的場は小春の呟きに嬉しそうに微笑んだ。
「覚えていてくれたんですね」
的場は小春が自分の名前を憶えていてくれた事に嬉しく思ったらしく、笑みを浮かべながらそっと小春に手を差し出す。
手を差し出された小春は的場の手を見た後、的場を見上げ首を傾げる。
そんな小春に的場は笑みを深め『どうぞ、お手を』と零した。
どうやらいつまでも座って立たない小春を心配したらしい。
それに気付いた小春は戸惑いながら的場の手を取って立ち上がる。
そして立ち上がって気づいたのだが…的場の他にも2人の男がいた。
ラフな格好の的場に対し、その人達は黒の着物を着ており、年齢も的場より上に感じる。
様子からして恐らく的場と関係のある者達らしく、鋭い目でこちらをジッと見つめており、その目はどこか品定めしているような目だった。
「転ばせてしまってすみません…急いでいたんですか?」
「え…えっと…」
その目に不快感を感じ、小春はその後ろの男達から目線を逸らし的場を見た。
的場は後ろの人達よりも優しそうな風貌を出しているのだが、小春にはどこか偽物のように思えてならなかった。
恐らく、これまでの事が関係しているのだろう。
あの会合では優しい男の人という印象が更に妖くなっていた。
歯切れの悪い小春など気にもせず的場は小春の手を放さず続ける。
「でも奇遇ですね…小春さんもここに泊っていたなんて…この村にはご家族で来られたんですか?」
「は、はい…あの…私…そろそろ…」
「そう言えば急いでいましたね…すみません、引き留めてしまったようで…」
的場の言葉に小春はひやりとさせた。
『妖を襲っている犯人のあなたを追ってここまで来ました』とは流石に言えず、小春は曖昧に返事をし立ち去ろうとした。
正直今の小春は『前門の虎後門の狼』状態である。
勿論虎は的場であり、狼はあの女の式である。
あの女の式が的場の式であるなら今の状況はやばい。
的場は何とか納得してくれたようでやと解放されると思った。
しかし…的場の手は弱まるばかりか強くなり、小春は的場に握られている手を見た後的場を見上げた。
怪訝とさせる小春に的場はにこりと笑う。
「ですが、ここで会ったのも何かの縁です…少しお付き合いください」
「ッ―――い、いえ!す、すみません!本当に急いでるので…っ!!」
グッと掴まれているような強さの手に小春は女の式のように危機感を覚える。
怪しいと思えば人間はその対象が怪しくなくてもそう見えてしまう。
お付き合い、という言葉に小春は抵抗としたが、やはり男と女ではどうしても力の差が出来てしまい抵抗など無駄に終わる。
しかし、
「―――っ、」
窓から蛇が飛んで来て的場の手に噛みついた。
チクリとした痛みに的場は顔を歪め手を放してしまう。
素早く後ろにいた男が蛇を掴んで離させ叩きつけるように床に捨てる。
手を庇う的場に小春は戸惑いが隠せなかった。
いくら怪しいとはいえ放っておくのを戸惑わせたのだ。
しかしそんな小春の頭の中で女の声が響く。
――――治しなさい
その言葉に導かれるように小春は的場の方へと歩み寄る。
男達は警戒し小春を睨んだが、小春はどうしてか怖いとも感じず的場しか見ていなかった。
「小春さ、ん…?」
その蛇には毒があったのか的場は辛そうに呟く。
そんな的場に小春はぽつりと『可哀想に…』と呟いた。
だが、それは小春が意識して出した言葉ではなかった。
小春はそっと蛇に噛まれた的場の手に触れて――――蛇も噛み痕に唇を寄せる。
その行動に目を見張ったが、その瞬間体のだる気や痺れがなくなったのを感じる。
「小春さん…あなたは…」
「ぇ―――っ!!!」
小春が噛み痕に口づけをした瞬間に蛇の毒が消えたような気がして的場は目を見張って唖然としていた。
それは周りにいた二人の男達も同じように小春を見ていた。
小春は的場の呟きに我に返ったように意識を取り戻し、更に追い撃ちを掻けるように的場にした自分の行動もバッチリ覚えていた。
小春は的場達のように呆気に取られてはいたが、記憶を思い出した瞬間に顔が茹蛸のように真っ赤に染まる。
「き、きゃーーっ!!!」
小春は悲鳴を上げながら的場から逃げる。
どちらかと言えば悲鳴を上げたいと思うのは的場の方だが、男の友達どころか彼氏もいない小春は良い意味でも悪い意味でも初心だった。
「捕まえろ」
悲鳴を上げ、赤くなった顔を隠すように手で顔を覆って逃げる小春に的場も呆気に取られたがすぐに我に返り、当初の目的を果たそうとする。
男達もその命令に我に返り少女を追いかける。
小春は恥ずかしいし後ろから男達が追ってきているしで涙目になりながら走っていたのだが…
「きゃ、―――ッ!」
今回も後ろばかり気にしていたせいか前方に回っていた白い着物を来て黒の肌に白の単調な仮面を被った的場の式が天井からバッと現れ小春はあっという間に捕まった。
だが、捕まった際人間ではないためか的場の式は力加減を失敗し、その強い拘束に小春は気を失った。
ぐったりとさせる小春に的場は小春が気を失っているだけだと知りホッとさせながら腕を見る。
傷はあり血もそこから滲んでいる。
だけど体のけだるさや熱さが消えた。
恐らくは小春が蛇の毒を消したのだと推測される。
そして気配を感じた的場は、ふと外を見る。
そこは蛇が飛び込んできた窓だった。
その窓はこの天気から閉め切っているはずなのに、どうしてか開いていた。
それに気配も感じたのだ。
今はしないが人間ではない気配を探るもその気配は感じ取れなかった。
「頭首?」
「…いや…何でもない」
男の一人がぼうっと外を見ている的場に気付き怪訝と声をかけたが、誤魔化された。
それを追求せず、部屋に戻ろうとする的場の後ろを男達も続いた。
その後ろ姿を女が見送っていたのに気づきもせず、的場はその場から消える。
****************
次ページはオリジナルキャラしかいません。
大量にいますので苦手な方は飛ばしてくださっても構いません。
7 / 13
← | back | →
しおりを挟む