夢を、見ていた。
夢の中の小春は目も見え耳も聞こえ、木の陰に隠れるように立っており目の先には楽しげに笑い美しい音楽が流れ緩やかな時間が過ぎていく。
美しい女性や男性が音楽を奏で、その目の前には老人が奏でる音に耳を傾けている。
その中で1人だけ大きな傘を持ち老人に差している男がいた。
小春はその男に目を奪われる。
その男は他の者とは違い、顔に包帯を巻き片目だけが覗いていた。
その男の目線は音楽を奏でている女性達ではなく1人の女性に向けられていた。
男が女に向ける瞳はとても優しく、愛しげで暖かかった。
しかし…
老人や男達の目の前でその女の手が砂のように崩れていく。
小春は目を丸くした。
驚いて声が出ないのか、それとも夢の中でも声は出せないのか…
悲鳴1つあげれなかった。
そして、女は体を砂に変え
残ったのは琴ただ1つ―――…
「――――ッ!!」
小春は琴がゴトリと音を立てて落ちた瞬間目を覚まし飛び起きた。
はあはあ、と荒い息が静まり返るその場に響き、小春はつい自分の手を確認するように目線を落とす。
―――が、小春は別の意味で目を丸くさせた。
「め…目が…見えてる?…え…声も…」
「目を覚ましたか、アサギ」
「…!!」
手をつい見るように目線を落としたのだが、本当なら手も何もかも見る事ができないはずの視界にはっきりと己の手が映し出され、手だけではなく周りの全ての物が小春の目に映し出される。
目が見えるようになっただけではない。
声も耳も普通に聞こえ、出せる。
フクロウの鳴き声や風に揺られる木々の音が耳に届いている事に小春は驚きが隠せなかった。
小春が驚いていると誰かの声が小春の耳に届き顔を上げる。
そこには月をバックに立つあの夢の男がいた。
「あなたは誰ですか?……って…え?……月が後ろに見える……どうして…え!?外!?」
「なんだ…お前か…」
男を見上げて初めて小春は外に居ることが分かり驚いて見開いていた目を更に丸くさせた。
男はそんな小春にチッ、と舌打ちを打つ。
「ど、どうして…!?あなたは誰なんですか!?それよりもなんで私外に…っ」
「だー!煩い!そう騒ぐな!!!」
「騒ぐなって…さっきまで病室のベットで眠ってたんだから騒ぐに決まってます!!」
「だからそれを説明してやるから騒ぐなと言ってるんだ!!」
「それを早く言ってください!」
「今言っただろ!!」
「騒ぐ前に言ってくださいと言ってるんです!」
「だから…」
『お待ちなさい、アカガネ』
「!…アサギ…」
「え…なんで…私……」
男、アカガネに小春は混乱しているのか突っかかる。
アカガネも負けじと声をあげるので二人はどうしても喧嘩越しになってしまっていた。
それを止めたのは小春だった。
…否、小春であって小春ではない誰かだった。
それをアカガネはアサギと呼び、小春は自分の口が勝手に喋りだしたことに驚き口元に手を持っていく。
そんな小春にアサギは申し訳ないようにつぶやいた。
『人の子よ…この者の無礼をお許しください…私の為の行いなのです…』
(私の中に…誰かがいる…?)
『はい…私はアサギと申します…訳あってあなたの体をお借りしているのです…』
「……私の体を…?…そんな…どうして…」
『…申し訳ありません…勝手に体を使ってしまい……私は……、…っ』
「え?あの…!」
アカガネをよそに小春はアサギと会話をしていた。
自分に質問して自分が答えるというなんとも不思議な感覚になりながらも小春はどうして自分の体に入ったのかを聞き出そうとした。
しかしアサギは突然黙ってしまい、小春は戸惑ってしまう。
すると自分の中から寝息が聞こえ『ええ!?』とつい声を上げ、2人の会話を黙って聞いていたアカガネへ小春は顔をゆっくりと向けた。
「ア、アカガネさん…アサギさんが……」
「ああ、眠ったのだろう…だから無理はするなと言ったのに…」
「無理…?」
「…俺がアサギの代わりに説明してやる」
「はあ…」
なんか偉そう…、と小春は思いながらもまた言い合いをしては先に進めないと思い口にするのを止める。
アカガネは小春の前に座り、アサギがしようとしていた説明をしたやった。
「アサギは高貴な妖(かみ)が集う幻の郷、『磯月の森』に住む美しい蒼琴弾きだった…」
「磯月の…森…」
「そうだ…アサギはその森の主である壬生神さまに蒼琴を弾きお仕えしていたのだが…ある日病でその身が崩れ始め楽を奏でる事も出来なくなって里に帰されたのだ……その身は爛れ、もう神に見える事も弦を弾く事も出来ぬ…」
小春はアカガネの話を聞き、夢を思い出していた。
病と砂との関係性は見えないが身が崩れるという言葉にゾッと背筋を冷やす。
そんな小春に気付かずアカガネは小春がアサギ自身のように悲しげに見つめる。
「よく笑う奴だったんだが…すっかり元気がなくなった…もう一度蒼琴を弾けば…弾かせてやればもう少しは気が晴れるかもしれないんだ……だから…だから人の子よ!アサギの為に暫くその器を貸してくれ!!蒼琴を弾けばその体は返す!だから…頼む!!」
「…………」
アカガネは先ほどの態度とは正反対に小春に頭を下げた。
小春はそれに少し驚き小さく目を見張ったが、アカガネの思いにグッと手を握る。
アカガネの少しでもアサギを長く生かせて琴を弾かせたい思いも、アサギの体が崩れる恐怖も小春に十分分かっていた。
分類としては違うが他の人とは違う病と死に向かっている今を生きる小春も二人の必死さは分かっていた。
「……私も…病気だから…体は丈夫な方じゃないですけど…いいですか?」
「!…構わん!!アサギが居る間はお前は俺が守ってやる!!」
「じゃあ……構いません…」
「すまない…!恩に着る!!」
だから小春はアサギの為、そしてアカガネの為に体を貸すことにした。
小春が頷いたのを見てアカガネが本当に嬉しそうに笑みを浮かべ頭を下げるその姿に小春も嬉しそうに笑った。
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