あの後夏目はヒノエを殴って落ち着かせ、場所を移し森へと移動する。
夏目の拳骨はよほど妖かしには効果抜群なのかヒノエはタンコブを作り涙目になっていた。
そして性懲りもなく『小春〜慰めておくれ〜』と小春に抱きつき頬擦りする。
セクハラはなくなったが隙を見ては小春にアレコレいけないことをしようとするヒノエに夏目は溜息をつくしかなかった。
…というのは嘘で、溜息をつきながらも拳を握りもう何度目か分からない拳骨をヒノエに落とす。
「…まったく、容赦ないねぇ…そういうところだけはレイコに似てるくせになんで男なんだ…」
「俺が知るか!」
流石に散発も貰えばヒノエは大人しくなるのだが、やはり小春の側から離れない。
斑も斑で『撫でてくれ』と、最近護衛のため夏目の側にいて小春と触れ合う機会がなかった。
そのため、今まで我慢していたたのだが小さかった体が大きくなり我慢できず撫でてほしいと大きな巨体を小春に擦り寄らせる。
自分の両脇に濃い妖怪が囲むように座っており、そんな濃いメンバーに小春は苦い笑みを浮かべるしかなかった。
そして夏目も小春に甘えに甘える自分達よりも数倍年上の妖かしにもう拳を握ることもなく溜息を吐き出すしかなかった。
「それで…どうして今まで黙ってたの?」
「それは…」
場所を移動し、塔子を気にする事もなくなり夏目は小春に問い詰められついポロッと離してしまった。
妖かしは夏目と小春に弱いが夏目は小春に弱い。
だからまるで夏目が斑を問い詰めるように小春は夏目の瞳をジッと見つめる。
その間小春は何も喋らない。
ただ夏目の、兄の瞳を凝視するだけだった。
そして夏目は妹に見つめられ数分後、白状した。
小春は夏目に起こった事、そして四日間逃げ切ればいいというのを聞き初めに出たのは溜息だった。
大きな溜息に夏目は体を縮ませ目を逸らし『す、すみません…』と謝った。
「お兄ちゃんは私を関わらせたくないの?」
「う…ま、まぁ…」
「……わかった…私も呪いにかかってくる。」
「分かってくれて……って、は?」
「呪いにかかれば私も関わってもいいでしょ?」
何でもないように言った小春に夏目だけではなく斑とヒノエも流石に夏目と同じく呆気に取られていた。
そんな3人をよそに小春は立ち上がり呪いをかけた妖かしを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し、夏目はハッと我に返り慌てて立ち上がった妹の肩を掴み座りなおさせる。
「ちょ、ちょっと待て!!駄目だ!そんな事する必要ないだろ!?」
「ある!だってじゃないとお兄ちゃん一人で解決しようとするじゃない!」
「…っ!」
小春の言葉に夏目は言葉を詰まらせる。
小春の言う通り1人で、小春を守るためと言って1人で立ち向かう気でいた。
ずばり言い当てられ夏目は返すことも場もなく顔をあげ自分を悲しげに見つめる妹を見つめる。
「お兄ちゃんが私を守ってくれるのは嬉しいよ?でも、私だって協力くらいは出来る…塔子さん達へのフォローくらいは出来る…関わらせたくないって言うのなら私は我慢する…でも…最初から私を置いていかないで…私くらいにはちゃんと説明して…お兄ちゃんの妹なんだから私にだって聞く権利はあるはずでしょ?」
「小春…」
「……お兄ちゃんが、小さい頃から重ねた苦労は私には分からないけど…だけど…もう私は守られなきゃ生きていられないほど弱くはないわ…もう、目も見えるし耳で聞く事もできる…喋れるし足も動かせる…走って逃げることも出来る……それじゃ、だめ?私じゃ役に立たない?」
目を伏せていた小春だったが夏目へ顔をあげ、必死で夏目を説得しようとしていた。
夏目は濡れている妹の瞳に息を飲み、両肩を掴んでいた手の力を入れる。
「俺はお前に辛い思いをさせたくないんだ…」
「うん…」
「もう、血の繋がってるのは小春しかいないし…塔子さんや滋さんにももしものことがあったらって思うと怖いんだ…」
「うん…」
