(3 / 10) 8話 (3)

小春は夕飯の時、塔子と滋に企画の事を話す。
2人は、というか夏目も入れた3人は心配そうにしていたが、参加してみたいという小春の願いに折れてくれた。


「小春、ニャンコ先生を連れていった方がいいんじゃないか?」


夏でも夜は肌寒いと小春は長袖を着て旧校舎へ行こうと出かけようとした。
座って靴を履いている途中、後ろから夏目が斑を差し出してきた。
それに小春は『え?』と首をかしげながら立ち上がり兄に振り返る。


「何が起こるか分からないし…まあ、先生なら身代わり程度にはなるとは思うぞ?」

「こら夏目!!私をなんだと思っているのだ!!」

「なんだよ、嫌なのか?」

「嫌なわけなかろう!!夏目自ら私に小春を差し出すのだからな!」

「………」


身代わりと言いのける兄に小春は苦笑いを浮かべる。
そんな小春をよそに斑はいつも小春とのラブラブ(仮)しているのを邪魔する夏目から2人っきりにさせてくれると大はしゃぎだったが、斑の言葉に夏目はにっこり笑った後ギューーッと容赦なく抱きしめる力を入れた。
力の限り抱きしめられる斑は痛い苦しい痛いと声を上げる。


「お、お兄ちゃん、もうやめた方が…ニャンコ先生死んじゃう…」


流石に2人の喧嘩もコミニケーションと思っている小春も容赦のない締め付けに止めに入る。
妹に止められ夏目は『そうか?』と首をかしげながら死にそうな斑を小春に渡した。
小春は斑を受け取りながら優しく頭を撫でてやり、斑は呻き声のような声をこぼしながら『夏目め…覚えておれよ…』と怨めしそうに夏目を見るのだが、夏目は涼しい顔をしながら無視をする。
そんな2人に小春は苦笑いを深めながら『じゃあ、いってきます』と夏目に手をあげ、夏目も心配そうに手を上げ返しながら小春を見送る。





『夏目め…本気で締めつけやがって…』と小春の腕に収まりながら斑はブツブツと夏目に向けて文句を言っていた。
小春はその文句を『うん』やら『そうだね』と適当に返しながら心配して着いてきてくれる斑も、心配してくれる夏目や塔子達が嬉しくて仕方なかった。


「な、夏目さん!?」


旧校舎につくと入り口に男が立っており、その人は実行委員らしく入り口で集まる場所を教えるために立っているようで、小春の姿を見つけギョッとさせる。
小春は相変わらず遠目でしか見ない人達の反応に苦笑いを浮かべた…のだが…


(な、な…夏目さんが俺に天使の微笑を…っ!?)


斑がいるから多少の緊張感もなく無表情にしか見えない強張った表情も和らぎ苦笑いを顔に浮かべていた。
しかし実行委員には小さな苦笑いも微笑みに見えたらしく美少女の微笑みが自分に向けられている!と目を潤わせ手を口に持っていく。
その反応にはさすがの小春も気付き『え?…なに?』と思いながらも口にせず小首をかしげる。
小首をかしげる仕草に男はズキューン、と小さな天使に弓矢を心臓に打たれた。


