(6 / 13) 18話 (6)

うどんを食べた3人と1匹はその情報で得た宿へ向かった。
だが、土砂降りの雨が小春達を襲い、その向かっていた宿に駆け込む。
宿の人がタオルを貸してくれて、小春と夏目、名取はそれぞれ濡れた体をふき取り、小春がしゃがんで斑の体も拭いてやる。
勿論ヌイグルミとして動かずに。
その間も名取が宿の人に話を聞いてくれていた。
そのお陰で多少動いても誤魔化せた。


「確かにお泊まりの方はいらっしゃいますが…あなた方は?」


名取の聞き込みに宿の人は怪訝と名取を見た。
それはそうだろう…個人情報を簡単に流出させる宿に泊りたいとは誰も思わず、宿自体の信用も欠けるのだ。
夏目と小春はジロリと見て来た宿の人にドキリと心臓を跳ねさせた。
だが、


「家出中の弟を探しているものです…なのでなるべく我々の事は内密に…」


流石は現役売れっ子俳優…名取は顔色一つ変えず適当に言って宿の人を納得させる。
そうですか、と納得させる宿の人に小春も夏目もお互い顔を見合わせホッとした笑みを浮かべた。
すると受付にある電話が鳴り、宿の人は名取達に一言断ってからその電話を取る。


「はい、もしもし…はい――――え?崖崩れ…」


しかしその電話は小春達にとったら最悪な電話だった。
土砂降りの雨の影響で、崖崩れが起き道路が不通となり帰れなくなったのだ。
夏目と小春は先ほどとは真逆の意味でお互い顔を見合わせることになり…結局、帰れないからと名取と夏目、小春は一泊することになった。



****************



シーズン的にも三人部屋が開いており、名取が部屋を取ってくれた。
申し訳なさげにする二人に名取は『大人として子供にお金は出させられないよ』と笑ってくれた。
ただ知り合いとはいえ、思春期真っ只中の年齢である小春が一緒の部屋に泊る事に関しては気を使ってくれたのかベットと布団のどちらもある部屋を選んでくれた。
小春的には名取は既に『異性』というよりかは『お兄さん』というカテゴリーなので異性として意識はしておらず、気にもしていないが。


「はい、一泊していくことになったので…はい、大丈夫です……明日には帰ります」


部屋につくと、名取が様子を見に外に出ていた。
同じ宿に的場が泊っているので警戒しての事だろう。
その間に小春は斑が催促し宿に頼んだところてんを食べさせてあげていた。
これも催促されたのだ。
斑に対して夏目は厳しいが、小春は比較的甘く、その催促も笑顔で了承し膝の上に乗りたいというので乗せてところてんを斑の口元に持って行って食べさせてやる。
所謂『はい、あーん』状態である。
シスコンである夏目は本来それにシスコンレーダーが発動するのだが…今はそれどころではなく、更に言えばその光景はシスコンレーダーに引っかからなくなるほど当たり前の日常になりつつあった。
ガチャンと受話器を置いた夏目に気付き斑にところてんを食べさせていた小春は斑から兄へと顔を上げる。


「塔子さん…怒ってた?」

「いや、逆に心配させたてしまったみたいだ…」


兄の言葉に小春はすぐに心配しすぎる塔子の姿が思い浮かべる。
だからこそ『安心してくれるように怪我せず無事に帰ろう』と思えた。
本当の親子ではなくても、藤原夫婦は厄介者の夏目を、そして当時不治の病だと言われていたベットの住人だった小春を見捨てずに兄妹共々引き取ってくれたのだ。
あまり心配も苦労も、掛けさせたくはなかった。
とりあえず怒っていない事を聞いて安心した小春は斑からの要求で止めていた手を動かす。


「…名取さん遅いな」


ちゅるちゅるとところてんを啜る猫を小春は膝の上に乗せ、その愛らしさに笑みがこぼれる。
それは夏目も同じで、デブ猫の我儘な要求を嫌な顔一つせず飲む天使(夏目視点)の愛らしさに夏目も微笑まし気に妹を見ていた。
だが部屋から出た名取が中々帰ってこない事に気付き不安そうにドアへ振り返る。


「的場に捕らえられたのかもしれん…かなり悪い気が集まってきている」

「………」


斑の憶測だが断じて違うとも言えないその言葉に夏目はすくっと立ち上がり無言で扉へと足を向ける。
それを見た斑は小春の膝の上から夏目の背中に体当たりし、倒れた夏目の上に着地する。


「どこに行く!相手は的場だぞ!?お前のえのきパンチなど効くか!」

「でも…!」

「ったく…しょうがない…私が代わりに行って来てやるから大人しくしておけ」


『お前が動けば小春も動く…お前らが動くと私が大変なのだ…』とブツクサいいながら言いよどむ夏目の代わりに名取を探しに斑が向かってくれた。
そんな斑を見送りながら夏目は納得したのか『分かった…先生も気をつけて…』と声を掛けて見送る。


「む?何だ、この扉は?」


ぴょんと飛び上がってドアノブを下げて開けようとするが、何故かドアノブを下げても扉が固く閉ざされたままだった。
体を使って何とか開けた斑はそのまま名取を探しに部屋を出る。


