朝。
一泊だけの合宿なので次の日に帰ることになっていた。
田沼と喋って歩いていた夏目だったが、カバンから顔を覗かせる斑が『夏目、気を付けろ』と小声で呟いたのを聞いて立ち止まる。
「どうした?夏目…」
「…妖が追いかけてきてしまったようなんだ」
「え!?それって…昨日言ってた…」
「ああ…悪いんだけど…田沼、俺…」
「分かってる…こっちの事は任せておけ」
「…ありがとう」
立ち止まった夏目に田沼は首をかしげていたが、夏目の言葉に目を見張る。
昨日、田沼にも妖の事を伝えていた。
気を付けるようにと伝えたが、今も田沼の傍にべったりとくっついて離れない音羽から『要を守ってるのが私なんだから襲われる訳がないでしょ、馬鹿なの?(翻訳)』とお叱りを受けてしまった。
音羽の妖力の高さは知っているためそこは安心出来たが、相変わらず田沼がそばにいると性格が変わるのは中々慣れないものである。
「悪い、みんな…俺、忘れ物しちゃったから先行ってくれないか?」
夏目は音羽がいれば小春も安全だろうと踏み、一人残る事にした。
忘れ物をしたという夏目に待ってると言ってくれた西村と北本だが、二人だけならいいが後輩もいるから気を使わせると悪いと言い訳をして夏目はここで北本達と別れる事にした。
「お兄ちゃん…私も…」
「小春は駄目だ」
「…なんで」
「奈々ちゃんを一人にするのか?」
「………」
兄が留まるという事は…妖関係だろうと察した小春も残ると言いだしたが、夏目は今回はそれを許してくれなかった。
北本達だけならまだ許せただろうが、ここには奈々がいる。
音羽も同級生だが、どう見ても音羽と奈々は折り合いが悪い。
そうなれば奈々が1人ハブられることになる。
それを伝えれば小春は渋々引き下がり、むすっとさせる妹に苦笑いを浮かべ夏目は宥めるように頭を撫でる。
「じゃあ…田沼、音羽ちゃん、小春の事頼む」
「ああ…ちゃんと家まで送るから安心してくれ」
渋々だが納得した小春を田沼と音羽に頼んだ。
何があるかとか死を覚悟をしているというわけではないが、妹が心配だった。
まだ斑が一緒なら不安も薄まるだろうが、斑を用心棒に渡そうとしたら小春が断ったのだ。
今から妖に会うのだから連れて行ってほしいと…そうでないと大人しく帰らないと…そう言われてしまうとこちらも渋々引き下がるしかなかった。
田沼は夏目の信頼に答えようと頷き、音羽は夏目の言葉にピクリと片眉を挙げる反応を見せる。
そんな音羽の反応を見て色々言いたいんだろうけど田沼の手前我慢してるんだろうなぁと思いつつもそれでも頼む自分はいい性格をしているのだろう。
****************
帰りは田沼と音羽が送ってくれるというのでいつも別れる道では分かれず、奈々や西村や北本と別れ小春は田沼と音羽の三人で帰ることになった。
田沼とは兄繋がりだけの仲だったため、こうして兄を間に入れず話したのは初めてだった。
音羽がいたため緊張はないが、やはり兄以外の男性に免疫がなく年上というのもあって恥ずかしかったが楽しくもあった。
田沼が見ていないところでギロリと睨んでくる音羽がいたが、そこはもう無視しか対処法がない。
慣れたいが、美人の『睨みつける』は中々慣れてくれない。
「じゃあ、小春ちゃん…ここまででいいかな?」
「あ、はい…あの、わざわざ送ってくださりありがとうございます」
「はは…そうかしこまらなくてもいいんだけどね…俺も夏目や小春ちゃんのために何かやれたんだから嬉しいんだ」
送ってもらい、小春は田沼と音羽にぺこりと頭を下げてお礼を言う。
田沼は頭を下げる小春に照れた笑みを浮かべ、音羽は田沼が見ていないのをいいことに聞こえないように鼻を鳴らしそっぽを向く。
