次の日、夏目は熱を出し学校を休んだ。
外で寝泊りをしていたせいと全てが終わったことで張り詰めていた緊張感が解れ、疲れがドッと襲い熱を出したらしい。
布団で寝込む夏目を斑はププー!と噴出し、頭には見事なタンコブを作り上げる。
「なんだい、風邪を引いたとこの猫タヌキから聞いて見舞いに来てみれば…案外元気じゃないか。」
「元気じゃない!ケホッ!」
斑を黙らせた夏目は布団へ戻ろうとしたのだが、新たな客が窓から現れ夏目は疲れたように溜息をつく。
新たな客、ヒノエの言葉に夏目は声を上げると咳き込んでしまい『あーあ、仕方ないねぇ』とヒノエは咳き込む夏目の背中を擦ってやる。
ヒノエが背中を擦ってくれたことで少しは楽になった夏目は掠れた声でお礼を言いながら布団に戻った。
「お礼なら小春がいいねぇ」
「絶対やらないからな。」
「ふん、それを決めるのは小春だよ!……で?肝心の小春はどこだい?」
「…小春なら学校だけど……」
肝心って何だよ、肝心って…、と夏目は半目でヒノエを睨むが夏目の睨みなど気にもせずヒノエは小春を探すため小春の部屋を開けに行った。
小春と夏目の部屋は隣同士で繋がっているため、夏目の部屋から小春の部屋に行けるのだ。
普通の兄妹ならそれを嫌がり家具を置いて通れないようにするものだが、仲のいい夏目と小春は便利だとよくその扉を使っていた。
ヒノエは小春の部屋に主が居ないことに肩を落とすが、夏目の言葉に突然目を輝かせる。
「学校!?学校といえば人間達がいけない遊びをする場所ではないか!!!」
「い、いけない遊び…?」
「夏目も丁度風邪で寝込んでいるようだし!小春をモノにするいい機会ではないか!!」
「まっ!ゲホッ…!ぐッ…くそ!!」
いざ行かん!モザイクだらけの世界へ!!、と小春の貞操を狙い学校へ向かおうとするヒノエに夏目は止めようとした。
しかし風邪のせいで体も上手く動かせず引き止めるのには失敗してしまう。
こうなったら!!と夏目は伸びている斑へと目を向けた。
「せ、先生!ヒノエがお土産に七辻屋の饅頭を持ってきたぞ!!」
「―――何!?寄越せヒノエ!!!その饅頭は私の物だ!!」
「ぎゃ!な、何をするんだ!このタヌキだるま!!!」
七辻屋の饅頭が好物な斑は夏目の言葉に伸びていたはずの意識が一気に浮上し饅頭を持っているであろうヒノエに襲い掛かった。
ヒノエは邪魔者もなく小春を襲えるいい機会だと浮き浮き気分だったが斑に潰され苛立ちをぶつけるように張り付く斑を思いっきりひっぱたく。
しかし夏目の拳骨以外は恐怖にもならない斑は饅頭をくれるまで地獄の果てまで着いていくつもりなのか中々離れなかった。
「お兄ちゃん、ただいま!…ってこら!!」
「小春!」
とりあえず妹の貞操の危機は逃れたが今度は煩さに頭を抱える事になる。
すると当事者でもある小春が学校から帰ってきてしまい、小春を見た瞬間中々剥がせなかた斑をぺっとまるでくっ付いていたゴミを剥がすように簡単に剥がし、ヒノエは小春に抱きつく。
ヒノエに抱きつかれ小春は悲鳴を上げてしまい、下から小春の悲鳴を聞いた塔子が心配そうに声をかけ、小春は『なんでもありませーん!』と必死に抱きつくヒノエを剥がそうとしながら答えた。
「―――と、いうことで…私もたまには夏目にだったら呼ばれてやっても良い。当然、小春は用がなくても呼んでも良いぞ?」
「
いえ、結構です。」
やっと落ち着いたヒノエはそう夏目と小春に呟く。
ウインクするヒノエに小春はサッと側にいた斑の両脇を掴み盾にする。
そんな小春にヒノエは『ああっ!つれないねぇ!!』ととても嬉しそうにしていた。
「小春、夏目、人間に飽きたらいつでも私のところにおいで?2人まとめて嫁にしてやろう。」
「だから小春は普通の人間と結婚させるっていったろ……第一お前男は嫌いじゃなかったのか…」
