「寝ないのか?」
「アカガネさん…」
小春はあれからアカガネが作ってくれた寝床で横になっていた。
葉っぱを集めて敷いただけの寝床だが地べたで眠るよりはよく、アカガネが肩に掛かっていた布を上からかけてくれたお陰で寒さはあまりないがやはり真冬ではないにしろまだ寒い時期なため寒さに中々眠れななかった。
小春は起き上がって夜空を見上げていたが、眠らない小春に気付いたアカガネが声をかけてきた。
「寒くて…」
「人間は軟弱だな…寒さで眠れないとは…」
「妖怪達は違うんですか?」
「まあ、その者によるが…よっぽどの寒さではなかったら平気だ」
「へぇ…羨ましい。」
「そうか?」
「はい、羨ましいです」
にこりと小春はアカガネに笑いかける。
アカガネはその小春の笑みをただ見つめるだけで何の反応もなく、小春は顔を背けることもしないアカガネに首をかしげた。
「アカガネさん?」
「…お前は怖くはないのか」
「何がですか?」
「俺達妖かしが、だ…」
「………」
アカガネは小春が目を覚ました時から疑問に思っていたことを問う。
その問いに小春は笑っていた笑みを消しアカガネから地面に生えている草に目を移す。
「…怖いとか…まだ知らないんです」
「知らない?」
「はい…私、小さい頃に目と耳と口と足が機能しなくなってしまって…それから外の世界を知らずに生きてきました…」
「…………」
「でも目が見えなくなる前からでもあなた達妖怪は見えていました」
「それなのに怖くはないと?」
アカガネの問いに小春は地面からアカガネへ顔を上げ小さく笑う。
「だって、昔はみんな一緒に遊んでくれたから」
「なに…」
「小さい頃…妖怪が私の唯一の友達だったんです」
小春の言葉にアカガネは微かに目を見張る。
そんなアカガネをよそに小春はアカガネから空へと目線を変えた。
「人間の友はいなかったのか」
「まあ…はい…1人も。」
小春はアカガネの遠慮のない問いに痛いところを突かれたと苦笑いを浮かべて小さく頷いた。
「なぜ」
「……人間って、すごく面倒臭いんです…」
「面倒臭い?」
「はい…自分達に見えない物が見える人を徹底的に拒絶して追い出そうとする…それが人間なんです…」
「……何が…あった……何をされた…」
「…………」
小春の言葉にアカガネは目を細め低い声で呟く。
アカガネの低い声に怯えることもなく小春は空を見上げるのを止め、俯いた。
それにアカガネは聞かれたくない事を聞いてしまったと内心後悔していたが後悔しても出してしまった声も言葉も取り消すこともできずただ小春を見つめる。
急かすことも問いただすこともないアカガネに小春は黙ってても良かった。
しかし声を失ってから妖かしだとしても言葉を交わす事がなかった小春はゆっくりと口を開く。
「石を…投げられました…」
「…!」
「川にも落とされました…」
「………」
「仲間外れにされ、ばい菌扱いされ、忌み嫌われ……ずっと1人でした…」
「……すまない…」
「なぜアカガネさんが謝るんですか?」
「俺が聞いてしまったからお前は嫌な思い出を思いだすことになった…悲しませるつもりはなかったんだ…すまない…」
アカガネは守るために小春に聞いた。
誰が小春を傷つけたのかと…傷つけた者を許さない、と。
会って1日も経っていない小春なのに…人間なのに小春を守らなければならないと思っていた。
アサギと同じく、守ってやらないといけないのだと。
だが、そんな何気ない言葉で小春は傷つき、悲しげな表情を浮かべている。
アカガネが見たかった表情はこの悲しげな表情でも曇った表情でもなく、暖かく優しい笑顔だった。
そんな落ち込むアカガネに小春は目を見張った後クスリと笑う。
「優しいんですね、アカガネさんって…」
「や、優しい…」
「…大丈夫ですよ……大丈夫…他の人間には嫌われてましたけど家族に恵まれて妖怪達に恵まれましたから」
「………」
「お父さんもお母さんもお兄ちゃんも妖怪達も優しくて温かくて大好きでした」
「そう、か…」
『あ、そうだ。お兄ちゃんも私と一緒で見えるんですよ』と笑みを浮かべてアカガネを見上げる小春にアカガネはもう一度『そうか』と優しげな笑みを浮かべた。
悲しげではない笑みにアカガネはホッと胸を撫で下ろした。
小春はそんなあからさまにホッとするアカガネに笑みを深め突然立ち上がり、アカガネは首をかしげて小春を見上げる。
「どうした?」
「アカガネさんにもアサギさんにも感謝してます。」
「な、なんだ?いきなり…」
アカガネは小春がお礼を言い出し、戸惑う。
戸惑いも顔に出ているアカガネに小春は愉快そうに笑いながら風を受けるように両腕を広げて空を見上げる。
「だって自分の足で立って、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の口で何かを伝えられることがこんなにも素晴らしいとは思ってもみなかったんですもの!」
よほど誰かの手を借りず歩ける事が嬉しいのか今まで見た中で最高の笑みを小春は浮かべ、そんな小春にアカガネも目を細め笑う。
クスクス笑みをこぼしていた小春だったが突然その笑みも止め悲しげな笑みを浮かべたため、どうしたのだろうとアカガネは慌て出す。
「小春?」
「……だから…余計に死ぬのが怖い…」
「…!」
「怖いよ…」
立ち上がっていた小春だったが泣きそうな声で呟きしゃがみ込んで膝に顔を埋めた。
体を震わせる小春にアカガネは罪悪感が襲い小春に声を掛ける言葉も見つからず慰めようとした手も行き場もなくだらん、と下がってしまう。
小春はそのまま眠り、アカガネは自分の肩掛けを小春の肩にかけてやった。
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