(11 / 12) 20話 (11)

笹船が意地悪をしてあげた血だと思っていた物は、笹船の記憶を見た小春がブドウの汁だと千津に伝えた。
ブドウの汁で人が不死になるはずもなく、夏目と小春は気になって数日駅に張り込んだ。
そして千津から見せてもらった写真とそっくりの蛍一そっくりの人物を見つけることが出来た。


「そう…お孫さんだったの…」

「ええ、塾で時々あの駅に寄るそうです」


千津に彼と会い話した事を伝えた。
ベンチで人が行き交うのを見ながら夏目と小春は千津が探していた人物は蛍一ではなく、その蛍一の孫だという事を教えた。
あの血がブドウ汁で、探し人だと思ったその男性が実は孫だったというのを知って千津は胸を撫で下ろしていた。
それを見つめながら夏目はチラチラと駅の方を見る。


「お孫さん、千津さんにおじいさんの事聞きたいそうです」

「え?」

「そろそろだ…あ、ほら、千津さん、あそこ…」


駅は相変わらず人通りが多くて、田舎の類である自分たちの住む場所とは大違いだった。
夏目はその人込みの間に『彼』を見つけ千津に教える。
何も聞いていない千津は夏目の言葉に首を傾げ、しかし何も答えない夏目から小春へと目をやれば小春も笑みを浮かべるだけ。
ますます訳が分からなくなり千津は首をまた傾げた。


「蛍一さんが亡くなったのは三年前だそうです…―――とても、お幸せそうだったそうですよ…」

「…っ!!」


また夏目の方へ振り向えば、夏目は人込みの方へ指さした。
その指さした方へと向ければそこには…蛍一とそっくりな男性が1人、こちらに歩み寄っているのが見えた。
男性と蛍一が重なって見えるほど…その男性は千津が探していた人と似ていたのだ。
そう…その人こそ、蛍一の孫であり、千津が蛍一と見間違えた人だった。
彼は千津を見つめ、彼と同じ優しい笑みを向けてくれた。



****************



その後、小春と夏目は千津に気を使い二人きりで話せるよう帰ることにした。
その際千津に感謝され、夏目達は帰る前に笹船と出会ったあの池へと足を運ぶ。


「しかし…傷心の人魚から名を奪おうなど…レイコはつくづく鬼畜だな」


池に近づき水辺の傍に座る。
小春も兄の隣に座れば、呟きながら斑が小春の膝の上に乗りまったりとした。
相変わらずレイコには厳しい言葉(だけ)をかける斑に小春は苦笑いを浮かべ優しく背を撫でてやる。
そんな二人のやり取りを見ながら夏目は池へと目をやった。


「笹船、千津さんまた来るってさ…」


そして笹船に向かってそう呟いた。
しかし笹船の気配はなく、魚一匹姿を現すこともなかった。
それでも夏目は笹船が聞いてくれたような気がして、その顔には笑みがこぼれる。
斑は小春の膝の上からそんな夏目を見上げ、ぽつりとつぶやく。


「…いつでも助けてもらうなよ、夏目……人には出来ないことが多い…そのくせお前たちはそれを忘れやすいんだ」


斑の言葉に夏目は池から斑へと目を移す。
その斑の言葉に夏目は『ああ、そうだな』とふと笑みを浮かべ、また池へと目線を向けた。
夏目が池を見たため、小春も斑も釣られるように池を見る。

やはり池に笹船の気配はなく、ただ池の水面に浮かぶ葉が風で揺れていただけだった。

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