大猿はとても幸せだった。
少女と少年とともに生きているのがとても嬉しかった。
それが数年経ち、少年が来なくなってしまった。
「レイコ、友樹は一緒じゃないのか?」
「…ええ、一緒じゃないわ」
少女は美しさを増し大人へと成長していった。
人の子の成長など大猿には分からず少女が大人になったとしても大猿にとって少女は少女だった。
少女は綺麗に化粧された顔を悲しげにさせ笑って頷いた。
その笑みを見ると大猿は胸が締め付けられ悲しくなるが、それよりも少年が来ないことが悲しかった。
少年はその日を境に来なくなった。
少女だけが毎日毎日大猿のもとへ来ては同じ質問に返す。
同じように悲しげに笑い頷く。
それがいつしか当たり前になっていった。
そして、
ついに
少女も来なくなった。
大猿は待った。
待って、待って…何年も何十年も待っても二人は来なくなった。
― 何故、何故なんだ… ―
そう思うだけで2人が来るわけもないのに大猿はただ2人が来てくれるのを待っていた。
― 友樹、友樹… ―
いつしか大猿は少年しか思い出せなくなった。
少女のシルエットはあるが、もう少女を思い浮かべる事は出来なくなった。
それほどの年月が流れたのだ。
しかしそれでも少年だけは忘れることはできなかった。
暖かく包み込み愛してくれた少年を大猿は忘れる事ができなかったのだ。
ある日、奥に閉じこもった大猿の元に白い妖かしが現れた。
― 諦めろ影鬼…レイコも友樹ももう来ない ―
断言する白い妖かしに大猿は首をかしげる。
信じられない、信じたくない。
ただそればかり頭に浮かんでいた。
― 人の生は短い…お前や私より遥かに短く呆気ないものだ…それすら知らぬのかお前は… ―
次に出た言葉も、たとえ呆れて馬鹿にしたような言葉だとしても大猿は決して理解したくなくて分からないフリをしていた。
でも、本当は分かっていた。
友樹も、レイコもこの世にいないことはすでに、大猿には分かっていた。
だけど…
― 友樹…友樹に…会いたい… ―
少年は生きててどこかにいる。
そう思っていないと頭が可笑しくなりそうだった。
それから白い妖かしは姿を現すことはなかったが、大猿にとってそれはとてもどうでもいい事だった。
「ああ…そうだ………レイコだ…レイコが友樹を攫い我から友樹を奪い友樹を隠したのだ。」
大猿はもう自分を抑えることができず、少女を憎むようになった。
あんなにも大切に思い、守ろうとした少女を憎むようになった。
大猿はとっくの昔に狂っていた。
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