(7 / 8) 19話 (7)

その日は雛の情操教育のためピクニックに出かけていた。
雛はお昼ご飯を食べて満腹になり小春の膝で眠っていたが、小春達が食べ終わる頃には目も覚まし楽しそうに遊びに夢中になっていた。
雛にとって小春は母親なのか小春が『こっちにおいで〜』と手を広げればきゃっきゃ言いながら小春のところに来てくれる。
それが小春にとって嬉しいのか枯れ葉で遊びながら時折少し離れては手を広げて雛を待つ。
それはまるで初めて子供が生まれた母親のようで夏目は微笑ましく遊ぶ二人を見守っていた。


「随分大きくなったなぁ」

「ばったもんとはいえ龍だからな…そう長くは一緒にいられないぞ」

「…そうか…でかくなったら旅立っていくんだもんな…」


遊ぶ2人を見ていた夏目は、雛の大きさに気付く。
あれから数日は立っているがやはり成長が早いのか最初の頃と比べると大きくなっていた。
斑の言葉に夏目は一瞬言葉を失ったが、納得するしかなかった。
斑曰く辰巳はそういう生き物なのだから。
小春も二人の会話を聞いていたのか、先ほどまで楽しそうに遊んでいたが寂しそうにしていた。
それを見て夏目は慌てて話題を変える。
長くはいられないとは言っても今日明日ではないのだ(と夏目は思いたい)…これから沢山遊んであげればいいだけの話。
あまり妹を悲しませたくはなかった。


「そろそろ名前を付けてやろうと思ったのにな…」

「名前ならもう私が付けた…卵から孵ったから『タマちゃん』だ」


遊ばなくなった小春に抱き着き不思議そうに見上げる雛に小春は『何でもないよ』と笑みを浮かべて誤魔化した。
優しく撫でられ雛は嬉しそうに笑みを浮かべ、小春から離れてまた枯れ葉で遊び始める。
きゃっきゃ笑いながら遊んでいた雛はどんぐりを見つけたが、ふと視界に斑のしっぽを見つけ、興味をそちらに移ってしまい思いっきり噛みついた。
タイミングのいい雛に夏目はプッと笑う。


「気に入ってないんじゃないのか?その名前」

「はい!私も名前考えたよ!」

「「え゙」」


小春は斑のしっぽに噛みつく雛を『あ、もう、こらこら』と言いながら抱き上げて止めさせる。
そして名前の話題となり小春は兄の傍に戻り手を上げた。
その小春の言葉に夏目と斑が声を揃え、両者共に固まる。
そんな2人に気付かず小春は満面の笑みを浮かべていた。


「雛だから、『雛太郎』!どう?」

「あ、あー…い、いい名前だと思うよ…あー…でも…その…なあ?先生?」

「はあ!?…あ、ああ!いい名前だな!小春!だが私の『タマ』の方がしっくりくると思うが…なあ?夏目?」

「そ、そうだな!雛太郎だと成長した時矛盾しちゃうし…『タマ』でいいんじゃないかな!!うん!『タマ』で決定!!おめでとう!『タマ』!!」

「えー…」


普段喧嘩ばかりしている二人だが、こういう時には団結する。
小春の破壊的なネーミングセンスに両者共に顔を引きつらせていた。
強引に雛の名前は『タマ』に決定し、小春だけが不服とするなか、雛改め『タマ』は分かっていないが楽しそうに笑っていた。
手を叩いて笑うタマの姿に流石に小春も反対も出来ず『仕方ない』と諦めるしかなかった。
それに夏目と斑はホッと胸を撫で下ろす。


「あなたは今日から『タマ』だよ」


名前も決定し、小春はタマを呼ぶ。
まだ名前を憶えていないが、タマは呼ばれたと分かったのか小春を見上げさらに嬉しそうに笑みを深め、小春もその笑みに釣られて笑い、もう一度名前を呼んですり寄った。
頬擦りをしてくる小春にタマも嬉しそうに小春の頬に抱き着くようにすり寄る。
小春はタマが愛おしくて堪らなかった。
雛から育てた子だから愛情も我が子のように注いでいる。
タマにとって小春は母親であり、夏目は父親であった。
斑は……お兄さんなのだろうか?
そこはまだ謎のポディションである(笑)