「……ごめん…小春の気持ちも気付かなくて…」
何かに耐えるかのように瞳を閉じた夏目はゆっくりと小春の肩へ顔を埋め、腕を小春の背中に回し抱きしめる。
小春は抱きしめてくる兄の背中に手をやり自分からも身を寄せた。
小さく震える声で謝る夏目に小春は小さく首を振る。
「…ううん…私もごめんなさい…友人帳の事を話してくれたのに…それだけでもお兄ちゃんは辛いのに…また無理言ってごめんね…でも、私もお兄ちゃんと同じだから…妖怪も人間も見分けることが出来ないほど見えるから…少しでもいいの、お兄ちゃんの力になりたい…」
我が儘だというのは分かっていた。
友人帳の事を話してくれた時もただそれらしい言葉を並べただけの我が儘だというのは小春も知っている。
でも兄と同じものを見て、同じ風景を見る人間は自分しかいない、というのも小春は知っていた。
田沼も名取も妖力や霊感があっても兄と同じ風景は見えない。
感じられるのと同じ風景を見るのとは全然違う。
だから小春はせめて自分だけは同じ風景を見て、感じて関わっていたかった。
今はまだ関われないかもれないけど、だけどそれでも少しずつでもいいから一緒に妖かしの名前を返したり、時には和んだり、時には襲ってくるものから逃げたりしたかった。
小春は抱きしめている力を強めながらそう思い瞳を閉じた。
夏目も、小春の言葉を聞き抱きしめている力を強める。
「あら、小春ちゃん貴志くんは?」
その日の夕方、塔子は夏目の姿がない事に疑問に思う。
首をかしげる塔子に小春はにこりと笑い平然と答えた。
「お兄ちゃんなら田沼さんの家にお泊りに…なんでもテストに向けて勉強するって言ってました」
小春の言葉に塔子は『あら、言ってくれたらお菓子一杯買ってきたのに…』とこぼす。
そんな塔子に小春は『そうですね、でもなんだか急に誘われたようでしたから…』と返した。
小春の言葉に納得した塔子は『なら仕方ないわね』と寂しそうに笑い、小春はその日塔子と一緒に買い物に出かけた。
小春が言っていることは嘘ではない。
来週小テストがあるのは本当のことで、そして今日から土日休みなのだ。
しかし夏目は田沼の家にはおらず森にいた。
小春や藤原夫妻に危害がないようにと小春にフォローを頼んだのだ。
そして友人帳も小春が守ることとなる。
同じレイコの血筋の人間だから返せるだろうというヒノエと斑の言葉に夏目が心配しつつも小春に預けていった。
それから小春は四日間出来るだけ1日に1回は兄の側に居ようと決意し、小春は一日分の食事を持って森を歩いていた。
「あれ?お兄ちゃん…眠ってる…」
小春が兄が寝泊りしている場所へ向かうと夏目は横になり眠っていた。
近くに寄り兄の顔を覗きこめば少し辛そうにしていた。
(大変そうだもんね…召喚って……)
前に来た時は何かの巻物を持って必死で何かをしていた。
訳を聞けば持っている巻物は影を祓える系譜の者を呼べる巻物で、兄はそれを呼ぶ練習をしているらしい。
訳を聞かなければ何してるのあの人…と変な目で見るところだった小春は『そっか。』と簡単に納得してしまう。
簡単に納得した妹に夏目は『そんなに簡単に納得してもいいのか?』とつい聞いてしまった。
その夏目の言葉に小春は『だって、非現実的なものって毎日見てるし』、と綺麗に微笑み大きくなっても小春に擦り寄る斑を見る。
夏目とヒノエはゴロニャン、と小春に懐く斑を見て『ああ、なるほど…』と納得し何度も頷いたという。
しかし見た目に反してその方法はとても難しそうで、特に体力のない夏目からしたらそれは一発勝負だった。
「お兄ちゃん眠ってるし…ニャンコ先生にお土産渡してこようかな?」
あと3日。
3日を乗り越えれば兄を呪った妖かしはまた深く眠る事になる。
それは小春だけではなく夏目も斑もヒノエも油断してしまう事になり、小春は斑を探しに夏目にタオルを掛けた後夏目の側を離れた。
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