(8 / 15) 4話 (8)

夏目は親が留守だという田沼の家に泊まる事になった。
夏目1人なら家に帰ったり外なら外でもいいのだが、妹である小春がいるのなら話は別である。
小春には極力辛いことはさせたくはない。
もうすぐ散る運命だからというのもあるが、溺愛して止まない妹を辛い思いをさせる兄がどこにいるのだろうか。
夏目は田沼に事情を話し家に妹を泊まらせてくれるよう頼んだ。
田沼は夏目が頼ってくれるのが嬉しいのもあるが、何より田舎と用心棒が2人いるとはいえ少女を1人妖怪だらけの森に泊まらせるのは抵抗があり、2つ返事で頷く。


「さ、遠慮なく上がってくれ」

「「お、おじゃまします…」」


夏目と小春は緊張気味に家に上がる。
兄妹揃って人の家に遊びに行ったり泊まりに行ったりする経験は皆無なためどうしても体がカチンコチンに固まって緊張してしまう。
そんな兄妹に田沼は苦笑いを浮かべるが自分も友達を家に上げるのは初めてなので兄妹ほどではないが緊張していた。


「飲み物持ってくるから待っててくれ」

「あ、ああ…」

「あっ…手伝います!」

「小春、その前にお前はやる事があるぞ。」

「え?」


夏目は小春の分と自分の分の着替えが入っているカバンを泊まる部屋に置いた後居間に案内され小春と2人で座布団の上に座る。
飲み物と茶菓子を持ってくると言って部屋を出て行こうとする田沼に気付いた小春は慌てて立ち上がって手伝おうとしたが、腕の中にいた斑に止められてしまう。
小春達は斑の言葉に全員が首をかしげる。


「やる事って?」

「アカガネをこの寺に入れなければならないだろ」

「え…あ!そういえばアカガネさんがいない!!」

「…どうりで静かだと思ったら…」

「なんだ?アカガネって妖かしが居ないのか?」


斑の言葉にようやくアカガネが居ないことに気付き小春と夏目はキョロキョロと辺りを見渡す。
田沼は招き猫バージョンの斑以外は見えないためアカガネが居ないこと自体小春と夏目の言葉で気付く。
そんな3人に斑は溜息をついた。


「当たり前だ…アカガネは妖かしでここは寺…しかもあの坊主は力はある……妖かしは元々穢れている者なのだ…神かよほどの者でない限り安易に入っては来れない。」

「へぇ…って先生はどうなんだ?」

「馬鹿者!私は高級感漂う上級な妖かしだぞ!!そんなへっぽこ坊主の妖力などに負けてたまるか!!」

おい、俺の目を見て言え。


斑は夏目の問いに脂汗をかき必死に目を逸らしていた。
それに夏目は半目になるが、その横では田沼が『へ、へっぽこ坊主…』とちょっと落ち込み、それを見た夏目は斑を非難するように睨む。
夏目の睨みに観念したのか斑はへっぽこと言った事は謝らなかったが閉じていた口を開く。


「…小春に抱かれているからだ」

「え?私?」

「小春に抱かれてなんで先生が寺に入れるんだ?」


小春はまさか自分が出てくるとは思わなかったためキョトンと小首をかしげ、田沼も小春の妖力のことを知らないため小春と同じく首をかしげる。
夏目の問いに斑は目線を小春へ向け顔を上げた。


「小春の体の一部を触れさえすれば穢れたものは守られこのような清まれた場所でも自由に動ける。」

「私の体の一部?なんで?」

「例えば?」

「そうだな…一番いいのは血肉だな。」

「ええ!?」

「「それは絶対駄目だ!!」」


まだ祖父や祖母の事を知らない小春は自分が妖力があるとは思っておらず自分の体の一部に触れただけで清まれた場所にいけると聞かされさらに首をかしげる。
しかし夏目は小春に説明するより斑に理由を聞くほうを優先させ小春は疑問に思うばかりだった。
斑は夏目の問いに目を細めながら唇を舐める。
その答えに夏目と小春同様上手く状況を把握してないが小春の血肉と聞いた田沼が猛反対。
2人に猛反対され斑は『ちっ』と舌打ちを打った。
そんな斑に夏目は以前聞いた祖父を食べると力を増すというのを思い出し小春に斑を放すよう言った。


「小春!そんな野蛮なブサ猫放せ!」

「んなっ!?」

「え?なんで?」

「そいつお前の血を吸って強くなろうとしてるんだぞ!?危険だ!」

「馬鹿者!!たった一液二液だけでそう力が増えるものか!!そういうのは腕など体の一部でも喰えばそれ相応の力が増えるものなのだ!!」


『たったちょびっとの血を舐めただけで力が増えるならこの世の妖かし全てが上級だわ!』と怒る斑に夏目は怖がる事はなく『え?そうなのか?』と呆気にとられるだけだった。
プンスカ怒っていた斑だったが小春が頭を撫でるとお約束にもその怒りを静まらせる。


「………で、どうすればいいんだ?」


言い合いは決着が済んだのだが話しが脱線してしまった。
その脱線したのを直したのが今まで黙って聞いていた一人である田沼である。
田沼は長い時間がかかると思ったのか座っていた。
田沼の言葉に夏目と斑はハッと我に返った。


「そ、そうだったな…まあ、血や肉が駄目なら一番簡単なのは唾液や髪や涙だな。あと手を繋ぐことや服を掴むことでもよい。効果は血肉ほどではないが守られここに入ってこれるくらいはあるだろう。」

「そんなに簡単なのか…だったら最初からそういえばいいだろ……………ややこしい。」

「…………」


夏目の最後に呟いた言葉に斑はピキィ、と青筋を立て、夏目も冷たく斑を見下ろす。
そんなまたしても喧嘩しそうな2人に田沼と小春はお互い顔を見合い苦笑いを浮かべた。



その後何とか(小春が)収め、夏目と小春と斑でアカガネを向かえに行く。
田沼は飲み物などの準備をするからと3人を見送った。


「アカガネさーん!」

「なんだ!」

「うわ…置いていかれて拗ねてる…」


アカガネの姿を探していると案外早く見つかり、アカガネは向かいの塀の上で座りギロリと睨むように今頃迎えに来た小春達を見下ろす。
それに小春は『あ、あはは…ごめんなさい』と顔を引きつらせ、夏目は半目で見つめ、斑は無関心である。
小春の姿にアカガネは塀から降り、小春の前に着地した。


「まったく!俺を置いていきおって!!もし俺がいない間妖かしに襲われたらどうするんだ!!」

「ご、ごめんなさい…」

「中級な自分が悪いんだろ?」

「あ?なんか言ったか?小童」

「もう!お兄ちゃんもアカガネさんもやめてよーっ!!」


今度は夏目vsアカガネが勃発しそうになり小春は2人の間に入り止める。
2人は鼻を鳴らしそっぽを向き、小春はそんな2人に溜息をつきながらプツリと髪の毛1本を抜きアカガネに渡す。


「じゃあ、はい。」

「髪の毛?これをどうするんだ」

「分からんか?友樹の妖力を受け継ぐ小春の体の一部を持っておればあの寺の中でも自由が効く。」

「ああ、そういえば…お姫の妖力ならばその辺の者より強力だな。」


祖父の名を出せば全て納得する妖かし達に小春は首をかしげ、夏目は苦い顔で笑った。

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