
兄の手に小春は小さく笑い、妹の笑みに夏目はホッと安堵の笑みを浮かべる。
小春も夏目も、入れていた肩の力を抜く。
怪我した妖は柊が治療してくれると言い、それに夏目はお礼を言う。


「名取さん、さっきはありがとうございます…でも…なんで名取さんがここに?」

「無事でよかった……ちょっと心配でね…なぜ的場の妖に追われていたんだ?」

「さっき的場さんに会って…」


名取がここに来たのはここに来る前に七瀬と会って心配になったからだった。
あの意味ありげな言葉に釣られたから彼らの思う通りに動いていると言ってもいいが、それでも名取は夏目と小春が心配で来てしまったという。
しかし来てみれば夏目は的場の式に襲われており、それを聞けば夏目は先ほど的場と会い妖を襲わせているところを邪魔し名乗らず逃げてここに駆け込み、妖に見つかったのだという。
小春は『的場』という言葉に既視感を感じた。


(的場……的場?…どっかで聞いた事あるような…)


的場という名前に聞き覚えがあるらしい自分に小春は首をかしげていたが、不意に視線を感じた小春はその視線を向けてくる方へ顔を上げればそこには名取がいた。
名取はなぜか自分を見ており、小春は訝しんだのだが…


「あ…」


小春は思い出した。
的場という人物に。
思い出したように声を零す小春に名取は『忘れてたのかい?』と苦笑いを浮かべる。


「あの…名取さん…的場って…」

「そう…会合の時君と会った人だよ…恐らく君の式である『管太郎』くんもその人が持っていると思う…けど……あの人の考えは読めないからなぁ…もしかしたらいらないとか言って消されているかもしれない…」

「え…!?」


名取が小春を見たのは、会合の時的場と会っていたからだった。
確認のため見てみたが様子からして忘れていたらしいことが判明し苦笑いを浮かべたのだろう。
勿論小春は的場を忘れても管太郎の事は覚えており、もしかしたら消されているかもしれないというのを聞き顔を青ざめる。
サーっと顔色を青くさせる小春に慌てて名取は『で、でも管狐って珍しいからもしかしたら持っていてくれるかもしれないよ』とフォローするもすでに遅し。
すでに小春の中では管太郎が捨てられた子犬のような想像で固まっていた。


「ちょ、ちょっと待って…小春、お前…的場って人知ってるのか?」


そこで蚊帳の外だった夏目が待ったをかける。
夏目は名取から小春と的場が会合の時会っていると説明され、そういえば、とそんな事を言っていた気がしたと思い出す。
最近妖と関わりゴタゴタしていたから忘れいたのだろう。
それに祓い屋なんて名取以外関わる気はなかったのだから余計に。
夏目はそれを聞いて可愛い妹と妖の血を集めている危ない男が顔見知りと知り、『やばくないか?今回は本気で小春を留守番にさせた方がいいかもしれない』と思う。
だけどもう小春に留守を頼むなんて出来なかった。
あんなに泣いて心配してくれる妹を安全な場所にいてほしいからと今更また残ってくれと言える兄がいようか…否、いない。


「的場さんは妖の血を集めているらしいんです…何か術に使うのではないかと…」

「妖の血で行う術…聞いた事ある気がするが…―――なるほど…君はそれを止めようと首を突っ込んだのか」


名取の言葉に夏目は気まずげに『は、はい…まあ…』と否定せず肯定もあいまいに終わらせる。
夏目も無茶だと思っているための態度である。
俯いてしまう夏目を見て小春は不安そうな顔を名取に向け、名取は夏目にも弱いが小春にも弱かった。


「確かに気になるな…少し調べてみるかい?」

「え!?いいんですか!?」


弱い対象が二人もいて名取は苦笑いを浮かべ肩をすくめた。
元々夏目や小春を心配し手伝う気だった名取は手伝いを名乗り出る。
すると夏目は先ほどのしょんぼりさせたが嬉しそうに笑みを浮かべた。
その笑みに釣られ名取も頷く。


「いつも手伝ってもらっているからね、今回はこちらが手伝おう」

「名取さん……―――本当に!?ただで!?ただで手伝ってくれるんですか!?」

「え、あ…うん…」


夏目が色々と妖の事に巻き込まれるのはどうしようもないとは思っているが、どうも目にかけている二人を心配してしまい小言めいた事を言ってしまう。
それもあってか、いつも巻き込んでしまう形というのもあり、名取は手伝ってくれるという。
それを聞いて夏目と小春はパッと沈んだ表情を明るくさせ、夏目はグッと拳を握る。

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