がやがやと集まった生徒達で賑わっている場所へと小春は井上に連れられ、入っていく。
その瞬間賑わっていた教室らしい部屋が一瞬でシン、と静まりがえる。
しかしすぐに先ほどではないがコソコソと小春をチラ見しながら友達同士で何かを喋っていた。
それに居心地悪いなぁと思いながらも企画に参加してしまってはもう遅く、帰ることも出来ず始まるのを待っていた。
「…19…20!よし、20名丁度!始めるぞー!」
「っていうかさ、ここ相当古そうだけど大丈夫なのか?」
「大丈夫だって、俺達が下見したときも何もなかったし。今日が見納めだからしっかり楽しめ!じゃあルールを説明するぞ?1回西階段から上がって二階突き当たりの壁に名を書いて戻ってくる!ペアはクジ引きで1〜20番の番号順だ!」
実行委員の言葉に全員がダルそうに返事を返す。
クジ引きを回している間、小春は落ち着かなさそうに辺りを見渡していると先ほどの男子2人が声をかけてきた。
「なーつめさん!」
「?」
「まさか夏目さんが肝試しなんかに参加するなんて思ってもみなかったよ!どうして来ようと思ったの?」
「え…肝試し?」
軽く声をかけられ小春は気を抜いていたのかビクッと肩を揺らした。
振り返るとさきほどの2人がおり、小春はホッと安堵し驚いたことに小さく苦笑いを浮かべる。
その苦笑いを男2人は実行委員の男と同じく微笑みに見え、ドキュン、とハートを鷲掴みされる。
そんな男2人に小春の腕に抱かれている斑は目を細めいつも以上の低い不気味な声で鳴く。
しかしまるでどっかいってろくそガキどもめ、と鳴く斑に気付かず不思議そうに首をかしげる小春を見ながらニヤニヤとニヤついていた。
「あれ?聞いてない?」
「は、はい…」
「まあ、肝試しと言ってもただ古い校舎内を歩くってだけだし、おどかし役は一応特にはないってことになってるらしいから気にすることないと思うよ?」
「そ、そうですか…」
「あれ?もしかして怖い?大丈夫だって!もし一緒の組になったら俺がまも…」
「はい!夏目さん!!クジ引いてくれ!!」
『守ってあげるから!!』と言い切る前に斑に引っ掻かれた実行委員が男子の言葉を遮り再び2人は睨み合う。
睨み合う2人に気付かず小春は差し出されたクジの箱に手を入れる。
「あ、8番…」
「本当?俺は10番だから別々か〜」
『ちぇ…』と残念そうにする男子に小春は苦笑いを浮かべた。
睨み合う自分達の隙に小春に話し掛ける男子に気付かず二人はまだ言い争っていた。
「みんなにクジ回ったよな!じゃあ一斉に見せるぞ!」
『せーの!』と別の実行委員の1人の合図に20人の全員が輪になり手に持っていた番号の紙を見せる。
しかし、1人だけ番号を持っていない手が混じっていた。
「あれ?一枚足りない?」
「え?でも20番までちゃんといるぞ?」
「あ…1人多い…」
誰かの声にざわめきが大きくなり、女子達は怖がり小さく悲鳴を上げる者までいた。
小春はそんな生徒達を見ながらふと腕の中にいる斑を見下ろす。
「ニャンコ先生、何かした?」
「私じゃないぞ?そもそもお前の腕に捕まってるのも当然の私が何を出来るって言うのだ?」
小春の問いに斑は首を振る。
斑の言葉に小春は『まあ、そっか…』と呟き疑ったことへの謝罪も込めて斑の頭を撫でる。
斑は小春の撫でる手に気持ち良さそうに目を細めた。
「じゃあ何かいるのかな…」
「分からんな…本当に何もないのか、この私に気配を感じさせない事ができるほどの奴が要るのか……小春、不安か?」
「え?いや、別に…」
「よし、不安ならば私が調べてこよう!たんけ…じゃなかった…調べなければ分かるものも分からないからな!」
ぴょん、と小春の腕から飛び降りた斑はらんらん気分で部屋を出た。
その際斑は『小春、笑顔だぞ、笑顔!』と小春にしたら良く分からない言葉をかけお尻を振りながら何処かへ消えてしまう。
小春は斑の口から出かけた『探検』という言葉に苦笑いを浮かべ、斑を見送る。
(でも、本当に何もないならいいけど…)
「この校舎には逸話があるらしいわ。」
「え…?」
人が集まるところには必ずと言っていいほど妖かしがいる。
