朝、小春は兄に起こされたのだが、その髪と目は青く、第一声が大人しめの声で『おはようございます、夏目様』である。
妹の髪の色とその言葉遣いと声に夏目は悲鳴に似た声を上げた。
小春はどうやら昨日朝日と共に眠ったらしく、夏目が起こした時も起きなかったので慌ててアサギが出てきたという。
それを聞き斑は『だから言っただろう』と心の中で小春に呟き溜息を密かにつく。
そして楽器を作りにアサギを含め3人は朝食を済ませ外に出た。
何故楽器から作るのかと言うとアカガネによるとアサギは郷を出て行くとき自分の身代わりに磯月の湖に琴を沈めてしまったの事。
「で、その楽器ってどうやって作るんだ?」
「まずこの近くに三つ程池がある。鯉の居る天然池には大抵額に白い線のある『線引き』っていう鯉そっくりの妖怪が居る。縄張り意識が強いから一池に一匹で人の子のような味がするらしい。」
「ひ、人の子の味…」
付き合いで来た田沼が小春の体を借りているアサギの隣にいるであろうアカガネに聞くとアカガネは答えてくれる。
だが気配や人影のようなモノは見えるも声は聞こえない田沼は何を喋っているのか分からずその隣にいたアサギにそのままの言葉を聞き顔を青ざめた。
夏目も人間の味がするという魚を想像し田沼と同じ反応をしていた。
そんな田沼と夏目をよそにアカガネは『それを捕まえる!!』と意気揚々としていた。
「え…何で魚?」
「つべこべ言うな!!これもアサギのため!小春のためだ!」
「…………」
『小春は関係ないだろ…』と夏目は思うも憑依されてしまっているという意味では関係あるため何も言えず腕を捲くった。
田沼に小春を頼み夏目は冷たい池に渋々入る。
「つ…ッめた…!!」
「気合が足らんぞ!人の子!!」
「ぎゃっ!!み、水をかけるなぁぁ!!」
魚の妖怪という事で田沼は見えないため参加できず、アサギはアカガネと夏目に止められ田沼と共にバシャバシャやって騒ぐ2人を少し遠目で見つめ、斑は参加する気がないため早速アサギの隣へ移動し騒ぐ夏目など目もやらず眠りにつく。
真冬ではないにしろ冬の季節なのは変わりなく、その池の水の冷たさに夏目はその場で硬直してしまう。
そんな夏目に冷たくても平気なアカガネが思いっきり夏目に水をかけ、夏目は悲鳴に似た声を上げた。
その2人をアサギはくすくすと愉快そうに笑い、田沼はアサギを横目で盗み見るように目をやる。
『あの…?』
「え!あ…ごめん……その…妖怪を見るのは初めてだったから…つい…」
『まあ、そうでしたか』
その他にも染めていない青い髪と瞳の人間も初めてで、綺麗な青に見とれていたというのもあったが、アカガネが怖いので言えなかった。
そう思っているとふと疑問に思っている事を田沼は口にする。
「アカガネとアサギってどういう関係なんだ?付き合っている…とか?」
『ふふ、まさか…アカガネは傘持ちだったのです』
「傘持ち?」
田沼の質問にアサギは一瞬目を見張ったがすぐクスクスと笑みをもらし否定する。
アサギから出た言葉に首をかしげるとアサギは笑みを深くして『はい』と頷く。
『磯月の森には壬生様が見初めた才ある美しき者達が集まっておりました…そこで壬生様やそれらの者達に焼けぬよう傘を差しかけたり世話したり…用心棒として皆を守るのがお役目なのです』
「へぇ…」
『アカガネはとても腕が立つのですよ?…それに優しいのです……こうして追われた私を心配して会いに来てくれました』
アサギはまるで目の前にその風景が広がっているように懐かしそうに目を細める。
田沼もそれに釣られるようにギャアギャア騒ぐ夏目と多分見えないがアカガネを見つめるよう目線を前に向けた。
やはり見えない田沼から見たら夏目が1人で騒いでいるようにしか見えない。
「その磯月って郷は神様達が集まるところなんだよな…」
『――…はい……美しい所でした…』
