夏目と小春は昨日、名取が調べ物は自分に任せて帰りなさい、と言われた為その日は帰った。
その夜、夏目の服について来たらしい襲って来た妖の欠片が思念となって再び襲い掛かってきたが、その思念が小さな人形のようなのと、力が弱かったため斑が前足で踏みつけて難を逃れる。
そして翌朝…夏目と小春は怪我をした妖がいる廃屋に向かった。
ボロボロの扉を開ければそこには名取はおらず、柊とその怪我をした妖がいた。
「名取さんは?」
「昨日の夜調べに行ったっきりだ」
名取の姿がないので廃屋にいる柊に聞いてみる。
柊曰く、名取は昨日別れた後から廃屋に帰ってくる事無く調べものをしているらしい。
それには小春も夏目も目を丸くし驚いてしまう。
「え!?まさか徹夜で?」
「どうして…妖怪のためにそこまで…」
2人の問いに柊はコテンと小首を傾げ目を細めた。
「お前達だって妖怪のために動きているくせに」
「でも 名取さんは…」
「……藪をつっついて蛇を出してしまったと思っているんだろう…名取は…」
「蛇?…もしかして的場さんのこと?」
「そんなところだ」
名取は夏目や小春のように妖には甘くはない。
祓い屋という職業柄、そして子供の頃の事からして妖に対しての感情はきついものがある。
それを知っている夏目は戸惑ったが、どうやら名取は名取で今回の事で少し責任を感じているようだった。
夏目は名取がそんな責任を感じることはしなくてもいいのにと思っていると肩にいた斑が声を掛けて来た。
「夏目、退くなら今のうちだぞ?妖モノなら守ってやれるが相手が人間となると勝手が違う…特にあの的場は相当タチが悪い」
「先生…」
斑ですら的場の力は『タチが悪い』と評価されるほどらしい。
そんな祓い人とやりあったと思うと夏目はぞっとさせる。
人間である夏目が同じ人間である的場にどうこうされる謂れはないが妖よりも人間の方が厄介な場合もあるのだ。
だから斑は引き返すことが出来る今、夏目に聞いた。
斑の言葉に夏目が何かいいかけた時、後ろから名取が帰ってきた。
「お、来てたか」
「名取さん…寝てないんですよね…少し休んでください…」
夏目は今引き返すことはしたくないと思った。
自分に全く関係のない事だけど決して無関係でもない。
関わったのだから無関係には居られない。
だから今更引き返す気はないのだ。
勿論それは小春も同じである。
夏目は夜通し調べてくれたという名取に気遣ったのだが…名取はふと笑った。
その瞬間キラキラと輝き出す。
「平気さ…寝不足ごときで私の笑顔が陰ることはないから安心してくれ」
「完全に発言が徹夜あけのおかしなテンションじゃないですか!」
「そうか?いつも通りの発言に聞こえるぞ」
キラキラと輝く名取により一層心配が深まる夏目に対して斑は夏目の言葉に首を傾げ、そんな斑の反応に小春は苦笑いを浮かべる。
―――寝ずに調べてくれた情報から、名取と共に夏目と小春と斑は電車やバスを乗り継いで田舎へと到着した。
「事件が起きた場所を調べてみると西から東にだんだん移動してるんだ…そのスタート地点となったのが、ここだ」
「こんな所に村があったんですね…」
そこは静かな場所だった。
夏目や小春達のいる地域もどちらかと言えば田舎ではあるが、バスや電車があれば中心部に行けるのだからここまでではない。
『少し聞き込みをしてみよう』、という名取の提案から、三人は妖や人に聞き込みをした。
人間担当は主に名取、妖担当は夏目兄妹だった。
人間の場合、煌めきが隠しきれないため即バレしてしまい退散するというパターンが多いが。
「あそこだ!!さあ走れグズ共!うどんに向かって〜!!」
「あっ!先生!」
丁度お昼時。
食べ物に目聡い斑がうどんという文字を見つけ、小春の腕から飛び降りてタタタとその店へと向かった。
勿論、普通の店はペット不可。
特に飲食店は衛生的の問題に厳しい。
小春は斑を慌てて追いかけ捕獲する。
「何をするのだ!小春!」
「駄目だってば!先生は猫なんだから入れてもらえるわけがないでしょ?人形のフリをしなきゃ!」
小春は暴れる斑を胸に抱き宥める。
小春の『めっ!』というお叱りに、小春に弱い斑は『ぐぬぬ』と悔し気に唸りながらも大人しくなる。
大人しく人形のフリをする斑に小春は優しく頭を撫でた。
そんな二人を夏目と名取は微笑ましそうに見つめ、店に入る。
こういう時は小春が斑を抱いて店に入る事にしている。
いくら美形とは言え名取は大人の男性で、美青年、美人顔とは言え夏目は高校生の男の子。
このメンツで人形を持ち歩いても違和感のないのは(傍から見たら)儚げ系美少女である小春なのだ。
この日は特に芸能人の名取もいたため、そして更に言えば名取は隠すこともしないため、その場は黄色い声に包まれた。
店員や客のほとんどが名取に目を取られていたため斑どころか夏目や小春に目線を送る人達はそういなかった。
「素うどん、4つ」
恐らくじゃんけんか何かで勝ったであろう店員に名取はにっこりと微笑み注文する。
店員は生名取を目の前に上がっているのか、三人なのにうどん4つを注文するという変な行動に疑問も持たず二つ返事で伝票に素うどん4つと書く。
「それと…この辺りで何か変な噂はありませんか?」
「変な噂…といいますと?」
「お化けが最近出る所があるとか、見慣れぬ変わった人がうろうろしてるとか」
「変わった人…」
「あ、この人以外ですよ?」
営業スマイルなのだろう…店員が自分に見とれているのに気付いている名取は笑みを深めて聞き込みをついでにした。
案外こういうところからの情報も侮れないのだ。
変わった人と呟く店員にすかさず向かえに座っている夏目が名取を指さし、やっぱりそれに小春は苦笑いを浮かべた。
そんな2人をよそに店員は考えるそぶりを見せ…
「う〜ん…変わってると言えば…裏の宿に長髪で片目を隠しているお客さんが泊まっているとか…」
「…!」
店員のその言葉に夏目は息を呑んだ。
その特徴は的場に当てはまるのだ。
チラリと小春を見るも、小春は的場がなんの理由で妖を襲い血を抜いているかは分からないが、的場の式が兄を襲っているのを目撃してたため、最初程戸惑いはなく変化はない。
傷ついている様子もない妹に夏目は内心ホッとさせる。
「行き成り分かるとは…猫ちゃんもたまにはやるんだな」
「たまにとは何だ!」
店員の女の子にお礼を言うと店員は嬉しそうにはにかみ厨房へと消える。
斑がこの店を発見し、入らなければ分からなかったかもしれない情報である。
名取に褒められているのか褒められていないのか分からない斑はむすっとさせ、小春に撫でられほだされるといういつものパターンとなる。
「しかし、どうも簡単すぎる」
「……罠っぽいですよね」
「そうだね…でも何かこう…」
「え?」
「…いや…とにかく見に行ってみよう」
だが、名取は少し引っかかっていた。
求めていた情報があまりにも簡単に出てきたのだ。
怪訝とさせる名取だったが、夏目が聞き返すと自己完結したのかとりあえずうどんを食べた後その情報で得た宿屋へと向かう事にした。
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