気を失ったはずの夏目は男と女の喋り声に目を開ける。
自分は咳き込んでおり子供用の布団を被っていた。
「なんだ、あの子風邪引いたのか…」
目を薄っすらと開けていると襖の少し開いている隙間から夫婦らしき男女の会話が聞こえる。
男は妻らしき女の横に座りながら女に声をかけ、女は溜息をつきながら答える。
「隠していて酷くしたのか?」
「そうなの、本当に可愛くないわ…そんなに私達が嫌いなのかしら…」
女の言葉に夏目は子供ながらに何故そう思うのかが分からなかった。
何故そうとしか思えないのか、分からなかった。
しかし今はそんな事を思うことも出来ず、答えも分からず夏目はただ寒さに耐えていた。
(…寒い)
(寒い……)
「……さむい」
いや、もう―――…
「―――…先生……元に戻ったのか…」
夏目はふと暖かさを感じ夢から目を覚ます。
そこには元に戻っていた斑が近くに寄り添い、その暖かさに夏目は斑の頭を力の出ない手で撫でる。
斑は夏目の言葉に目を細めいつもの不気味は笑みを浮かべた。
「ああ、終わったよ…お前の印も消えている。」
斑の言葉に夏目は『良かった…』と呟き、ふと頭が浮いておりどこか甘くいい香りが鼻をかすめた。
目線を上へ向けると泣き出しそうな顔をして自分を見つめる妹の顔があった。
膝枕してくれる妹に夏目は目を細め微笑む。
「小春」
「お、にいちゃんっ…よかった…生きてた…」
「小春、ごめんな…心配、かけて…」
小春は兄と目と目を合わせ濡れていた瞳を更に濡らし、溜まっていた涙が夏目の頬に落ちる。
泣いてくれる小春に夏目は何だか嬉しそうになり、謝っているのに笑っていた。
「何を笑ってるんだい!」
「あてっ!」
謝りながら笑っている夏目の頬をヒノエが軽く手の平で叩く。
パチンと軽い音がし、夏目は小さな痛みに小春からヒノエへ目を向ける。
ヒノエはどこか怒ったような表情で小春に膝枕されている夏目を見下ろす。
「お前を見ていて思ったよ…大事な物を守りたいとか、心配を掛けたくないとか…自分の気持ちばっかりだ……自分を大切に出来ない奴は大嫌いだよ。」
「…ごめん……そう、だな……」
怒っているように見えるが言葉には心配が感じられる。
ヒノエの言葉に夏目はゆっくりと目を閉じ、小さく笑う。
死にかけたのに嬉しそうにする夏目を見て小春とヒノエがお互い顔を見合わせ首をかしげたその時、チリン、と鈴の音と共に三篠が現れた。
「いやいや、お見事でございました、夏目殿。」
「!、三篠…?」
三篠が夏目達の目の前に現れ、小春は突然現れた三篠に見上げ首をかしげる。
そんな小春を三篠は優しげな瞳で見つめ目を細めた後、愉快そうに瞳を変え夏目へと目線を向けた。
夏目は三篠の登場に小春からゆっくりと体を起こし、小春同様三篠を見上げ首をかしげる。
「ふふ、夏目殿を試させて頂いた…人の子などに私の名と友人帳を預けておいて良いものなのかを。」
「…試す?」
「カエルを使って奴の所へ誘導したのは私ですよ………奴に喰われる程度ならそれまでだ…そのまま『友人帳』は私が頂こうと思いまして。」
「三篠…お前……」
三篠の言葉に斑が批難めいた目で三篠を見上げた。
そんな斑に三篠は目を細め笑うだけで何も言わない。
「判定は?」
「相応しくない。…しかし気に入った。恩を売っておいた方が面白そうだ……それに小春の兄というのも面白い。レイコに生き写しの夏目殿に友樹に生き写しの小春……まるで昔に戻ったようだ…」
懐かしそうに笑う三篠に夏目は三篠が小春の事を知っていた事に驚きが隠せなかった。
小春の方へ振り返ると『お兄ちゃん達を追いかけて見失った時知り合ったの』と愛らしい笑顔つきで教えてくれる。
まさに妖怪ホイホイの妹に夏目は隠す事なく溜息をついた。
夏目の思っていることが丸分かりの斑は『言っておくがお前も妖怪ホイホイだからな』とズバッと突っ込む。
レイコと友樹と瓜2つの孫。
しかし性格は似て非なるものらしく、三篠は愉快そうにクツクツと笑いをこぼす。
「これも何かの縁だろう…今しばらくは名を預けましょう。小春も夏目殿もぜひ入用な時は呼ばれよ…名を呼ばれるのは嫌いじゃない。」
「ありがとう…三篠。」
「ふふ、レイコの顔でお礼を言われるのはなんとも痒いものですな」
三篠は夏目と小春に顔を近づけ笑みを深める。
夏目は三篠に小さく笑いお礼を告げるのだがおかしそうに笑い、小春もお礼を言うと三篠は愛しげに見つめ擦り寄った。
そして、三篠が小春に擦り寄った事によって友樹ラバーズの戦いの火蓋が落とされる。
「三篠ー!貴様ああ!!小春は私の婚約者だぞ!!いくらお前とて私の小春に手を出すことはゆるさーーん!!」
「ほう…ヒノエ、いつ小春がお前のものとなった?」
「そうだ!!小春は私が嫁にもら…」
「
せんせい?」
「………喰うのだ!!横取りされたまるか!!!」
ヒノエが小春に擦り寄る三篠に何処から持ってきたか不明だが大きな鎌を持ち今にも襲い掛かろうとしていた。
しかし側に小春と夏目が居る為振るうこともままならず、ヒノエは悔しそうに地面を蹴っていた。
そして斑も声を上げるのだが、何故かヒノエは許して斑は許さない夏目が綺麗な笑みを浮かべながら拳を握っているのを背中を向けても気配で察知し、言い直す。
言い直した斑にヒノエと三篠は哀れんだ目を向ける。
それに斑は『な、なんだその目は!!ええ!?』と2人に逆切れする。
「あー、もう…ニャンコ先生ったら…」
3人の喧嘩を見て夏目は苦笑いを浮かべた。
小春も3人の賑やかな喧嘩にクスクスと愉快そうに笑う。
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