「ふにゃーー!!」

「うおあーー!!?」

「!、ニ、ニャンコ先生!?」


斑が小春に見惚れる男子生徒に目をキラーン、と光らせ飛び掛る。
見事な三本線が実行委員の顔に出てた。


「〜〜〜〜っっ!!!」

「ご、ごめんなさい!!」


言葉にならない痛みに実行委員はしゃがみ込んでしまう。
斑が引っ掻いた事に目を丸くさせ小春は慌てて校舎に入りバックからハンカチを取り出し水道で濡らす。


「あれ?あれって…夏目さんじゃね?」

「おいおい、何言ってんだ。夏目さんがこんなくだらない企画に参加するわけ……あ、本当だ…」


小春がハンカチを濡らしている時、丁度通りかかった男子2人が小春を発見し、立ち止まった。
水道で濡れたハンカチを絞る姿に男子2人はデレーっとしていた。


「なんで夏目さんがここに?」

「さあ…でもやっぱ可愛いよなぁ…」

「ああ、私服だともっと可愛い…ワンピースが似合う女ってあんまいないよな………でもあれで愛想が良かったら俺のドストライクなんだけどなぁ」

「あ、それ俺も。…ちょっと無表情は近寄りがたくていつも遠めで見るしかなかったし…回る順番ってクジなんだよな?俺2人っきりになったら何喋ろう…!」

「何言ってんだ。お前なんかが夏目さんと一緒になれるわけないだろ?」

「なんだよ!それはお前もだろ!」


男子は友人の言葉に『まあな』と笑ってみせる。
小春は自分を邪気な目で見ている男2人など気付かず絞ったハンカチを持ち慌てたようすで戻っていった。
その様子に男子2人はお互い顔を見合い首をかしげて慌てている様子を見せる小春を追いかける。


「ごめんなさい…大丈夫ですか?」

「いってて…あ、ああ…大丈夫、です…」


斑は男の隙を見てもう一度引っ掻けようと思っていたのかジリジリとタイミングを計っていたが、戻ってきた小春に止められ渋々やめた。
フン、と鼻を鳴らしながら斑は拗ねたように小春達に背中を見せる。
小春は拗ねる斑に『もう』と苦笑いを浮かべ顔に見事な引っ掻き傷を作る実行委員に謝り、傷を濡れたハンカチで痛くしないように拭う。
どんなに痛まないようにと優しく拭ってもやはり痛みはあるのか痛そうに声をもらし、そんな実行委員に小春は申し訳なさそうに眉をさげ何度も謝った。


「い、いいよ、別に…」

「でも…」

「きっと俺が夏目さんを取ると思って嫉妬したのかもよ?」


冗談のようにいう実行委員だが小春は返す言葉もなく引きつった笑みしかでない。
なんたって冗談でもなんでもないからだ。
兄や藤原夫婦と同じように斑も過保護なのを知っているから小春は笑うしかなかった。


「「あ…あーー!!」」


引きつった笑みを浮かべる小春を実行委員はまだ微笑みに見えるのか微笑ましそうにくすりと笑みを浮かべる。
しかし心の中では『お、俺夏目さんと…わ…笑い合ってる!?』と大はしゃぎだった。
そんな脳内だけのラブラブカップルな自分達に実行委員はお花が飛んでいたのだが、小春の後を追いかけていた男子2人は小春と実行委員を見て揃えて声を上げる。


「お、おま…!!お前!!」

「ずりー!ずるいぞ!!」


実行委員には小春とラブラブカップル花畑に見えていたが、小春を追いかけた男子達もラブラブカップルに見えているらしく、怨めしそうに実行委員を見る。
実行委員はそんな2人に『ずるいっていわれてもな〜』と余裕を見せ三本線の爪痕がくっきり見える顔に笑みを浮かべた。
そんな実行委員に男2人は問い詰めるように実行委員の胸倉を掴みなにやらこそこそしており、そんな3人に小春は不思議そうに首をかしげる。


「あの…」

「ちょっと、何騒いでるの!…って夏目さん?」

「井上さん…」


様子を見に来た井上が騒いでいるのを咎めようと顔を覗かせると、困ったように3人を見つめる小春が見え険しい表情から一変させいつもの表情を浮かべる。
井上は小春から事情を聞き『ははーん…』と何かに気付き半目で男どもを見つめた。


「まあ、いいわ。夏目さんが最後みたいだから行きましょう。」

「え…でも…」

「あんな妄想癖な男共なんて放っておけばいいのよ。それより夏目さんってお兄さんと同じく罪な人なのねぇ…」

「お兄ちゃん?罪?」


何故ここに兄が出てくるのか分からず小春は首をかしげるが、井上はなにも言わない。
井上に手を引っ張られながら心配そうにまだ言い争っている男3人に目線を送るも男3人は小春が連れて行かれるのに気付かずまだ言い争いが続いていた。

男3人が小春が居なくなったことを知ったのは企画が始まる1分前だった。

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