(7 / 15) 4話 (7)

夏目は困っていた。


(小春をあのまま外に置いておけないよな…かと言って塔子さん達のところには泊められないし…一体どうしたら良いんだろうか…)


廊下を歩いていた夏目は悩みに悩み立ち止まって腕を組んで無意識なのだろうか…眉間にシワが寄っていた。
夏目が悩んでいることとは、小春のことである。
妖かしである斑やアカガネ達は風邪は引かないようだから外に置いておくのは構わないだろう。
しかし小春は妖力が自分と同じように強く妖かしが見え、傷も癒すというのを除けばれっきとした人間である。
ましてや夏ならまだしも今は真冬というわけではないが寒いことこの上ない。
いくらコートやマフラーなど巻いてやっても夜は今以上に冷える。
幸い明日から連休で夏目も一緒にいてやれるのだが……やはり唯一の血の繋がった妹を寒い外に居させるのは心苦しい。
今だって授業がなければ真っ先に小春のところに行きどこか暖かいところでも行っているだろう。


(先生…ちゃんと本当の姿になって小春を暖めてくれるかな……いや、それはないな…多分小春の膝の上で体撫でられてゴロゴロ言ってそうだ…)

「夏目?」

「…!」


全く持ってその通りである。
夏目は目に浮かぶようだとちょっぴり斑に嫉妬しながら小春を心配していると背後から声を掛けられハッとさせて慌てて後ろに振り返った。


「た、田沼…?」


後ろにいたのは夏目ほどではないが同じく霊感がある田沼だった。
田沼は妖かしを見ることは出来ない。
しかし妖かしの影や気配を感じる事ができるのだが、気に当てられよく体調を崩している。
夏目は声をかけてきた時点で田沼だと気付かないほど思考に夢中になっていた。


「どうしたんだ?腕を組んで難しそうな顔して…」

「え?俺そんな顔してたか?」

「ああ…また妖かしのことか?」

「あ…あー……まあ…ちょっとな…」

「………」


夏目は1人で居た分あまり人には頼らない。
その事を田沼は少し…いや、すごく寂しいと思っていた。
少しは頼ってくれても、と思う反面夏目ほど霊力がないからだろうな、と納得しているところもあった。
田沼はそんな思いを表には出さず残念そうに小さく笑う。


「じゃあ誘えないな」

「誘う?何にだ?」

「いや…連休中父さんが出張で遠くに行ってさ、家にいないんだよ…だから泊まりにこないか、と聞こうと…してたん…だけど……夏目?」

「それだ!!!」

「え……は?」


田沼の言葉に夏目は口を開けて田沼を凝視していた。
そんな夏目に田沼は夏目の目の前で手を振ったがその瞬間夏目が声をあげビクリと肩を揺らす。


「田沼!ちょっと頼みがあるんだ…!!」


夏目は田沼の肩を掴み、いつもはあまり見ない真剣な表情を浮かべた。
田沼は普段なら嬉しい言葉なのだが、あまりにも夏目が真剣すぎて若干身を引いていた。





―――夕方。


「小春ー!!」


小春は斑を抱きしめながら兄を待っていた。
その間に何回かアカガネが痺れを切らしたが小春やアサギが宥めてくれたお陰でなんとか収まる。


「!、お兄ちゃん!!」


兄の声に小春は嬉しそうな笑みを浮かべ走ってくる兄へ振り返る。
しかし兄の後ろにいる黒髪の男に笑みを消し首をかしげた。


「小春!待たせてごめん!!寒かっただろ?」

「ううん…ニャンコ先生がいたから平気……」


首をかしげる妹のもとに駆け寄る夏目だったが言葉を返しながらの小春の目線が後ろへ向けられているのに気付き『ああ』と声をもらした。


「紹介するよ、小春…この人は田沼って言ってお兄ちゃんの…友達だから安心していいよ。」

「初めまして、小春ちゃん…お兄さんの友達の田沼要です」

「は、初めまして…夏目小春です…」


夏目は恥ずかしそうに後ろにいた黒髪の男を紹介する。
田沼と名乗った黒髪の男は夏目の"友達"という言葉に嬉しそうに笑い、その笑みに年の近い男性に免疫がない小春はほんのり頬を染めた。
口が聞けなかった時とは違い自分の口で自己紹介するのは初めてで小春は少し緊張しつつ気恥ずかしそうに笑う。
そのはにかむような笑みに田沼は微かに目を見張った。


「驚いた…本当に美少女なんだね」

「え…」

「た、田沼…?」

「ごめん…北本と西村が夏目の妹はなんと美少女だ!ってみんなに言いふらしてるの聞いてたから…」


会った時からでも美少女だと思ったけど笑うとより可愛いね、と小春に笑いかける田沼に小春の頬は一気に赤く染め上がる。
それに夏目は複雑そうに見つめながら『あいつら…!』と田沼とは違い下心満載の某2人を心の中でギリギリと歯を鳴らす。


「誰だ、そいつ…」

「あ、アカガネさん…この人お兄ちゃんの友達の田沼さんだって」

「はあ?友達?」

「そこに…妖かしがいるのか?」

「え?」


一先ず挨拶も済んだところでアカガネが小春に声をかけてきた。
それに小春がアカガネに説明すれば何故友達をつれてくるんだ?とアカガネが呟き、後ろにいるアカガネに説明している小春を見て田沼は首をかしげる。
小春は田沼の言葉に目を見張り、ここに連れて来たということは妖かしも見えるからと思っていた小春は兄へ目を移す。
驚いた表情を浮かべる妹に夏目は苦笑いを浮かべた。


「大丈夫…田沼は妖かしのこと知ってるから」

「でも…」

「すまない…俺は霊感があっても見えないんだ…」

「見えない…」

「影や気配ならわかるんだけど…この目には見えないんだ…」

「そ、そうなんですか…」


悲しげに笑う田沼に小春は何も言えなかった。
『ごめんね』と呟く田沼に小春は何も言わず小さく笑い首を振った。


「おい、小僧。」

「なんだ傘差し」

「…………」

「…………」

『まあ、アカガネったら…』

「え?――っうわ!びっくりした…!」


夏目とアカガネはどこまでも気が合わないらしく、両者決して名を呼ぼうとはしない。
それに小春は苦笑いを浮かべていたが突然髪が青くなりお淑やかに微笑みだした。
目の前の少女の髪が黒から青へと変わり声色や仕草まで変わったのを見て田沼は驚きが隠せず声を上げる。
そんな田沼に小春もといアサギはマイペースに自己紹介し、夏目に聞いていたのでなるほど、と田沼はすぐに納得し同じく自己紹介をする。


(……なんだ、これ…)


片や睨み合い、片やほのぼのな空気をかもし出す。
小春の腕の中に居る斑は心の中でそう呟き突っ込んだ。

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