「夏目!なぜ私まで殴る!」
「あ?心当たりがないって言うなら自分の胸に手を当てて聞いてみたらどうだ?ニャンコ先生。」
よっぽど自分が大変な時に敵を応援していた斑に腹が立っていたのか夏目は達磨男を殴って止めた後お祭り騒ぎだった斑の頭にどんな妖かしでも怯むパンチを食らわす。
タンコブを作りながら斑は起き上がりシャー!、と威嚇しながら夏目に声を上げた。
しかし夏目は機嫌が悪そうに声を低くし斑を見下ろし、本気でネコパンチを食らわそうとする斑に小春が慌てて抱き上げて止める。
「ニャンコ先生もお兄ちゃんも喧嘩はやめてよ!」
喧嘩両成敗、と小春がキッと2人を睨めば喧嘩もすぐに終わる。
睨むと言っても小春が睨んでも怖くはなく逆に胸キュンしてしまうだろう。
実際妹の上目遣いでの睨みに夏目は内心可愛いと思いながら斑に顔を背けた。
斑も斑で痛手を負っている(のか?)のを武器に慰めて癒してもらおうと普段は低いオッサンのような声を猫なで声に変え小春に擦り寄っていた。
それがまた喧嘩となる原因でもあった。
「おい!先生!!」
「お!なんだ!?やるか!?お!?」
「もう!!2人とも仲良く!」
夏目は妹の胸に擦り寄る中年エロ親父にマジギレしていると突然もふっ、と暖かいふかふかした物が顔面全体に押し付けられる。
「仲良く、ね?」
「「は、はい…」」
それは斑だった。
小春は喧嘩を勃発させる2人を止めようと、腕に抱いていた斑のお腹を夏目の顔面に押し付け黙らせる。
動物特有の暖かい体温が生生しく夏目は硬直し、斑もお腹を夏目の顔面に押し付けられ夏目が呼吸するたびに暖かい息が感じ、その気持ち悪さにゾゾッと背筋を凍らせお互い固まってしまった。
そんな2人をよそに小春は斑を放しニッコリと笑って見せた。
愛らしいその笑みに本来ならば萌えるのだが、小春の有無を言わせない笑みに夏目と斑は萌えるに萌えれなかった。
しかし喧嘩もやめ、落ち着いたのを見て小春はいつもの愛らしい笑みへ戻り、その笑みに釣られるように夏目もくすりと微笑をこぼす。
「小春、寒かったろ?早く家に帰ろうか」
「うん」
「おい!何故私を降ろす必要性がある!!小春!私を抱いてくれ!!寒い!このままじゃ私のプリティな肉球が凍りつき凍え死んでしまう!」
「家まで後少しだから我慢すればいいだろ?なんたって先生には俺達にはない脂肪と天然の毛皮がついてるんだからな。」
「阿呆め!この姿は猫ではないと何度言えば分かる!!いいか!この姿は…」
「あーはいはい、分かった分かった。いいから早く帰るぞ。じゃないと小春が風邪引く。」
「このシスコンめ!!小春!帰ったら一日膝の上でなでなでしてもらうぞ!」
「いいよ」
「何言ってるんだ…今日だけじゃなくて毎日してもらってるくせに…」
妹に喧嘩を止められた夏目の体を冷たい風が吹き夏目はその寒さに身震いし、その冷たい風に小春の頬に手を伸ばすとその冷たさに眉をひそめる。
妹の冷たい頬にいつまでもここに居ては風邪を引くと夏目は小春の腕でぬくぬくとしていた斑を持ち上げ、態々下に置き小春の手と手を繋いで家に帰ろうとしたのだが――…
「ええい!!待て!!待たんか!!人間プラスブサ猫どもめ!!!」
「あだっ!」
「お兄ちゃん!?」
「む?」
突然夏目の後ろの頭に小さく赤い物が当たり、小さいながらも威力はあるのか夏目はしゃがみ込み当たった部分を両手で押さえる。
そんな夏目に小春は『え?え!?』と困惑気味でオロオロしていた。
「わしを置いて去るとは何と言う罰当たりな人間どもだ!!!そこへなおれ!わし直々に説教してやるわ!!」
「だ…達磨男さん…」
