ハッハッハッ、と荒い息が静かな森に響く。
小春は影鬼の手の中で大人しくしており、胸に抱きかかえるよう掴まれている小春は次第にそのふわふわで暖かさからゆっくりと瞳を閉じていった。
「夏目!!!」
「!、ニャンコ先生!!」
夏目はあれから我に返り慌てて影鬼が向かったであろう病院へ走っていた。
その途中影鬼らしき影が目線の先で走り、それを追おうとしたその時に斑から声を掛けられ夏目は立ち止まる。
向かって来る斑に夏目は斑の毛を掴み乗り込み、斑は夏目が乗り込んで落ちないように毛を掴んだのを見計らいスピードを上げUターンして影鬼を追いかけるため走る。
「小春は!?」
「すまない…攫われた…」
「な…ッ!」
病院に向かったという事は小春を攫う為か殺す為に向かったと夏目は小春は無事かと影鬼を追って行った斑に聞くが、斑の言葉に夏目は絶句する。
夏目が言葉を失っているのに斑は目を伏せる。
「すまない…」
「しょうがないさ…先生が悪いわけじゃない……今はとりあえず小春と友人帳を追おう…!!」
「ああ…!」
夏目の言葉に斑は頷き更にスピードを速める。
しかし影鬼は撒かれたのか影鬼の影すら見当たらなかった。
「くそ…!撒かれたか!!」
「小春はどこに…」
立ち止まり気配と匂いを掴もうとするが完全に姿を消された為匂いも気配も掴むことは出来ない。
それに苛立つが何かに八つ当たりしても始まらないと我慢する。
それに今一番何かに八つ当たりしたくてたまらないのは自分の背中にいる夏目だからと、斑は自分で自分を言い聞かせていた。
「――ん?…待て…ここは…」
「?、ニャンコ先生?」
「……夏目!しっかり捕まっていろよ!!!落ちても拾わないからな!!」
「え!?なん…―――ッ!!!」
斑は周りを見渡しあることに気付いた。
それに首を傾げていると突然斑が走り出し、夏目はつい落ちそうになったがなんとか踏みとどまり必死に斑の毛にしがみ付いていた。
斑は痛いと普段なら愚痴るが、今はその余裕すらなく光りの速さのように素早く走っていく。
影鬼はある場所に来ていた。
そこは森の奥の奥。
人間も妖かしも誰も寄りつかない荒れ放題の場所だった。
影鬼は葉っぱをこれでもかと思うほど敷き詰めそっと眠る小春を横にさせ、小春の顔横に友人帳を置く。
小春はそれでもまだ目を覚まさない。
「…………」
そんな小春を影鬼は何をするでもなく、小春の側で体操座りしてただ小春を見つめているだけだった。
ピタリとも動かず小春を見つめ、小春が目を覚ますのを待っていた。
「―――、―――…」
影鬼のその呟きは誰もいないため、誰かの耳に届くことはない。
ただ、風に揺られた木々の音にかき消されてしまっただけだった。
「影鬼…!!!」
「!!」
何十分、何時間…正確な時間は分からないが影鬼が小春を見つめていたその時、影鬼にとって邪魔でしかならない人物の声が当たりに響く。
振り返れば白く大きな妖かしと、その背には1人の人間が乗っていた。
「……斑…」
「影鬼…!小春を…妹を返してくれ!!」
「…………」
斑の背から降りた夏目の言葉は影鬼の耳に届いている。
しかし影鬼はそれを無視し冷たい目で夏目を見下ろすも、夏目は妹を攫った影鬼を睨み上げていた。
影鬼は夏目を見た瞬間歯茎が見えるまで唇を上げ怒りの表情を浮かべ低い声で唸る。
それでも夏目は恐れることなく影鬼を真っ直ぐに見つめ、一触即発の睨み合いが続く。
そして先に動いたのは影鬼だった。
影鬼は小春を渡すものかと言わんばかりに雄たけびをあげながら夏目へ襲い掛かろうとしていた。
そんな影鬼の前に斑が現れ影鬼を止める。
「やめろ影鬼!!私はお前を殺したくはない!!」
「放せ!!放さぬか!斑!!!」
「夏目!!早くしろ!!!」
「あ、ああ!!」
「―――ッやめろおおおおおお!!!」
斑は影鬼の首元を噛み付き、歯を立てる。
プツリ、と影鬼の首に斑の歯が突き刺さり、影鬼の首から血が流れていく。
そのまま体重をかけ影鬼を押し倒した斑は夏目に声を掛けた。
それに夏目は小春の側まで駆け寄り友人帳に手を伸ばす。
それに気付き暴れる影鬼を斑は両手足を使い動きを封じた。
夏目は友人帳を掴み、影鬼の名が書かれた紙を破りその紙を縦に2つに折り口に銜える。
「名を返そう!!『影鬼』!!!」
そしてフッと息を口に銜えていた紙に吹きかけた瞬間、紙の隙間から黒い文字のようなものが浮き上がり押さえつけられている影鬼へ向かって飛んでいく。
斑は名が紙から離れた瞬間影鬼から離れ、斑が離れた瞬間名前から逃げ出そうと影鬼は起き上がるが間に合わず起き上がった影鬼の額に名が返される。
夏目の脳裏に影鬼の記憶が流れ込んできた。
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