「お兄ちゃん…お茶飲んで落ち着こう?」

「そ、そうだな…」


2人を見守っていた小春は兄に歩み寄り、お茶を飲んで落ち着こうとした。
テーブルを挟んだ兄の向かえに座り、小春は雨で濡れたため温めるために暖かいお茶を淹れた後兄の前に置く。
ついているお菓子を二人の間に移動させて『これなんだろうね』『あ、これ美味しい』『これは…今一だな…』と兄妹二人で何気ない会話を広げていた。
小春も兄が気にするから名取や的場の話題を振らなかったし、夏目も妹を気遣って何気ない会話を意識していた。
しかし、柊曰く『藪をつついて蛇を出したと思ったのだろう』という言葉の通り名取が二人に対しなんらかの責任感を感じているのと同じように、夏目も巻き込んでしまった事に責任感を感じていた。
その為そわそわし始め、斑も向かえに行ったのに遅いため夏目は我慢できず立ち上がる。
立ち上がった兄に小春はお茶を飲み込んだあと見上げ、首を傾げる。


「お兄ちゃん?」

「ごめん…やっぱり気になるから見て来る…小春はこの部屋から出たら駄目だからな?俺達が帰ってくるまで誰が来ても扉は開けるなよ?いいな?」

「うん…」


そわそわしているのは小春にも分かった。
だから『やっぱりかー』と思ったし、夏目に反対もしない。
素直に頷く妹に満足し、もう一度注意した後夏目は部屋から出て行った。
パタンと扉が閉まられた途端に雨音だけが響く静かな空間が出来上がる。


「……静か」


妖に慣れている小春だが、やはり静けさはどこか不気味に感じる。
ポツリと呟かれたその言葉は誰も拾ってくれず、小春は居心地悪く髪を弄ったりお茶を飲んだりお菓子を食べたりとしたが全く落ち着かない。


(テレビでも付けようかな…)


だから人の声がすればどうにか少しは落ち着くと思った小春は備え付けられているテレビを付けようと思い立ち上がろうとした。
だがふと視界の端に人影が写り、小春はバッと弾かれたようにその方向へと目をやる。
そこは窓だった。
小春がその窓を見ても人影という人影はない。
そもそも取った部屋は一階だが、プライバシーの問題で普通に人が通れるような間取りではなく…更に言えば今は台風のように風と雨が激しい状況である。
だから人がいるという選択肢は考えられなかった。
小春は『妖だろうか』と思いながらも正体が分からないというのも気持ちが悪く、『妖か、気のせいでありますように』と願いながら二間続きのベッドが置いてある部屋へと向かおうと襖を開ける。


「―――っ!」


部屋を見渡し窓を見ると窓は開いていた。
しかも窓から入ってきたとあからさまに分かる形跡もあり、小春は恐怖に言葉を呑む。
すると小春の背後から人の気配がし振り返ろうとした。
だが…


「きゃ…ッ!」


その背後にある何かが小春の髪を鷲掴みに後ろへ倒した。
勢いよく倒された小春は背中や頭に痛みが走ったが、その隙にその気配の何かが小春を上から覆い被る。
ポタリとその気配から落ちた雫が小春の頬に当たり、小春はその気配の―――女の顔がすぐ目の前にあり、言葉を呑んだ。


「何のつもりだ?うろちょろと目障りだ…これ以上邪魔するなら的場のためにお前の血も供物にしてやる」

(この人も的場さん式!?供物…!?)


髪を掴まれ上から乗られているため少女の小春は力では敵わなかった。
もがく小春をよそに女の妖?は『さあ来い』とそのまま小春の髪を引っ張りながら小春を引っ張って歩き出す。
いくら少女とはいえ女の腕で1人の人間を引っ張って歩くなど簡単な事ではなく、その事から小春はこの女は的場の式か何かかと思った。


「お前はなにやら妖力が強いようだ…何者か知らないが下級の血しか知らない妖怪にとっては美味だろう」

(び、美味?一体なにを言ってるの…)


シーズンを外れているからか旅行者はおらずこうして『放して!』やら『いや!』やらと叫んでも人が来る気配はない。
良く分からない事を言われていると女の式は物置部屋へと小春を放り込んだ。
遠慮のない力に床とぶつかった小春は体の痛みに顔を歪める。
そんな小春を気にも留めず、女の式は扉を閉め、薄暗い中でも分かるほど不気味ににたりと笑い小春に手を伸ばしてくる。


「さあ…悪いが血を貰うよ」

「いやっ!!!」


小春の中の恐怖が最高潮に達する。
女の式に危機感は感じていたが、何をされるのか分からないのと血を貰うという不気味な言葉に小春は無我夢中で手を伸ばした先にあった何かを掴んで女にぶつけた。
それはホウキだった。
小春が投げ入れられたときにぶつかって転がっていたらしく、そのホウキをぶつけられ一瞬女の式は怯む。
その隙をついて小春は物置部屋の扉を開けて廊下に出て走った。
どちらに逃げればいいのかなんてもう分からない。
とにかくあの女の式から隠れるなり何なりして逃げて兄達のところに帰りたい一心だった。


(あの人妖力の強い者の血を欲しいと言ってた!!お兄ちゃん達も危ないかも…ッ!!)


混乱していてもあの女の式が言っていた不気味な言葉は理解出来た。
妖力の強い者…と言えば小春の知っている中では兄、斑、名取、音羽である。
しかし音羽はここにはおらず、ならば危ないのは兄達となる。
何とかあの女の式から逃げ出してその事を伝えなきゃ、と走り、曲がり角を曲がりながら後ろを気にしていた小春は何かにぶつかった。


「…っ!」


後ろばかり気にしていたせいか、前方が疎かになり人とぶつかってしまったようだった。
しかも走っていたせいで勢いよく小春は尻もちをついてしまう。
ジンジンと痛む尻を擦ろうとしたその時―――


「おや、お久しぶりですね…小春さん」

「―――!!」


前に聞いたことのある男の人の声が小春の耳に届く。
その声にハッとさせ顔を上げるとそこには…


「的場…さん…」


的場静司がいた。
的場は小春の唖然とした呟きに目を細めて微笑んだ。

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