勉強はまた明日となり、夕食が出来たという事でみんなで食事をし、男女別れて風呂にも入り、布団を敷いてもらい、寝るまで時間があるからと男性陣の部屋にみんな集まっていた。
枕投げをしていた夏目達だったが、夏目は風に当たりたくて外に出る。
小春も丁度同じことを思っていたからか兄と一緒に庭に出ていた。
既に夜なため周りは暗くて庭全体を見ることはできないが、池を覗けるくらいの明るさはあった。
「こういうのって楽しんだな」
「そうだね…」
小春も夏目もこうして楽しい旅行なんて一度もなかった。
経験する前に早くに両親が亡くなってからは夏目はたらいまわしにされ、小春は影鬼によって機能を奪われベットに縛り付けられていたため、そもそも旅行なんて余裕すらなかったのだ。
夏目は『たらい回しにされてたっていうのもある意味旅行だよなぁ』と自虐ネタを思った。
口にするのも考えたが、どう考えても笑えるネタでもないし、思い出しても楽しかった思い出がなかったから口にするのをやめた。
夏目は妹が病院で寝てるだけで兄だけが親戚たちに冷遇されていたのを気に病んでいるのを知っていた。
だから余計に言えなかったのだろう。
辛い思いをしていたのは何も自分だけではないのだから夏目は『気にしなくていい』と言いたかった。
そう、言えたら楽になるだろう。
だが、言ったとしても小春の心は軽くはならないのを夏目は知っている。
「今度は滋さんと塔子さんと行けたらいいよね」
そう言って小春は笑った。
その笑みに夏目も釣られたように笑みを浮かべ頷く。
頷きながら夏目はチャプンと音が聞こえ、ふと池を見た。
池は暗くて分からなかったが、フナがいるのは見えた。
妖がいた池とこの池が繋がっているため、迷い込んだのだろう。
「お、小春、先生、フナだぞ」
「あ、本当だ…」
「フナくらいで騒ぎおって…」
フナを見つけた夏目は妹にフナを指さして教えてやると、小春もフナを見てふにゃりと嬉しそうに笑い、最近やっと本当の笑みを浮かべるようになった妹に夏目も嬉しくなってふにゃりと笑った。
フナだフナだとフナ一匹で喜びほのぼのとさせる安い兄妹に呆れたように斑は小春の腕の中で溜息をついた。
しかしその時―――池にいるフナが瞬きをしたのだ。
それに驚き3人は声を上げる。
「ぎゃあ!魚が瞬きした!!?」
「離れろ!夏目!小春!!瞼ある魚は妖の化身と言われている!!食われるぞ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐからか、池にいたフナがスイッと夏目達から逃げるように奥へと泳いで消えた。
そこでようやく3人は落ち着きを取り戻す。
「おお、私に恐れをなして逃げていったぞ!」
「妖から見ても不気味な顔なんだろうな」
「…どういう意味だオイ」
斑もだが、夏目も斑に対しては一言多い。
まあそれだけ気を使わなくてもいい関係ということだろう。
瞬きをしたフナの姿はなくなったその池を夏目は見つめながらポツリと零す。
「昼間…大池で見た妖かな…」
「あそこは人魚が済むと昔から言われているかな…小春に接触した際お前たちが『夏目』と気づきつけてきたのかもしれないな」
「じゃあ…その妖は友人帳狙い…」
「その可能性が高いだろうな」
昼間の大池の妖の事は小春は実は覚えていない。
操られたというのもあるし、夏目の事を疑いもしていないから信じている。
自分が狙われたと聞かされぞっとしたが、やはりトラウマは少し治ってきているのか前ほどの拒絶感は感じなかった。
それに夏目も小春もお互いホッとしながらもう遅いからと部屋に戻ることにしたのだが…
「…………」
部屋に戻る二人の背を一人の人物が見送っていたことに気付いていなかった。
4 / 12
← | back | →
しおりを挟む