(7 / 13) 7話 (7)

小春はあれから井上と話すようになった。
『鏡見た?』というのが最初の言葉で、小春は『一応…』というのが最初に返した言葉だった。
それから井上は小春の怖いイメージが一変したのかよく声をかけてきてくれた。
相変わらずクラスメートは遠目で見るばかりだったが、それでも小春は嬉しかった。
友達と言っていいか分からないけど1人話せる人がいるだけで小春は学校に行くのを楽しみで仕方なかった。
相変わらずクラスでは1人だったが…





あれから時間も日にちも経ち、小春は相変わらずの1人だったが兄に変化が起こった。
あの斑が小さくなってから変な行動を取るようになったのだ。


「お兄ちゃん、ちょっと…」

「すまん!後でな!」

「あ!もう!」


腕に包帯を巻き、よく出かける事に疑問を持った小春は夏目を問い詰めようとするも何度も誤魔化され逃げられてしまう。
今日も逃げられたと小春は悔しそうに玄関で腰に手をやり頬を膨らませていた。


「今日こそ問い詰めてやる!」


小春は兄が出て行った後カバンを肩にかけ、塔子に一言言ってから家を出た。
兄の後ろを追い掛け尾行しようと張り切ったのはいいのだが…


「お、お兄ちゃん達を見失ってしまった…」


森を行ったまでは上手くいっていた。
しかし森に入った瞬間兄は突風の如く奥へ入ってしまい、小春は追いかけようとするも森は慣れていなくて見失ってしまった。
実は夏目は気付いていなかったが斑が気付き、斑に教えてもらった夏目が小春を撒こうと走っていったのだ。
小春はまさか気付かれているとは知らず森の真ん中でハア、と溜息をついたその時、鈴の音が小春の耳に届く。



「この匂い…友樹か…?」

「え…?」



鈴の音に顔を上げると突然突風が吹き上げ、小春はその風の強さに目も開けれず、ワンピースのスカートを慌てて抑える。
しかし風がやんだその時、低い声に小春は顔を上げる。


「う、馬の…妖怪?」


小春の目の前にいたのは馬の顔と人の体を持ち、左手は人、右手は馬の手を持つ大きな体を持つ妖かしだった。
その妖かしは小春が顔を上げると一瞬目を見張ったがすぐに落胆した表情を浮かべた。


「人間…何者だ?」

「わ、私…夏目小春、です…」

「夏目…?」


目を細めて見下ろす妖かしに小春は少し怖くて1歩足を下げてしまう。
しかし妖かしは小春の名を聞き怪訝そうに小春を見下ろす。


「夏目といえば…レイコか夏目殿の血縁者か……いや…しかし…この顔は…」

「あの…」

「人間、お前友樹を知っておるか?」

「友樹…さんはおじいちゃん…ですけど…」


小春の言葉に妖かしは目を丸くさせる。
そして『ああ…やはりか…』と顔を沈ませ目をゆっくりと閉じた。


「ああ…そうか…そうだな……友樹とレイコはもう…人とはなんと儚いものか…」


そう悲しげに呟いた後妖かしは瞳を開け、瞳の中に小春を映す。
小春は真っ直ぐ大きな妖かしに見つめられ息を飲み込む。
影鬼や斑の時とは違い何の関係のない妖かしに、小春は普通の妖かしとは違う雰囲気や大きいのもあり少し怖かった。
しかしそんな小春に妖かしは優しげな目で小春を見つめ、その目に小春は戸惑いの表情を浮かべた。
妖かしは優しい瞳のまま小春へ人間の手を伸ばし、自分の手より小さい小春の頬を器用に親指の腹で撫でる。
小春はそんな壊れ物を触れるような妖かしに首をかしげ顔を上げる。


「小春、私は三篠という。名を呼んでくれまいか?」

「み、三篠…?」


小春が斑にしているように三篠と言った妖かしは小春の頬を優しく撫で、名前を呼ぶよう頼む。
小春が言われた通りに三篠の名を呼べば、三篠は感激したように目を瞑り『…すまない…もう一度呼んでくれ』と願う。
もう一度三篠の名を呼ぶと三篠はゆっくりと小春に近づき小さい小春を押しつぶさないようにまるで抱きしめるように寄り添った。
小春は突然三篠の両腕に囲まれ顔を近づけてくる三篠に『え?え?』と戸惑いを隠せないようだったが、何も言わず小春に擦り寄る三篠に小春は戸惑いつつも斑にしているように優しく鼻先を撫でてやる。
その手が気持ちいのか三篠はいつまでも小春に寄り添っていた。

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