小春は見えるためあまりこういう集まりには来たくはなかった。
特に肝試しと聞いていたら小春は絶対来なかった。
しかし丁度いい機会と言ったのは嘘ではなく、来たくなかった半分来てよかった半分である。
少なくとも男子3人と会話が出来たということだけで小春は収穫はあったと思う。
…まあ、その3人中3人が下心を持った人物であるが…
小春は井上に声をかけられ斑を見送っていた目線を井上に向ける。
挨拶だけだがよく声をかけてくれていた井上はどこか違う人のように見えて、小春はその井上のまるで見透かされているような目線に少し戸惑いが隠せなかった。
そんな小春をよそに井上は続ける。
「昔、人間が大好きな若い招福の神様がいて子供に化けては村へ遊びに来ていたらしいの…ところがある強欲な商人が益々の繁栄を願ってその若神様を屋敷の地下牢に閉じ込めてしまったんだって。商人はその日から招福パワーで大儲け。」
「へ、へえ…」
「でも、若神様は暗い地下で悲しんで悲しんで…やがて人を恨み…悪しき物の怪となってしまい商人の家は潰れてしまったの…不吉な地となったそこは価値が安くなりこの校舎が建てられた…若神様は忌まわしい妖かしになってしまった事を嘆いて今もまだこの地をさ迷ってるんですって……どう?今の話。」
「ど、どうって…」
「なんか気にならない?」
「別に…なにも……」
今まで挨拶しか交わしていなかった井上が突然この土地の逸話を話し始め、小春は戸惑いが隠せない。
その上どう?といわれ正直どう答えればいいのか分からなかった。
井上は小春の反応に少し落胆したような反応を見せ『そう…』と呟き友達の所へ帰っていく。
小春は井上の言いたかったことややりたかった事が分からず首をかしげてその後ろ姿を見送るしかなかった。
井上を見送ると井上は友達と喋っている途中、チラッと小春に振り返り、小春は目と目が合い慌てて目を逸らし別の方へ目線を移す。
すると丁度目線を外した先に女子3人組みがおりこちらを見ていた。
小春と目と目が合った女子の1人は友達2人に挟まれなにやら背中を押されていたが、その様子を小春は井上の事も忘れ首をかしげる。
「あ、あの…夏目、さん…」
「はい?」
結局その女子は背中を押されながら小春の所まで来て、小春に声をかける。
小春は首を更にかしげながらも返事を返し、女子はジッと見てくる小春にビクッと肩を揺らした後ずっと握り締めていたグシャグシャの紙を小春に差し出す。
その紙を見た後小春は女子を見てまた紙を見る。
それを繰り返していたら今度は紙を押し付けてきたので小春はその紙を手に取り目線を落とした。
そこには7番と書かれており、小春は紙を見て女子が何を言いたかったのか分かり『ああ、同じ組ですね』と小さく呟き、女子は小春の呟きに『は、はいぃ!』と小さいながらも声をあげる。
(なんでそんな怖々…?)
まったく自分が今どんな表情を浮かべているのか分かっていない小春は今にも泣き出しそうな女子に首をかしげる。
するとふと斑の『笑顔だぞ!笑顔!』という言葉が何故か突然頭に浮かび、小春はその斑の言葉に従いぎこちなく笑った。
すると女子は小春の笑みを見てボッと顔を赤らめ口をポカーンと開けたまま小春を見つめていた。
「あの…どうしました?」
「ええ!?え!?え!!?」
「?」
何に驚いているのか分からず、少し後ろにいた友達らしき人へ目線を送るも友達2人も小春を見て驚いた表情を浮かべていた。
小春はとりあえず自分の方を見て驚いているので自分の背中の後ろに悪戯好きの妖かしが居るのかと思い後ろを振り返るもそこには人はいても妖かしはいない。
更に女子が何に驚いているのか分からず小春は怪訝そうに女子に目線を戻した。
「4組目行ってこーい!」
暫く見詰め合っていた2人だったが事項委員の合図にお互い我に返り慌てて部屋を出る。
『頑張って!』という応援が聞こえたが、その応援が2人に向けられたのか、はたまた問題児と一緒になった女子に向けられたのかは分からない。
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