オロオロしていた小春だったが下から声がし、目線を落とすとそこには夏目に殴られ沈んでいた達磨男が相変わらずピョンピョン跳ねて怒っていた。
小春は達磨男の存在を忘れていたのか『そういえば…』と苦笑し、夏目は涙目になりながらも跳ねる達磨男を振り返り『忘れてた…』と心の中で呟く。
「…で、小春に何の用なんだ?言っておくが友樹さんはもういないぞ?」
「ふん!人間の生が短いことくらいわしでも知っておるわ!!第一わしは友樹などどうにも思っておらん!!」
「え?そうなのか?」
「確かに友樹は喰う喰わない関係なく妖かしを魅了する男じゃったが……わしは人間の男だろうが女だろうか興味はない!同じ同族だったら別だがな。」
斑や他の妖かし達の反応を見る限り友樹は歩く惚れ薬のようなものだと夏目は思っていた。
その中にも友樹に興味がない妖かしもいるんだ、と改めて思う。
しかしそんな達磨男に斑は『よく言うわ…』と呆れたように呟く。
「お前も友樹を気に入りレイコを邪険にしておったくせに…」
「え…」
「ばっ…馬鹿者!!誰がそんなこと…!!あ、あれは最初だけじゃ!!わしらが見えなくとも妖力が強い人間に興味があっただけじゃ!!」
斑の言葉に夏目と小春は同時に達磨男に目をやるが、達磨男はまるでツンデレのように言い訳をし始め何故か興味がないと言いながらも焦っていた。
焦る達磨男の様子に小春はなんだか微笑ましく見えくすくす笑みをこぼす。
その笑い声と笑みに達磨男は小春を友樹と重ね頬を染めて『う…』と声を詰まらせ大人しくなる。
黙り込む達磨男に斑は『ほれ見ろ』と半目で達磨男を見つめた。
「その反応では誤魔化しきれんな。いい加減認めたらどうだ?」
「煩いわ!!大体な…」
「あーもー!分かったから!!お前が友樹さんを好きじゃないのは分かった!!――で?用はなんなんだ?いい加減寒いから早くしてくれ」
「…名を、返してほしい。」
「…!」
今度は夏目とではなく達磨男と喧嘩になりそうな雰囲気だったため、夏目はこのままでは話が長引き小春だけではなく自分まで風邪を引きそうだと達磨男と斑の間に入る。
達磨男は間に入った夏目に怒ることはなく、問う夏目をゆっくりと見上げ静かに口を開いた。
夏目はその達磨男の言葉に目を丸くさせ妹をチラッと横目で盗み見る。
盗み見た小春はやはり名を返してほしいという達磨男の言葉に首をかしげており、夏目はその様子にホッと胸を撫で下ろした。
「…わかった………小春、ちょっと先生と先に帰っててくれないか?」
「なんで?」
「ちょっと、な…」
「なんで、私はここにいちゃ駄目なの?」
「…それは……」
夏目は治った今でも小春には友人帳の事は話しておらず、このまま話さないつもりでいた。
小春が居ない時に来てくれるほど妖怪達は人間の常識も知らず、夏目の心の中など読み取れるわけでもないのでこのまま話さないのは無理だとは思っている。
しかし小春を巻き込み怪我でもし最悪死んでしまったら…と夏目は怖くて小春に話せなかった。
先に帰らせようとし、兄が自分を帰らせたあと何をしようとしているか分からないが、このまま帰ったら駄目な気がして小春は真っ直ぐ兄を見つめた。
真っ直ぐ見上げられる小春の瞳に夏目はつい目を逸らしてしまうが、小春は兄から目を逸らすことはせずじっと見上げる。
何も言わず頑なに頷くことしない兄に小春はムッと眉間にシワを寄せ兄の裾を握る。
「私、ここにいたい。」
「!、駄目だ…帰れ。」
「いや!ここにいる!…お兄ちゃん、もしかして私が居たら駄目なことをするんでしょ?そんなの駄目!絶対私ここにいる!」
「そ、れは…だから…」
「お兄ちゃんの力になりたいの!」
