1人だった。
生まれてからずっと、1人だった。
1人が当たり前で寂しいという感情などなかった。
「わっ!びっくりした!」
ある少年に出会う前までは…
「誰だお前」
大きな猿の妖かしは静けさを裂くような少年の声にゆっくりと閉じていた目を開けて静かに少年へ目を移す。
少年はラフな格好をしており、大猿を口を開けたまま見上げていた。
「わっ!喋った!」
「誰だと聞いている」
「君喋れるんだね!凄いや!」
「………」
大猿は人の話を聞かない少年に溜息1つこぼす。
そんな大猿など気にせずツンツン、と大猿を突っつき始めた。
「…何をしている」
「いや…ロボットかと思って…」
「ろぼっと?」
「でも君って柔らかいし、それに…あったかい!」
「…!」
パフ、と毛で覆われている大猿の体に抱きつきフカフカの毛に頬擦りする。
それに大猿は驚き体を硬直させる。
「すっごくフカフカ!すごい!喋れるし!フカフカだし!あったかいし!凄い凄い!」
「……離れろ」
「え?なんで?いいじゃん!」
「喰われたいのか」
「いいよ」
少年の言葉に大猿は絶句してしまう。
今まで迷って自分の前に現れた妖かしは泣いて縋って嫌だと叫ぶ。
それが鬱陶しくて全て命を平らげていた。
だからか、大猿はそんな妖かし達より遥かに小さく華奢な少年の言葉に再起不能となってしまったのだ。
そんな大猿に少年は『おーい?』と大猿からしたら短く細い手を懸命に振る。
そのお陰なのか大猿はハッと我に返った。
「お前…怖くないのか?」
「え?怖いよ?」
「怖いというのに食べていいと言うとはお前頭弱いのか?」
「失礼だな…僕はもうすぐ死んじゃうんだもん、今死んだって死ぬ時期が早いだけでしょ?」
「死ぬ時期が早い…?」
呆れたように少年を見れば少年は大猿には理解できない言葉を呟く。
それに首をかしげる大猿に少年は何も言わずただニッコリと愛らしい笑みを浮かべていただけだった。
その笑みに大猿は目を丸くさせる。
少年はそんな大猿をただ見上げてニコニコと笑うだけだった。
それから、この日を境に少年は大猿の元に来るようになった。
大猿は少年に心を開いた。
1人だった大猿は1人の寂しさを知り、更に少年に執着する。
少年は大猿にとって宝物だった。
大切な、大切な宝物。
―――そして、
「あなたが影鬼?」
「誰だお前…」
もう1人の宝物と出会う。
大猿は縄張りから出るようになった。
少年を待ちきれず縄張りから出ることが多くなったが、やはり森の入り口近くには行く勇気は無い。
そして今日も少年を待って縄張り近くに座って待っていた。
そんなある日、1人の少女が大猿に声をかけてきた。
その少女はとても美しく、少年と隣に並ぶと見栄えも更に良くなるだろう。
大猿はそう思いつつも少年の方が愛らしく綺麗だと密かに思う。
少女は大猿を見上げにこりと笑った。
「ね、勝負しましょ?勝負して、あなたが勝ったら私の名前を教えてあげる。」
「勝負?そんなものして何になる」
「私を食べてもいいのよ?」
「いらん。かえ…ぐはッ!」
…れ、といい終わる前にドス、と鈍い音が森に響いた。
大猿はプイっとそっぽを向いた瞬間腹に激痛が走り蹲る。
「はい、勝負ついたわね」
「貴様…ッ!!」
少女の声に顔を上げれば少女はもの凄くいい笑顔で大猿を見つめていた。
大猿は顔を背けた瞬間少女にいいパンチを腹に食らわされたことに気付き涙目で少女を睨むが、少女は怯えるようすもなくにこやかに笑っていた。
「これに名前を書いて。」
「…………」
差し出された紙に渋々名を書く大猿に少女はニコニコと笑う。
「ありがとう。」
「お前、強いんだな」
「そう?そうかもね。今まで全勝だもの」
「いつか喰われるぞ?」
「あら、心配してくれるの?」
「…………」
大猿は少女の言葉に黙ってしまう。
最近大猿は少年の影響か、つい少年と同じ大きさのモノには逆らえなくなっていた。
少女は黙り込んで目を逸らす大猿にクスクスと笑みをもらす。
しかしその次の瞬間――…
「あっ…あーー!!こらー!!」
「…!」
「!、友樹…」
少女と大猿以外の声が森に響き、2人はその声のした方へ目をやる。
そこには少年がいた。
少年はムッとした表情を浮かべ少女と大猿の間に入り大猿を守る様に両手を広げた。
それに大猿は目を丸くさせ自分より遥かに小さい少年を見下ろす。
「と、友樹?」
「この子をイジメないで!」
「は?何を言って…」
「あら、イジメだなんて心外ね。ちょっと殴って名前貰っただけよ」
「なッ!それがイジメじゃなっから何がイジメなんだよ…!!」
「いッ…!痛いわね!!何するのよ!」
「いだ…!そっちこそ何するんだ!!」
「お…!お前達止めろ!」
睨む少年に少女はフン、と鼻を鳴らした。
それに少年は更に睨みを強くし、少女の肩を軽く突き飛ばす。
それに負け時と少女も睨んで少年の肩を軽く突き飛ばした。
そして喧嘩は大きくなり、大猿が止めるのも聞かず手も足も出す子供の喧嘩をし始める。
「2人ともやめんか!!!」
少年も華奢な体で頑張り張り合っていたのだが、そんな2人を止めたのは大猿だった。
大猿は2人の襟を掴み離れさせる。
宙ぶらりんになり2人はまだ睨み合っていた。
「ちょっと!何するのよ!!」
「そうだよ!何するんだ!」
「お前達はもう少し人の話しを聞け!!」
ムッとさせる2人は大猿のお陰で何とか少年の誤解も解き、少年は慌てて少女に謝り、少女は別に、いいわよ…と照れくさそうにそっぽをむき許してくれた。
許してくれた少女に少年は嬉しそうに笑う。
それから、大猿の側には……少年の側には少女と大猿が常にいた。
大猿は少女と少年が好きだった。
守るべき相手だと…心からそう思っていた。
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