あれから小春は夏目の学校が終わるまでジッとしているように言われ渋々兄に従った。
アカガネも文句を言っていたが夏目に根負けし、小春とともに夏目が終わるのを待っている。
「しかし…妖かしが憑依して全て治るとは……」
ガツガツとアカガネが獲ってきた魚を食べながら斑は感心するように呟いた。
ちゃんと焼いているので生であることの心配はないが、小春は食い意地が張っている招き猫に苦笑いを浮かべる。
「うん…私も驚いちゃった…だって目を覚ませば外の風景が普通に見えるし喋れるし立てるし聞けるしで…もうパニック起こしちゃったよ…ね、アカガネさん」
「ああ…」
パンを齧りながら小春はアカガネに振り返る。
小春は今、マフラーをしコートを羽織り手袋をはめている。
これは全て自分の物で、兄である夏目は最初寒いからと自分の着ていたコートやらマフラーやらを小春に与えようとしたが、それでは兄が寒いのではと小春は断り続けた。
平気だと言うが病院から連れ出されてパジャマ姿な小春はとても寒く、コートを自分に与えたら今度は夏目が風邪を引いてしまうと慌てた。
結局、夏目は走って自宅まで帰り、忘れ物を取りに来たと誤魔化しつつ小春のお泊まり用として塔子達が買ってくれたコート、マフラー、手袋と家にあったパンを貰い小春の元に戻ってくることとなった。
その時間、なんと5分も掛からなかったという。
『お前はどこまでもシスコンだな。まあ私はトモコンだがな。』と斑の突っ込みと言えるか分からない突っ込みをスルーし、小春にコートを着させマフラーを巻き小さく冷たい手に手袋をはめ、裸足だった小春の足に靴下と小春の靴は家にはないので代わりに夏目のサンダルを履かせた。
下着とパジャマ以外全て夏目コーディネートである。
因みに何故斑が魚を食べ、小春がパンを食べているかというと…斑の食いしん坊が発揮され小春の為に焼いた魚を斑が食べてしまったのだ。
小春は魚を食べられ仕方なくもしお腹すいたらコレを食べろ!と持ってきたパンを早速食べるはめとなる。
まあ、朝食抜きよりはいいかな…と小春は熱々の魚を熱がる事なく美味しそうに食べる斑を見て癒されながらそう思った。
「でも自分の目で確かめる空とか森とか動物とか凄く新鮮に見えるわ。」
「そうか」
「うん。お兄ちゃんも見れたし…もう思い残すことはないね!」
小春の言葉に斑は微かに目を見開く。
まさか小春が自分の寿命を知っていたとは、と顔に書いてある斑に気付き、小春は苦笑いを浮かべた。
「自分の死期くらい分かるよ」
「……すまない…顔に出ていたのか…」
「ううん…いいの……お兄ちゃんの顔も見れたし、お兄ちゃんを守ってくれる子も見れたし……万々歳だよ」
「………」
斑の正体はすでに話していた。
まさか飼い猫だと思っていつも膝の上に乗せて撫でて可愛がっていた猫が妖怪で、妖力がある兄の用心棒をしてくれている妖怪だったとは思いも寄らず、紹介を聞いたとき小春は驚きの声を上げた。
…ただ、夏目は友人帳の話はしていない。
だから斑もそのことに関しては触れなかった。
斑は嬉しそうに自分を撫でる小春の手にうとうととまどろみながら浅い眠りへ誘われる。
―どこに行ったのだろう…―
―あの子はどこに行ったのだ……―
斑は深い眠りの中で夢を見ていた。
斑の目線の先には大きな体と黒い毛を持つ妖かしが細い尻尾を揺らしながら遠くを見つめ呟いていた。
―諦めろ影鬼…レイコも友樹ももう来ない―
―なぜ?なぜ来ぬ?あの子が我に会いに来ぬと何故言える?―
斑の言葉に妖かし…影鬼は斑に振り返り首をかしげる。
斑とは正反対のその容姿に斑は目を細めこう呟いた。
―人の生は短い…お前や私より遥かに短く呆気ないものだ…それすら知らぬのかお前は…―
馬鹿にしてはいないが呆れてはいた。
妖かしならば人の命の短さは誰もが知っていることである。
だが目の前の黒い妖かしはそれを知らない。
知る術を持たなかったのだ。
そんな同情めいた気持ちを向ける斑に影鬼は気付かず斑から顔を逸らし前を向く。
―友樹…友樹に会いたい……―
斑は待つだけの影鬼に呆れ返り、その場から立ち去った。
そして、二度と影鬼の前に斑も友樹もレイコも姿を現すことはなかった―――…
パチリ、と斑は目を開けて浅い眠りから起きる。
浅い眠りの中の夢に斑は懐かしそうに目を細め大きな欠伸を1つする。
『わ、大きな欠伸』、と愛らしい声が上から聞こえ顔を上げるとニコリと笑っている小春が己を見下ろしていた。
「ふふ、おはよう。ニャンコ先生」
「……ああ…おはよう…小春…」
いつの間にやら小春の膝の上に乗っているのに気付く。
どうやら斑が眠っている間に小春が自分の膝の上に移動させずっと撫でていたらしい。
斑は『だからあの夢を見たのか』と心の中で呟いた。
まだ眠いのか大人しい斑に小春はくすりと笑みを深める。
(随分と懐かしい夢を見たな…)
斑はすでにシルエットでしか思い出せない妖かしを思い浮かべる。
その妖かしは小春と夏目の祖父である友樹が唯一見えたという妖かし…影鬼だった。
(影鬼…あれから姿を消したと聞いていたが…)
別れた後は風の噂でしか影鬼の話しは聞かなくなったが、封じられる前にその噂もピタリと止む。
妖かし達は厄介者が居なくなったと清々していたが友樹という共通の繋がりがあった斑は少し寂しさを覚えていた。
しかしだからといって共に居ようとは思わなかった。
妖かしとはそういうものだ…斑は最後に見た影鬼の背中を思い出しチクリとくる痛みにそう言い訳をする。
(そういえば…あれはいつも1人だったな…)
また斑に睡魔が襲い、背中を撫でられる懐かしい感覚に目を閉じそのまま眠りへと誘われた。
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