田沼と別れた小春は家に帰り、出迎えてくれた塔子に夏目が忘れ物をしたから遅れると伝えた後、自室へと戻る。
階段を上がり兄と自分の部屋の障子を開けた小春だったが…
「にゃあ」
「!…猫…?」
部屋に入ると本来いるはずのない生物がいた。
それは真っ黒な毛色が特徴の黒猫。
小春が部屋に入るとその黒猫が出迎えてくれて、目を丸くした。
その猫はちょこんと部屋の中央に座っていた。
小春はその黒猫の前に歩み寄り驚かさないように静かに座る。
そっと手を伸ばせば、その黒猫は小春の指先をくんくんと匂いを嗅いだあと小春の手にすり寄り、小春は懐いてくれたらしい猫に笑みがこぼれる。
喉を指で撫でてやればゴロゴロと気持ちよさげに喉を鳴らし、それが斑と重なり実は寂しかった小春はその猫に癒されていた。
「ふふ…君はどうしてここにいるの?…首輪をつけてるから飼い猫、だよね…迷子かな?お散歩の途中だったの?」
窓を見れば少し開いているのが見えた。
猫の首には赤い首輪が嵌められているのを見て飼い猫だと思った。
それに毛並みもキレイにされており、野良ではないと判断する。
「君は綺麗な瞳をしているんだね…珍しい…色違いの…瞳………、…ねえ、君…どこかで会った事あったかな…」
黒猫のおかげで寂しさも半減し黒猫の外見を見る。
黒猫は珍しいオッドアイを持っており、青と赤の瞳の中に小春を映していた。
その瞳や赤い首輪に見覚えがあった。
だけどどこで見たか覚えていなくて聞いても仕方ないが猫に問う。
しかし返ってきたのはやはり『にゃぁ』という鳴き声で返事は返ってこない。
それは小春も分かっていたため『ま、いっか』と呟き黒猫の頭を撫でて愛でることにした。
黒猫は小春の撫でる手が気持ちよくて目を細める。
****************
「ただいま、小春」
夏目も帰宅し、塔子に声をかけた。
塔子の傍に小春がいないのを見て部屋にいるのだと駆け足で妹が待つ部屋に急ぐ。
離れて寝たのも初めてだが、こうして離れたのも初めてだった。
小春にも夏目にも友達がおり、お互い友人たちと帰ったりするため、小春と常に一緒に帰るというわけではない。
だから離れる事自体珍しくはないが、今のように何時間も離れる事は初めてだった。
しかし、どちらかと言えば、シスコンの夏目は妹を一人にするのが一番心配だった。
見慣れた障子を開ければそこには愛しく可愛く目に入れても痛くないくらい溺愛している妹がいるはずだった。
だが………小春の膝の上に黒猫がのんびりと丸まっていた。
それを見て…
「ひぎゃあああああああ!!!」
ブサネコが叫んだ。
****************
ブサネコこと斑の叫びに塔子が慌てて駆け付けてきたが、何とか夏目と小春が誤魔化し、難を逃れた。
叫んだ斑は只今押入れに立ち籠っており、小春がどんなに呼んでも出てこない。
塔子の姿がなくなったのを見て部屋へ振り返った夏目は小春の声かけを無視し立ち籠る斑に溜息をつく。
「先生…出てきて…ね?」
閉められている襖の前で小春が四つん這いになっており、出てこない斑に優しい声で出てくるようお願いしていた。
それだけで可愛いと思ってしまう夏目は妹を愛でるのを我慢し、妹の隣に座る。
「先生、いい加減出て来いよ…小春が困ってるだろ?」
夏目も妹が可愛くて…ではなく、可哀想なため、夏目も斑が出てくるよう告げるも返ってくるのは『うっうっ』という唸る声。
いや…唸っているというか泣いていた。
自分の声でも兄の声でも出てきてくれない斑に小春が眉を下げ『せんせぇ』と泣きそうな声を零すとやはり夏目同様小春にも弱い斑がポツポツと零す。
「"そいつ"を追い出せば出てきてやってもいい」
「「そいつ?」」
「その野良猫だ!」
泣いていたからか鼻声まじりの斑の言葉に小春も夏目も首をかしげるが、斑の叫びにも似た声に二人は同時に"そいつ"とやらを見下ろす。
その"そいつ"とやらは…小春が帰って来た時にすでに侵入していた黒猫だった。
黒猫は小春の腕の間にちょこんと座っており二人の視線に気づいたのか小春達を見上げ『にゃ〜』と可愛い声を零す。
その愛らしさに二人がふと頬を緩ませたその瞬間…
「こるぁーー!!小春ーー!!私という者がありながら野良猫に鼻の下を伸ばすとは何事かーーーッ!!!」
押し入れに立てこもり小春がどんなに言っても出てこなかった斑が自ら出てきた。
亭主関白みたいな事を叫びながら。
今度は塔子に聞こえなかったからよかったが、あまりにも斑の声が大きくて夏目のもやしパンチを食らってしまう。
「な、夏目…きさま…」
「大声出すなよな!先生!!」
亭主関白発言よりも大声を出して斑が妖だと気づかれる事を恐れた夏目(亭主関白発言はボケだと思うようにしているようである)に殴られいつものごとく頭にタンコブを作りノックダウンしている斑が出来上がった。
そんな斑に小春は苦笑いを浮かべ、うつ伏せで倒れるブサネコを抱き上げいつものように膝の上に乗せ、タンコブに触れないよう優しく頭を撫でてやる。
「先生…機嫌直して?」
「…機嫌を直してほしくば今日一日私に構え」
元々斑は小春と夏目の祖父である友樹にメロメロである。
その為友樹に瓜二つの小春には滅法弱い。
小春に頭を撫でられ優しい声で宥められれば一秒で降参するしかないだろう。
フン、と鼻を鳴らしながらも機嫌は直ったようである。
斑の機嫌が直り小春はホッとするも、妹愛の強い夏目はグッと拳を握った。
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