「…!」
「私、あの子に全部奪われたとき沢山お兄ちゃんに守られてきた…妖怪達からも、人間からも……だから今度は私がお兄ちゃんを守るって決めてるの!!…そりゃお兄ちゃんより私の妖力っていうのは弱いけど…だけど…お兄ちゃんの支えにはなれるはずだよ?」
「小春…」
小春の言葉に夏目は目を見張った。
まさか妹がそんな事を思ってくれるとは思ってもみなくて夏目は呆気に取られ小春を見下ろし、小春は必死に兄の腕を組み本気なのだと目で訴える。
「いいではないか、夏目。」
妹の真剣の目に夏目は『駄目だ』とも『分かった』とも言えず戸惑っていると斑がポツリと呟いた。
その言葉に夏目は目を丸くさせ下にいる斑を見下ろし、斑は小春と夏目の目線に目を細めて薄く笑う。
「先生!もし小春に何かあったら…!」
「用心棒として私もいる…そして何より小春もお前と同じく友樹の妖力を受け継いでいる…生半の妖かしにどうこうできるものではない。」
「でも…」
「それに同じレイコの孫でも小春だけ知らない、というのも不味いのではないか?」
「え…?」
「達磨男のように友人帳はお前ではなく小春が持っている、と思っている妖かしも少なからずいる…つい先ほどだって達磨男はその考えで何も知らない小春に苛立ち危害を与えようとしていたのだぞ?」
「なに!?それは本当か!?」
「え…うん、まあ…」
斑の言葉に夏目は納得できず頷けなかった。
しかし達磨男が小春に危害を加えようとしたのを知りキッと達磨男を睨みつけ今度は夏目が達磨男に喧嘩を売ろうとするが小春が慌ててフォローしてくれたおかげ何とか話しが逸れるのを免れる。
小春の事に関しては人の話を最後まで聞かない夏目に斑は溜息をつき呆れたように見つめるが…夏目がそんな反応を見せる斑を見たら『自分も人の事言えないだろ』と突っ込まれるだろう。
「達磨男のようにお前ではなく小春を狙う輩がいる。…それならば対応できるよう友人帳の事を知っておった方がいいとは思わんか?」
「………」
「まあ…これは私の意見だからな…小春に言う言わないはお前に任せよう。」
「………」
夏目は斑の言葉に黙り込む。
自分ではなく小春を狙うとは夏目はそこまで考えていなかったようで実際に小春を危険にさらしているという実感が湧きつい顔を青くさせてしまい、自分の腕を組んでいる小春の手を握ってしまう。
そんな兄に小春はふと顔をあげ、顔色の悪い夏目を見てハッと自分がどれだけ無茶を言い兄を追い詰めているようなことをしているのかと気付いた。
「…私……」
「小春?」
「私…お兄ちゃんが聞かれたくないって言うなら…言わなくていい…」
「え…?」
「お兄ちゃんが私に話して辛いのなら…聞きたくない…聞かなくていい…忘れるから……もう、聞かないから…」
「小春…」
「ごめんなさい…お兄ちゃんの気持ちもどんなに私を心配してくれてるかも知らずに我がまま言って…ごめんなさい……」
段々と小春は顔を俯かせ声も小さくなっていく。
小さく謝る妹に夏目は胸が締め付けられそうで、握っている手を強める。
そして小春が自分を思い、そして自分と同じく…否、それ以上に自分を心配してくれているのを知り夏目は決意した。
「小春…話すよ」
「え?」
小春は兄の言葉に俯いていた顔を上げる。
「話すよ…全て…全部隠さないで小春に話す…だから……聞いてくれるかい?」
夏目の言葉に小春は目を丸くさせ、そして嬉しそうに笑みを浮かべ頷く。
小春の嬉しそうな笑みに夏目は眩しそうに目を細め小さく笑った。
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