朝、小春は座り込んだまま眠ったせいか首が痛く、体がだるいまま目を覚ます。
『横になって寝ればよかった…』と思っているとアサギが小春に声をかけてきた。
『おはようございます、小春様』
「おはようございます、アサギさん」
優しい女の人の声が頭の中で響き、その声がアサギだということが分かっているため小春はもう混乱することも取り乱すこともなく同じく穏やかな声で挨拶を返す。
しかしふと周りを見渡すとアカガネの姿がなく、小春は首をかしげた。
「あれ?アカガネさんは…」
『アカガネなら小春様に朝食を、と川へ…』
「ああ…そっか…私お金持ってなかった…」
小春は病人だったためお金は持っていない。
妖かしであるアカガネやアサギも人間界でのお金は持っていないだろう。
だからアカガネは小春が寝ている間に川魚を取りに姿を消したとアサギは伝える。
小春はなんの魚なんだろう、と焼き魚を思い浮かべたせいかお腹がぐーっ、と鳴り顔を赤くする。
小春のお腹の音にアサギはクスクスと笑みをもらす。
「ア、アサギさん…」
『ふふ…申し訳ありません、小春様…』
笑われたことに恥ずかしくて俯かせていると小春はふとある事を思い出す。
「ねえ、アサギさん…」
『はい?』
「今何時かな…」
『辰の上刻です』
「た、たつ…?」
『?、はい、辰です』
「…………」
時間を聞いたのに干支が出てきた…小春はどう答えたらいいか分からず『そ、そっか…ありがとう』とお礼を言った。
(辰…辰って何時だったけ…)
『ああ、そういえば人間の世界では干支では数えませんでしたね…すみません……確か人間の時間では午前8時だと思います』
「え?」
『申し訳ありません…中にいる私には小春様が何を思っているのか分かってしまうのです…』
「そっか…」
『申し訳ありません…小春様…』
一応人間の時間表は知っていたのか小春に時間を教える。
小春は聞いてもいないし呟いていないのにまるで質問に答えてくれたアサギに驚きキョトンとなる。
アサギは小春が思っていることも分かってしまうと謝ったが、小春は何度も謝るアサギに慌てて気にしてないと宥めた。
「アカガネさんはまだ当分戻ってこないんですよね?」
『はい、先ほど取りに行きましたから当分は』
「そっか……」
『小春様?』
小春の考えている事にアサギは首をかしげた。
そんなアサギをよそに小春はキョロキョロと周りを見渡したあと心の中で『アカガネさんごめんなさい!』と謝りながら森へと姿を消す。
『小春様!?ど、どこに行かれるのです!?アカガネが心配してしまいます!!』
「大丈夫!すぐに戻ってくるから!」
『そ、そんな…小春様!?』
ザザザ、と小春はアサギが止めるのも聞かず森の中へと進む。
アサギは小春の名前を呼ぶが小春がアサギの制止に足を止めることはなかった。
ついた先は人里。
恐る恐ると言ったぐあいに小春は木から顔を覗かせ向こう側を見つめていた。
『小春様…一体なにを…』
「うん…ちょっと…」
『アカガネが心配します…お戻りください』
「うん…ちょっと…」
『…………』
ずっとこの調子で何を言っても聞く耳もたないためアサギは諦めた。
小春の目の前には同じ服を来た男女がいた。
小春の目を通して見るその風景は妖かしであるアサギからはとても面白く見える。
「あ…!」
『?』
なぜ人の子は同じ服を着ているのだろうと面白く観察していると小春の目に1人の少年が映る。
その少年は灰色かかった色の髪を持ち、その容姿は小春に負けじと美しい。
アサギはその少年を見ながら磯月の郷に居ても可笑しくない、と正直に思う。
小春はその少年をただじっと見つめるだけで話し掛けることもない。
その様子にアサギはピーンと来た。
『小春様』
「え?はい?」
『小春様はあの人の子に恋をしていらっしゃるんですか?』
「はあ!?な、何言って…」
「小春…?」
「―――!!」
アサギはじっとその少年を食い入るように見る小春が恋をしているのだと思い、微笑ましいとくすりと微笑んだのだが、小春は声を上げて驚く。
それに首をかしげたその時小春が食い入るように見ていた少年が小春に気付き目を丸くさせこちらを見ていた。
小春は少年に声を掛けられ肩を揺らし、その場から去ろうと森の中に走っていった。
「小春…ッ!?待て…!小春!!!」
「夏目!?」
友人がいたのだろう。
小春が森の中に去って行くのを慌てて追いかけるその少年に驚き声を上げる。
行き成り走りだした少年にお互い顔を見合った。
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