改める小春に田沼は苦笑いを浮かべ、兄を本当に友として見ていてくれている田沼の言葉に小春も嬉しくなって、嬉しそうにはにかんだ。
その笑みに釣られ田沼も笑みを浮かべ、小春の頭を撫でる。
「じゃ、気を付けてね小春ちゃん」
「はい、田沼さんと音羽さんも…」
夏目不在の家には塔子がいるため一人というわけではない。
そこは安心できるが、妖関係では少し不安だった。
しかし田沼も他人との距離をどう縮めれるのかが分からないためここで部屋で夏目と待っててあげようかと言ってあげれなかった。
言って迷惑だと思われたくないのだ。
だから玄関の扉を開け頭を下げる小春に手を振って無事家の中に入ったのを確認して田沼も音羽と共に帰宅することにした。
『音羽、行こうか』と言われ先に歩く田沼に頷きながら音羽はチラリと夏目と小春の部屋を見上げた。
「音羽?どうした?」
「なんでもないよ」
音羽がついてきていないのに気付き田沼は振り返り音羽に声をかける。
音羽は田沼の声に、田沼と向き直しにこりと田沼にしか見せない笑みを浮かべ首を振って田沼のもとへ小走りに駆け寄った。
「……何かあるのか?」
音羽は笑っていたが、田沼は音羽が夏目と小春の部屋らしい場所を見ていたのに気づいていた。
首を振った音羽が夏目や小春と同じく妖力があり妖を見えるのを田沼は知っている。
夏目や小春の傍に斑がいるのと同じく、音羽にも式神という存在がいるのも知っている。
姿は見た事がないが、傍に何かがいるのは感じられていた。
だから自分よりも妖力の高い音羽の反応に田沼は不安がよぎる。
もしかしたら妖が家にいるのかもしれない…そう思いやはり小春の傍にいてあげた方がいいのでは…と行動に移そうと藤原家へ足を向ける田沼の手を音羽が取った。
田沼は藤原家へ向けていた意識を音羽へ向ける。
田沼の目が自分に向けられているのを見て音羽は微笑んだ。
「何もないよ」
田沼は音羽の言葉に納得していなかったが、田沼の前の音羽はいい子を演じていたためその言葉を信じ、歩き出した。
正直に言えばまだ不安があったが、田沼は音羽を信じていたのだ。
しかしまだ納得できていないのか、後ろ髪を引かれる思いの田沼の腕を組み音羽は『早く帰ろ?』とおねだりするように甘い声を零し田沼を一刻も早くここから離れさせようとした。
妹のように可愛がっている音羽の甘えに田沼は頭を撫でてやると音羽は嬉しそうに目を細め笑う。
その笑みに田沼も釣られて笑みを浮かべ、音羽は自分の気分が上昇するのを感じる。
すると頭に声が響く。
(いかがしますか、音羽さま)
その声は蒼葉だった。
田沼には自分の姿は見えないため話しかけても音羽が反応しないのは承知の上だったため、蒼葉はこちらを見向きもしない音羽の返事を待っていた。
(見張っていなさい…もし"化け猫"がもやし妹に手を出すのなら助けて)
(兄の方はいかがいたしますか)
(放っておけばいい…アレに用はないもの)
蒼葉の問いに音羽も言葉にせず返す。
音羽はあの時、小春と夏目の部屋に"いる者"に気付いた。
その気配も感じたことがあり今のところ敵対している関係の者である。
兄はまだ帰ってきていないがいつ帰ってくるか分からないからの問いに答えながら、妹である小春だけは死守しろと命じる。
その命に蒼葉は音もなくその場から姿を消し藤原家へと向かった。
それを見送りながら音羽は田沼の組んでる腕に更にギュッと抱き着いた。
――――しかし、その夜…蒼葉は怪我を負って音羽の家の庭に捨てられていた。
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