「ああ!大嫌いさ!!だが夏目は何故か嫌いじゃない!男と思わなければどうということはない!!!」
「…………」
「そういう問題か!!帰れ!!饅頭を持ってこん奴は帰れ!!この色ボケ妖怪が!!!」
「何だって!?お前は潰れた大福だろう!!」
「何だと!?ワカメ頭め!そのワカメをむし取って味噌汁に入れてやるわ!!」
男と思わなければって………夏目と小春はヒノエの言葉に2人同じ事を思い突っ込んだ。
もう突っ込む気力もない夏目は溜息をつき、小春は突っ込んだら『なんだい!嫉妬かい!?可愛らしいねえ!!愛いねえ!!大丈夫さ!私の真の愛は常に小春に向けられているよ!!』と言って抱きつきセクハラされるのは目に見えているので何も突っ込まず、何も聞かず、何も見ず、兄の額の濡れタオルを冷たい水に濡らし直し絞ってから額に乗せる。
夏目はその冷たさに気持ち良さそうに目を瞑った。
「大体お前は欲がありすぎるんだよ!!!夏目と小春と一緒に1つ屋根の下で居られるだけでも羨ましいというのに!!毎日小春と夏目と一緒に風呂に入ってるだぁ!?許さん!許すものかー!!」
「ふん!!羨ましかったらお前もこの私のようにキュートな姿になればよかろう!!!まあ!お前が万が一でも私のような誰からも好かれる愛らしい姿になっても色ボケのお前では小春と夏目と一緒にお風呂や寝ることも出来ないと思うがな!!!」
「―――いいから寝かせてくれ!!!」
夏目が眠ろうと目を瞑ったのだが、2人の喧嘩はまだ終わらない。
目を瞑っても聞こえる2人の言い合いに夏目はついに切れてしまい風邪で寝込み、華奢すぎる腕のどこに力があるのか分からないが、喧嘩する二人を掴みポイッと窓から捨ててしまう。
妖かしなので怪我はないだろうが、小春は兄の行動につい口を開けて呆気に取られてしまっていた。
「小春」
「え?な、なに?」
『全く…』と咳をしながら布団に戻り自分で濡れタオルを額に乗せる夏目に呼ばれ小春は一瞬ビクッと肩を揺らしハッと我に返り慌てて窓から横になる夏目へ目線を戻した。
兄の表情は怒っているわけではなく、熱で赤くなった顔を和らげ微笑みながら小春を見上げていた。
「今度の休みの日、西村達と紅葉を見ようって事になってるんだ…一緒に行かないか?」
「い、いいの?」
「ああ、いいさ。多分というか絶対ニャンコ先生もついてくるしな。」
「…じゃあ、行きたい……」
「ああ、行こうな……あと俺さ、塔子さんにお弁当を頼んでみようと思うんだ。」
「え…じ…じゃあ…私も作る!」
紅葉を見に行くという兄達に小春は誘われ嬉しそうにしながら頷いた。
頷いた妹を見て夏目は小春以上に嬉しそうに目を細める。
西村と北本に言われた言葉を思い出し、夏目はポツリと呟いたのだが、その呟きに身を乗りだす小春に夏目は目を丸くさせる。
「小春が?」
「うん!だって西村さん達もいるならいっぱい作らなきゃいけないし…男の子って良く食べるって本に書いてあったの!だから私、塔子さんのお手伝いして、一緒に作って、お兄ちゃん達に食べさせてあげるね!」
にこりと愛らしく笑う小春はまるで子供のようで、兄からしたら妹はいつまでたっても子供のままで夏目は微笑ましそうに目を細め『それは楽しみだな』と笑った。
その笑みに小春は『あ!でもあまり期待しないでほしいな…私まだちゃんと作った事ないから…』と苦笑いを浮かべる。
塔子の手伝いの中には料理も入っているが、中々料理は難しかった。
だから殆どは塔子さん作になるけど、と恥ずかしそうに笑う小春に夏目は『それでも小春が作ったことには変わりないよ』と笑う。
兄の言葉に小春は本当に嬉しそうに笑って見せた。
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