田沼の何気ない問いにアサギは微笑みを小さくし、俯いてしまう。
声もどこか小さく悲しげに聞こえる。
『夢のような………いつまでも居たかった…ずっと…ずっと…壬生様のお側で生きていくのだと思って、いました……』
「……弾けなくなったからって追い出すなんて…随分と了見の狭い神様なんだな…」
『いいえ……いいえ、田沼様…寝所も持たなかった私を拾ってくださったあのお方のお側で役に立てなくなったことに耐えられなくなったのは私なのです……』
話しを聞いただけでは壬生様という神がアサギを追い出したと思ってしまう。
実際夏目も小春も田沼もそう思っている。
しかし壬生様を慕うアサギは自分も耐えられなかったから、と否定した。
その否定の言葉をどう受け取ったかは分からないが田沼はそれから口を閉ざしてしまう。
アサギもそれを不思議と思う事なくただただアカガネと夏目を見つめていた。
『あ…』
「?、どうした?」
『小春様が起きられました…』
そう言ってアサギは目を閉じ、その瞬間青かった小春の髪は黒に染まり始める。
それに目を見張る田沼の前に小春は閉じていた目を開く。
「おはようございます、田沼さん」
「あ…ああ、おはよう…小春ちゃん」
瞳を開けた小春の目の色は勿論青ではなく黒。
呆気に取られていた田沼に小春が声をかけ、ようやくアサギから小春へと戻ったのだと理解する。
すると小春が戻ってきたのを待っていたように斑がのそりと起き上がり小春の膝の上に乗り、小春はそれを当然のように受け入れ微笑みを浮かべながら慣れた手付きで斑の背を撫でてやる。
それまでの流れが余りに自然だったため、田沼は何も言わず頬をかき夏目へ目を移す。
小春も釣られるように顔をあげ夏目とアカガネを見て笑みを深めた。
「居たーーッ!!かかれえええ!!」
「う、わっ!ちょ、はや…!!」
「何をしている!人の子!!逃げられたではないか!!」
「お前が騒ぐからだろ!?魚を取るなら静かにするべきだってさっきから言ってるだろ!!」
「なんだと!?」
「なんだよ!!」
早速魚を見つけたのかアカガネと夏目が思いっきり飛び込むが魚は逃げられ、それがきっかけで2人は再び喧嘩を始めてしまう。
それに田沼は『また始まった…』と苦笑いを浮かべ、小春は楽しそうにクスクス笑みをもらしていた。
「――――とっ…取ったぞーー!!!」
夏目とアカガネの奮闘のお陰で何度も失敗していた捕獲に成功した。
すでに空はオレンジ色に染まっており、そのオレンジ色の空に向かって手を上げるアカガネの両手には魚が掴まれていた。
両手で掴み夏目達に見せるように上にあげるアカガネに見るだけの小春と田沼は拍手を送り、夏目は『やっと終わった…』と岸辺に座る。
「…で、その魚をどうするんだ?」
「ほら、見てみろ!口に釣り糸がついているだろ?」
「本当だ…」
「『良甲』っていう仙人がいてな、これを釣ろうと国中を旅しているらしいが…こんなふうにいつもどこでも糸を着られて逃げられてるんだ……それでこの糸を弦に使う。」
アカガネが獲った魚には確かに白い線額にある。
田沼が気配は分かるが見えないというのだから妖かしなのは確かなのだろう。
その口には細い糸が引っかかっていた。
その糸を取った後、アカガネはその魚を池に帰してやる。
「じゃぁ…素材集めはこれでおわ…」
「よし!次は胴だ!!『地表に頭を出す際の竹の子に貫かれている切り株』を探すぞ!人の子×2!小春!」
「…え……」
「きゃー!お、お兄ちゃん!!」
「夏目!?」
「お?」
次もあるのかよ!、と夏目は思いながら疲れ果て上半身をそのまま倒れてしまう。
それに小春と田沼が慌てて駆け寄り、後ろで騒ぐ小春達にアカガネは振り返り、斑は小春の膝から降りながら『弱っ』と小さく呟いた。
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