****************



その日から雛はタマと呼ばれ、小春を母に、夏目を父に思い、2人の愛情を一身に受け少しずつ大きくなっていった。
小春と夏目の布団に眠り、三人に思いっきり甘え、時折斑のしっぽを噛みながらじゃれつき、一緒にお風呂だって入った。
学校から帰ってきた二人を斑の背に乗って出迎えてくれたこともあった。
その間、小春の顔には笑みがこぼれ、三人の中で一番タマを可愛がっていたのは小春だった。
暇な時はタマと遊んであげたり、姿が見えないと心配になって探したりと、傍から見たら心配性の母親で、夏目はその姿を見て『親馬鹿だなぁ』と微笑ましくもそう思った。
しかしそういう夏目もタマが声を上げればすぐに駆け付けたりじゃれつきすぎて斑にキレられ襲われそうになれば速攻でもやしパンチを食らわしたりと小春の事を言えない『親馬鹿』ぶりを発揮させていた。
タマが笑うと夏目も小春も笑い、楽しそうにしている。
だけど…成長していくごとに、日々が過ぎるごとに…何故かどんどん…衰弱していった。


「どうしたんだ、タマ…」

「食事も手をつけてないぞ?」

「タマ…」


タマの様子が可笑しくなり、食事も食べなくなった。
最初は病気や体調が悪いのかと思っていたが、小春も夏目も人間であり妖ではないので分からない。
食事も取らないから元気もなくなり、最近までこの部屋には元気な笑い声が響いていたのに今ではシンと静まり返っていた。
夏目と小春が寝床用の箱に蹲って動かないタマを心配そうに覗き込む。
小春なんかは衰弱していくタマを見て泣きそうになっていた。
あれだけ可愛がっていれば当然と言えば当然だろう。
夏目はミルクを取り替えてくる際に妹の頭を撫でる。


「大丈夫だ、小春…小春がそんな顔していたらタマも悲しむよ」

「お兄ちゃん…」


だから笑ってくれ、とは夏目は言えなかった。
笑える状況でもないし、第一夏目もタマが心配だった。
何も食べなくなったタマは一日中寝床にいることも多く持ち上げても食べていないのだから以前より軽い。
だから原因は分からないが早く元気になってほしいと願う。


「ミルク替えてくるよ」


不安そうで泣きそうになっている妹に安心できるよう小さくも笑みを浮かべながら夏目はぬるくなったミルクを替えようと一階に降りるために階段へと向かう。
だが…


「うわっ!ネズミ!?」


二階から一階へと繋ぐ階段の踊り場へ下りた時、一階から大きなネズミが上がってきた。
ネズミに驚く夏目の足元をすり抜けるネズミは二階に続く階段で煙と共に人間の姿へと変える。


「お前は…!」

「磯月のネズミと申す…―――小僧、妙な気は起こすなと言ったはずだ…辰巳の雛は頂いていく」


その姿は数日前に夏目と小春の前に現れた僧侶の妖だった。
妖は忠告を無視し雛を隠し持っていた夏目達の家に侵入し、そしてタマを連れていこうとしていた。
連れていかれたタマは確実に殺され食べられる。
夏目は反射的に叫ぶ。


「小春!!タマを連れて逃げろ!!」


塔子や滋に聞かれるかもしれないなどという考えはない。
今はタマを助けることを全て優先していた。
部屋にいた小春は兄の言葉にビクリと肩を揺らし障子を見つめていたが、その隙間からぬっとネズミと名乗った男が現れた。
人間では絶対にありえないその登場の仕方に小春は目を見張る。


「ほう…下賎な獣か…私の縄張りに入るとは生意気な…ネズミごときは猫じゃらしで鍛えた私のこの右フックで…!」


そう言って斑は爪を立てネズミに向かっていった。
だがあちらの方が早かったのか、斑は札によって襖に貼り付けにされて数秒ともならなかった斑の攻撃は封じられた。


「何と面妖な…!豚か?狸か?」

「おのれ!!必ず食ってやるぞネズ公!!」


ネズミが斑に気を取られている隙に小春は弱っているタマを抱き上げ二階の窓から逃げる。


「待て!小娘!!」


それに気づいたネズミの声を耳にしながら小春は家を出ていく。
その後をネズミが追う。

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