(10 / 13) 18話 (10)

小春は走る。
後ろを見れば的場の放った式が二体、すぐ後ろにいたのだ。
それを見て小春は足を動かし更に速く走るが…運動部でも運動が得意なわけでもない小春の足の速さはたかが知れている。
だからこそ小春は必死に走っていた。


(あの森に大物の妖怪が…)


走っていると目の前に森が広がっている。
それを見て的場の言っていた大物の妖の事を思い出す。
それと同時に羽の妖の事も思い出した。
彼女は今回の事は全く関係のない無関係の妖だった。
なのにただ大物の妖のために血を取られそうになっていた。
そんな理不尽な事あっていいのだろうかと小春は思い、心が痛くなる。


(今なら止められるかもしれない…!)


血を集めている最中ならば、止めるチャンスはある。
知ってしまったからもう知らんぷりは小春には出来なかった。
それは勝手なことかもしれないし、小春こそ無関係だから関係のないから首を突っ込むなと言われれば弱い。
だけど黙って放っておくことはできなかった。
雨が降り全身を濡らしながら小春は草陰に身をひそめ的場の式から隠れる。


(的場さんの好きにさせちゃ駄目だ!何とか大物妖怪っていうのを見つけて止めないと!!)


小春の中ではもう的場が犯人になっている。
いい人だと思った的場の本性と言えるかは分からないが、どういう人なのか小春は理解した。
斑でさえ警戒する祓い屋なのだ…祓い屋でもないただの高校生の自分に何が出来るかは分からないが何か行動しなければという想いに駆られていた。
ただ…一つだけ気がかりなのがあった。


(…管太郎の管、首にかけてなかった……あの子、どうしたんだろう…)


それは管太郎の事。
重光から譲り受けた管狐の管太郎。
破壊的なネーミングセンスのせいでそんな名前にされた管狐だが、生まれたてのためまだ幼く使えるほどではない。
だから肌身離さず取ってはいたが、小春はその管太郎を会合の時置いて帰ってしまったのだ。
可愛がっていたくせに置いて帰ってしまった自分を今でも責めており、正直再会してもまた懐いてくれるかは分からない不安もあった。
管太郎に取ったら捨てられたかもしれないと思っているかもしれないという不安が強いのだ。
だけど的場の首には管がなく、管太郎の気配もない。
管太郎を思い出していると小春はしょんぼりとさせ肩を落とす。
だが草の音にハッとさせ小春は草陰から覗き込む。
そこには的場の式が小春を探してキョロキョロと顔を動かしていた。
それを見て落ち込んでいる場合ではないとばれないようにペチリと自分の頬を叩き気合いを入れる。


(大物の、とつくくらいだから気配くらいあるはずだよね…探ったら出来るかな…)


やってみた事はないが、出来そうな気がしないでもない…小春はこの時そう思った。
恐らく兄達と離れ離れになった恐怖、追われる恐怖、捕まったら何されるか分からない恐怖で感覚が鈍っているのだろう。
目を瞑り妖をイメージし探ると…―――それはまるでパズルのピースがあったかのようにピンときた。
小春は大物の妖の気配だと分かった。
だが、まだ傍には的場の式が二体がうろついており、小春は息を殺して身を丸めて二体の式が去るのを待つ。


(は、はやく…!早くどこかに行って…っ!)


小春は守られるばかりだったからこういう時に行動を起こせない。
的場から逃げる時は突発的な事をして隙をついたから成功したまでの事で、殴ったのだって偶然当たっただけで兄のように狙っては出来ない。
しばらく息を殺して隠れていると静かになり、そっと草むらから顔を覗かせる。
そこにはすでに式の姿はなく、どうやら別の場所を探しに行ったらしい。
それにホッとしながら小春はそれでも注意を怠らないように慎重に気配のあった方へと走る。
暫く走ると気配を察知した場所につく。
そこは少し開けており、見晴らしもいい。
肩で息をしながら後ろを見た小春は式たちが来ないのを確認して胸を撫で下ろし息を整える。


(こっちの方だったよね……多分、ここらへんだと思うんだけど…)


