(3 / 11) *5話 (3)

アサギが剥がれていった後、小春は目も見えず耳も聞こえずの状態へと戻ってしまった。
夏目は斑とともに小春を連れて病院へと向かう。


「夏目くん!!」

「綾部さん」


田沼と別れ、病院へ帰ってきた夏目と小春を出迎えてくれたのは小春を担当するナース、綾部だった。
綾部は風邪を引いていたと聞いていたので夏目は綾部の姿を見て目を丸くする。


「綾部さん…風邪だったんじゃ…」

「大丈夫よ、風邪はもう治ったから…」


『心配かけてごめんね?』と笑う綾部に夏目は安堵の笑みを返す。
綾部は夏目から夏目に背負われている小春へ目を移す。
小春はやはり目が見えず耳も聞こえないため、綾部が自分を見ていることも綾部がいることも知らず無反応だった。
綾部が持ってきていた車椅子に小春を座らせた後、夏目はふと綾部の頬にガーゼのようなものがついているのに気付き首をかしげる。


「あれ…綾部さん頬どうしたんですか?」

「え?」

「怪我でもしたんですか?」


心配そうに見つめる夏目に綾部はキョトン、とさせるが、夏目が自分の頬を指差すと何のことを言っているのか分かりハッとし慌てて頬へ手を当てる。


「あっ…それは…その……ちょっと暴漢にあって…」

「え!?大丈夫ですか!?」

「え、ええ…まあ、ちょっと痛かったけど…それに通りすがりの人に助けてもらったし…」

「警察は!?警察はいきましたか!?」

「ええ、勿論よ…大丈夫、その犯人は捕まったから」


慌てる夏目とは逆に何でもないように笑う綾部に夏目は心配そうにしつつも安堵の息をつく。
心配してくれる夏目に綾部はくすりと笑う。
綾部は『夏目くんも帰りとか気をつけて帰るのよ?』と伝えた後車椅子に大人しく座る小春へしゃがんで手の平に文字を書く。


「『小春ちゃん、疲れたでしょ?』」

-フルフル-

「あ…小春は少し休ませたのでだいじょう…」

「駄目よ、大丈夫かもしれないけど長時間外にいたんだもの…『休みましょう、小春ちゃん。』…夏目くんもありがとう。もうここからは私がやるからいいわ。」

「え?あの…」


『じゃあ、気をつけて帰ってね』と言って車椅子を押して病院へ消えていく綾部を夏目は唖然としながら見送った。
斑はそんな綾部を見送りながら目を細める。


そして、その日の夕方…小春の容体が急変したと病院から連絡があり、藤原夫妻と夏目は急遽病院へ向かった。





容体が急変し、起き上がることもままならなくなった小春はなんとか一命は取りとめたがずっと一日中ベットで暮らすことを余儀なくされてしまった。
夏目は一日でも多く妹とともにいたいと願い、学校を休み病院で寝泊りを続けていた。


「影鬼を探す?」


そして、着替えを取りに夏目は藤原家へと帰り、荷物をつめていた。
その時に斑から出た言葉に夏目は振り返り怪訝そうに斑を見つめる。
斑は怪訝そうに見つめられても表情崩す事なくしっかりと頷き、それを見た夏目は申し訳なさそうに眉を下げながら荷物を詰めるのを再開する。


「悪いがそんな暇ないんだ…医者に小春はいつ死んでも可笑しくないと言われたし…正直俺は妖かしよりも小春の側にいてやりたい」

「影鬼を見つけ名を返せば小春は助かると言ってもか?」

「―――!!」


斑は自分の荷物を詰める夏目に目を細めながらはっきりと呟く。
その言葉に夏目は荷物を詰める手を止め、数秒固まった後後ろにいる斑へ振り返る。
振り返っても斑の表情は変っていなかった。


「それって…どういう……」

「レイコは影鬼の名を貰っているのだ」

「それとこれとどう関係があるんだ?」


影鬼の名前を返すことで何故小春が助かるのか…夏目は斑の言葉に目を丸くし斑を更に凝視する。
自分を見つめる夏目の目から逸らす事なくに斑は続けた。


「…以前、影鬼の事を話したことがあるな?」

「ああ…」

「影鬼は生きとし生けるものの命を吸う妖かしだった…それは妖かしであろうと人であろうと動物であろうと植物であろうと関係ない。そんな影鬼を恐れ皆寄り付くことはなかった…やつはいつも1人だった……だからこそ影鬼は友樹に執着していた…」

「まさか…」


斑の言葉に夏目は何か気付いたのかハッとし斑を凝視する。
斑は夏目の呟きに小さく頷いて見せた。


「小春の体の全ての機能が失われたのは恐らく影鬼が奪い取ったのだろう」

「――ッ!、なんで…!なんでそんな…!!!」

「…恐らく…小春を友樹だと思い込みいずれ消え行くのなら共に、と思ったのだろう…」

「そんな勝手な…!」

「妖かしなどそういうものだ…夏目、お前はまだ分からないのか」

「…っ!!」


自分の為に影鬼は小春の全てを奪った。
影鬼が小春の全てを奪わなければ今頃小春は自分と同じ高校に通い勉強して友達もいっぱい作って…楽しく過ごすはずだったのに…
夏目は妹の人生を狂わせた影鬼に拳を握る。
そんな夏目に斑は目を細めた。


「まあ、それは私の憶測だから理由までは影鬼にしか分からんが、確実に言えることは小春の全てを影鬼が奪った、ということだろう。」

「じゃあ…名前も分かってるからこっちから呼び出せるんだな?」

「ああ…だが、用心しろよ、夏目」

「何がだ?」

「影鬼は弱まっているからこそ何を仕出かすか分からない、ということだ…弱っている者ほど動きは予期しずらいものだ」

「………」


斑の言葉に夏目はグッと拳を握る。
影でしか見えなかった影鬼が呼び出せば目の前にはその妖かしが姿を現す。
行き成り襲い掛かってくる可能性だってありえないわけではない。
夏目は一度襲われかけ、レイコだと思われて憎まれている。
襲われない方が確実として低いのだ。
しかしそれでも夏目は妹を思い決意する。


「それでも…このまま影鬼に小春を奪われるのは嫌だ……」

「…………」

「小春は俺の妹だ…俺が小春を守らなきゃ…」


夏目の言葉に斑は目をゆっくりと細めた。

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