「小春ちゃん!」
(え…)
井上は別の棟へ行こうと外にある棟と棟を繋ぐ廊下を歩いていた。
すると小春の名前が耳に入り、そして何故か親しそうに呼ぶその呼び方についその声のする方へ目を映した。
そこにいたのは確かに小春だった。
しかし、小春を見て井上は目を丸くする。
(わ、笑って…る!?)
そう、小春は笑っていた。
それは嬉しそうに。
井上は見たことのない小春の表情に目を丸くさせ小春を凝視していた。
「田沼さん!北本さん!」
「やあ、小春ちゃん。」
「久しぶりだね、体の調子はどう?」
「はい、大丈夫です…ちょっとまだ足がつることはあるけど順調に回復してます」
田沼と北本と呼ばれた男子生徒は小春に手を振り、小春は嬉しそうにしながら2人のもとに駆け寄る。
その自分が思っていた小春の性格と、今の様子があまりも違いすぎてそれが信じられなくてついに井上はポカーン、と口を大きく開けていた。
小春は2人交互に頭を撫でられ照れたように頬をほんのりと染め先程より嬉しそうに笑っている。
そんな小春に先輩と思わしき男2人はまるで愛玩動物を愛でているように顔を緩ませていた。
「そういえば、友達はもう出来た?」
「あー…えーー……うーんと…」
「…その様子だとまだみたいだな…」
「は、はい…まだです……」
田沼の問いに小春はガクッと肩を落とし唸るような声をだす。
その様子に田沼と北本はお互い顔を見合った後苦笑いを小春に浮かべた。
「まあ、仕方ないさ。まだ転校してきて間がないんだし…」
「はい…でも私緊張して顔が強張ってるから…仲良くできる人ができるかどうか分かりません…」
「大丈夫だって、きっと小春ちゃんが可愛いからみんな恥ずかしくて話しかけれないのかもしれないし。きっといつか話しかけてくれる人が現れるさ」
「そう、でしょうか…」
「ああ、きっとそうさ」
しゅん、とする小春に田沼が慰めの言葉をかける。
小春は田沼の言葉に『じゃあ時間をかけて友達を作っていきますね』と笑みを見せ、田沼と北本は少し不安と心配は残るものの笑った小春に安堵の笑みへと変えた。
すると2人にクラスメイトなのか、後ろにいるはずの2人がいないことに気付いて授業が始まるぞと声をかける。
一年の女子、しかも数ヶ月前は病人だった人間より背の高い2人が壁となりクラスメイトからは小春が見えなかったのか美少女がいることには気付かず2人に声をかけた後教室へ入っていく。
小春は移動教室だったのかと引きとめた事を謝るも何故小春が謝るのかと2人に笑われてしまう。
そして田沼と北本も教室へ入るため小春に小さく手を振って教室に入っていき、その2人を小春はにこやかに見送る。
井上はその印象とのギャップに唖然とし授業のチャイムが鳴るまでその場に立ち尽くしていた。
あれから井上は何だかキツネにつままれたような気がして暫くは授業が耳に入ってこなかった。
(先輩達とは親しそうにしてるのに…なんで私達だとあんな無表情なんだろう…)
休憩時間、井上はチラリと小春を横目で盗み見する。
そこには相変わらず無表情の小春がおり、本を見ていた。
(…先輩達には顔が強張ってって言ってるけど…そういうレベルじゃない気がする…)
強張っている顔というのは他人からも見てもろ分かりで、小春ほどの美少女なら逆に微笑ましいだろう。
しかし彼女は強張っているどころか無表情なのだ。
クラスではそんな彼女を氷の王女と呼んでいる者さえいるほど、小春は冷たく感じられる。
(やっぱり、怖い…)
井上は何度チラ見しても変らないその雰囲気に机に項垂れた。
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