1人だと思うと不安が強い。
いつも兄か斑がいたからこうして一人で妖を相手にするというのは、修学旅行の時以来だろうか。
その時でも名取や奈々がいてくれたから初めてという事になるだろう。
辺りを不安そうに気配の確かな場所を探るためその場を見渡したその時―――


「きゃ…ッ!」


誰かに足を引っ張られ、小春は落とし穴に落ちるように落下していく。
強い衝撃と痛みが全身に走り息が詰まりそうだった。
ゆっくり目を開ければ視界は薄暗かった。
痛みも少し収まり起き上がり顔を上げれば光りが零れているのが見えた。
どうやらあの零れている光は地上で、小春は落ちてしまったらしい。


「ここ…洞窟?――――ッ!!」


落ちた先は洞窟らしく雨をしのげはしたが薄暗い上に洞窟だから寒い。
腕を擦りながら不安そうに周りを見渡しても薄暗くて分からない。
だが、不意に嫌な気配を強く感じた。
それは小春が追っていた気配とどこか似ており、それは一致していると小春は気づく。


(いる…っ!この奥に…!)


探していたそれは大物の妖。
それを探してはいたが、いざ近づくと心臓の音が大きく聞こえる。
緊張と不安、そして恐怖が小春に襲った。
だが、妖に集中していたせいか、小春の目の前に真っ黒な髪が垂れ、小春はその髪にハッとさせ顔を上げる。
そこには的場と出会う前に襲われた女の式がいた。
女は薄っすらと笑い小春を見下ろしていた。
その女の式に小春は小さく悲鳴を上げて慌てて立ち上がり数歩後ろに下がる。


「うろちょろとうるさいガキだ…邪魔しに来たのか?」

(的場さんの式…!?)

「可哀想だか供物になってもらうぞ…もうゆっくりしていられないのだ……あいつが来る前に…あいつが…!!」


何やらブツクサと言っていたが小春にはよくわからなかった。
だがその声を聞いて小春は違和感を感じる。
小春は女の式の声を聞いたことがあった。
勿論襲われた時ではない。
だが考えている暇はなく、女の式は本当に小春を供物にするつもりなのか先を尖らせた棒を小春に向かって振りかざした。
小春はこちらに振り下ろされるその棒にただ腕で自分を庇うしかできなかった。
だが―――


「失せろ!!!」

「ぐ、―――ッ!」


目の前に鏡餅のような猫が飛び込んできた。
そのフォルムは忘れるわけもなく、小春と夏目の用心棒の斑だった。
斑は額を光らせ式を散らせようとしたのだが…何故か女には効かずまた襲い掛かってきた。


「先生!」


小春はそれを見て慌てて斑をキャッチし、腕に抱いた斑を守ろうと背を向ける。
しかし来るであろう激痛もなく小春は聞き慣れた声にハッと振り返る。


「下がってなさい!小春ちゃん!!」

「名取さん…!」

「小春!!」

「お兄ちゃん…ッ!!」


自分と女の式の間に名取が割り込み女の式の棒を弾いて庇ってくれる。
更には兄である夏目も駆け付け小春を斑ごと抱きしめ女から庇う。
散々怖い想いをしてきた小春は兄と名取との再会が一日二日のような気がして安心し、自分ひとりで何とかしなくちゃと気を張っていたためか、安心したらジワリと涙を浮かべ兄に縋りつく。
体を震わせる小春を夏目は更に強く抱きしめる。


「あいつ…私の光が効かなかった!」

「この声…」

「え?」

「的場さんに捕まってた時…目を覚ます前に夢に出て来たあの声…何かを…誰かを恨んでるような声は……、―――もしかして…あなたは…人間…?」


小春はずっと気になっていたのだ。
女の声に違和感を感じていた。
的場に捕まり目を覚ます前に見たあの夢の時の声と目の前にいる女の声は一致していた。
しかも夏目と名取と再会し安心したから、式や妖とは違った雰囲気や声に小春は気づく。
小春の言葉に女は…


「勿論」


薄っすらと笑いそう答えた。

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