(9 / 10) 3話 (9)

雷が止んだ瞬間ポン、と自然界では聞かない音が名取の耳に届く。


「―――ッ夏目…!!」


衝撃に倒れた名取は慌てて起き上がると名取の目に陣の中に倒れている夏目と妖かし、白い大きな妖かしだったが今では白い猫になった斑が映る。
動かない3人に名取はすぐさま駆け寄りうつ伏せだった夏目を仰向けにさせて耳を口に近づけた。
夏目の息が名取の耳に届き、名取は安堵し続いて妖かしと斑の確認をしようとしたその時、再びドン、と大きな音がし名取はハッと顔を上げる。


「小春ちゃん…!?」


名取は目の前にいる人物に目を丸くする。
名取の目の前には小春がおり、瓜姫がいた木が何も無いのに何かがぶつかったかのように折れて上の方は倒れていた。
瓜姫の姿を確認するとどうやらその何かの気配を察知し間一髪に避けたようである。
それに安堵に似た息をつきながら名取は木から小春へと目を移す。


「小春ちゃん…どうやってここに…」

「…………」


足が動かず目も見えない小春は車椅子があったとしても動くことさえままならない。
周りには車椅子などなく、小春は地面に這いつくばっているため自分の足でここに来ることは不可能だ。
不可能なはずだが現実に小春は自宅から離れたこの場所に現れた。
それも一瞬にして。
名取は腕だけでこちらに向かってくる小春を怪訝そうに見つめていたが、何か違和感を感じジッと小春を観察する。


「…!!…君…もしかして目が……?」


名取がいつも見ていた小春はいつも目を瞑っていたはずだったが、今こちらに体を引きずりながら向かってくる小春の瞳は開いていた。
白く濁っているこもなく、焦点が合っていないこともなく…確実に小春の目は兄へ注がれていた。
それに名取は言葉を失う。
目が見えなくなった人間が突然目が見えるようになるという話は聞いたことはない。
名取は必死にこちらに向かってくる小春を見ていられず立ち上がって小春を抱き上げた。
小春は突然抱き上げられ名取を見上げるが、やはりその黒い瞳にはくっきりと名取が映っている。
呆気に取られている小春に名取はにこりと優しく笑みを浮かべた。


「連れて行ってあげる」

「…?」


目は見えているようだが耳は聞こえず声も出せないようで、それに気づいた名取だが苦笑いを浮かべ手の平に書くことはせず抱き上げたまま夏目達が倒れている陣へ向かう。
それにようやく名取が連れていってくれることを知った小春は名取から陣の中にいる3人へ目を移した。
名取はそっと小春を陣の前に降ろすと小春は兄をジッと見つめた後自分の両手を見つめる。
それに不思議そうに名取が見守っていると名取は再び目を丸くさせた。


「!、傷が…消えた!?」


ソッと怖ず怖ず小春が陣の中へ手を置くと陣の中にいた3人の傷が完全に消えていくのが見て取れる。
まるでゲームの世界のRPGにある魔法のように陣の線が光りその光りはとても暖かい。
3人の傷が完全に癒えたのを見た小春は手を陣から放し、放した瞬間光りも暖かさも消え名取は唖然と小春を見つめていた。


「と、も…き……?」

「…………」

「小春…お前……目が…見える、のか…?」

「…………」


傷が癒えると目を覚ましたのは斑だった。
上級の妖かしである斑は他の2人より回復力が強く、体を震わせ夏目と小春の祖父の名を呟いた。
しかし顔を上げればその孫である小春がおり斑は心の中で落胆する。
だが斑は自分と目と目を合わせる小春に目が見えることを知り目を丸くさせるが、小春は答えることが出来ずただ目を細めて小さく弱弱しく笑うだけだった。
そして小春は再び体を引きずり面が少し剥がれている妖かしに向かう。
そして黒こげになっても切れることのない首に巻かれている縄にソッと手を伸ばした。
するとその縄はボロボロとまるで燃え崩れたように散っていき、妖かしの首に巻きつけられていた縄は完全に散っていった。


「小春ちゃ…、…!、小春ちゃん!?」


どういう事なのかと頭の中で必死に考えていた名取だったがドサッ、という音に我に返りハッと俯かせていた顔を上げる。
そこには力尽きたのか倒れる小春の姿があり、名取は慌てて小春にかけよる。



「…………」



名取に続き斑も小春に駆け寄ろうとしたのだが一瞬目線を感じ振り返った。
しかしそこには誰もおらずただ折られた木があるだけ。
斑が木に目を移した瞬間何かが飛び上がったように地面に散り敷かれていた枯れ葉が散っていく。



「まさか…」



斑は木から気を失っている小春へ目を移し唖然と声をもらした。

―――――!!

小さく悲しげな声が微かに斑の耳に届く。

9 / 10
| back |

しおりを挟む