倒れた夏目は田沼が背負ってくれたお陰で宙に浮く夏目を誰にも見られることはなく田沼家へ帰ってくることが出来た。
夏目を休ませた後は小春が学校での兄の事を面白可笑しく田沼に聞きだし、田沼も田沼でノリノリで小春に教えていた。
その夜、小春は夢を見ていた。
小春は立っていた。
そこがどこかなんて知らないが、ただ立っていた。
何故立っているかは分からないがただ立ち尽くしどこかを見つめていた。
ふとザラ…、と砂の音が小春の耳に届き小春は何気なく手を見つめる。
(――――ッ!!)
何気なく見た手はまるで砂の固まりが崩れ去るようにボロボロとこぼれ始め、小春の右手の指は三本しか残っていない。
小春は目を丸くし息を呑んだ。
しかし崩れたのは指だけではない。
頬も崩れ始め小春は顔を覆って首を振る。
(いや!いや!!いや…ッ!!!!)
小春は必死だった。
必死で叫び誰にも言うわけでもなく誰か助けてと叫ぶ。
そして、小春は――――…
「いや…――――っ!!!」
ハッと小春は目を覚ます。
目を開ければただの天井が小春の目に映り、小春は息を上げながらゆっくりと己の手を見る。
震える手の先にはちゃんと5本の指がくっついており、小春はそれを見て安堵の息をつく。
ホッと安堵していた小春だったが枕元に傘を開き自分を見下ろすアカガネが座っており、小春はそれに一瞬ビクッと肩を揺らし驚いてしまう。
「起こしたか?小春」
「う、ううん……ちょっと夢見が悪くて……」
「そうか…」
「アサギさんならもう眠ってるから話せないよ?…起こすの可哀想だし…」
「……三本だ…」
「え?」
「アサギの右手の指はもう三本しない。」
「―――!!」
アサギと話したいのかと思い小春はもうアサギが眠っていて起こせないと伝えたが、それに答えずアカガネは呟く。
その呟きに小春は最初首をかしげていたがはっきりと答えるアカガネの言葉に小春はビクリと肩を揺らす。
それに気付かずアカガネは続ける。
「体が乾いた土のように崩れていく奇病さ…他の器に移っている間は進行が遅くなる……だからお前の体に入れさせてもらい、その前はひょうたんに入っていた。」
アカガネの言葉に小春はなるほど、と チラリとぶら下がっている空のひょうたんを見る。
「…感謝している…小春…」
「?」
「あいつが笑っているのを見たのは壬生様の御前で幸せそうに楽を奏でていたのが最後だったんだ……その演奏中、途中肌が崩れはじめた……憧れてやまない壬生様の前で…」
「!」
「…調べて今夜分かったんだ……次の満月の夜、急ぐ気への道が一時だけ開く…その時までに事を完成させもう一度壬生様の前で弾かせてやりたい…」
「アカガネさん…」
『逃げるようにあの方の元を飛び出してきてしまったからな』と苦笑いを浮かべるアカガネに小春は顔を動かし枕元にいるアカガネを見上げる。
「アカガネさんは……アカガネさんはどうしてそんなにも……」
「―――…俺は…」
―こんにちは、アカガネ―
「俺は…ただの傘持ちさ……」
「………」
小春は最後まで言えなかった。
それでも小春の言いたい事を理解したアカガネは目線を落としポツリと消えそうな小さな声で呟く。
普段なら聞こえないほど小さい声だが、真夜中の静まり返っているためアカガネの呟きは小春の耳に届く。
――ああ、そうか…アカガネさんはアサギさんの事が―――…
小春は瞳を閉じ、言葉にせずそう呟く。
その日、小春はとても美しくとても暖かな森に立っていた。
そしてそれ以上に美しい音楽がどこからか聞こえている夢を見た。
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