(6 / 10) 8話 (6)

小春は嫌に静まり返る教室に落ち着きなく髪を触ったり服を触ったりしていたが、最終的にはその場に座り込んだ。
座り込んで音がないのではないかと思うほどの静けさの教室に、1人で居ることがとても不安になる。
井上はまだ眠っていたので話し相手もおらず、斑もまだ帰ってこず寂しさだけが積もった。


「う…ん…?―――っ何かドッジボールみたいなものが飛んできて…!!」


暇を持て余していた小春だったが井上が目を覚まし、飛び起きるようにガバッと飛び起きた。
小春は突然飛び起きた井上にビクッと肩を揺らしたが、井上が起きた事にほっと安堵する。
井上は辺りを見渡し『あれ?ドッジボールは…?』と呟く。
しかしドッジボールは当然なく辺りを見渡した時目を丸くさせていた小春と目が合い、井上は気まずそうに目を逸らし落ち着きを取り戻す。


「…さっきは…ごめんなさい……」

「え?」

「脅すようなことを言って、ごめんなさい……」

「………」

「でも、本当に見えないの?」

「うん…」


井上は脅すようなことを言った事にもう一度謝り、小春に再度見えないのかと聞く。
小春は少し戸惑いがちに頷き、井上はその頷きを見て『そう…』と残念そうに呟いた。


「井上さん、ペアの人は?」

「え?ああ…私実行委員だから一足先に様子を見に来たの……誰も戻ってこないし……薫…夏目さんの相手は?」

「ト、トイレ…」


嘘をつくのは少し戸惑ってしまうが、このまま素直に言ってしまえばせっかく誤魔化したのが台無しとなる上に居なくなったと言ったらどうして?と返されるのが普通で…それを誤魔化す事も嘘を言う自信もないので無難なトイレに言っている事にした。
咄嗟に出た嘘に小春は自分を褒めてやりたいと正直に思う。


「じゃあ一旦スタート時点に戻ろうか。」

「え?でも…」

「薫なら大丈夫よ、あの子怖がりだけど結構しっかりしてるし。きっとスタート時点に戻ってるって気付くわ。こう中々戻ってこないと進まないしもう鍵を返さなきゃいけないから早く帰らなきゃいけないしね。」

「………」


女子も当然心配だが、それよりも斑に動くなと言われているのでどうしようかと考えていた。
そんな小春を井上は女子を心配しているように見えたらしく、『きっと大丈夫よ』とさっさと教室から出てってしまった。
小春は1人される不安とさっさと教室から出た井上に慌てて井上を追いかけるため自分も教室を出る。
その際ここには居ない斑に謝るのを忘れずに。


「で、でも…井上さんがオカルト関係に興味があるなんて意外…」


小春と井上は方を並べ、廊下を歩いていた。
その間沈黙が続き、小春はその沈黙が物凄く居心地悪くて井上に声をかけた。
小春の問いに井上は『そう?』と首をかしげる。


「別にオカルト全般に興味があるってわけじゃないわ。私はこの旧校舎に住み着いているお化けに興味があるの…だから強引に夏目さんに参加させちゃったの…ごめんね。」

「う、ううん…いいの……でも何でそんな…」


そこまでしてなぜお化けに会いたいのだろうか、と聞こうと思った小春だったが、ガタンという物音にビクリと肩を揺らす。
物音がしたのは空き教室で、丁度小春達の側の教室だった。


「誰か居るのかしら…」


物音がしたから誰かがいると思った井上はゆっくりと教室に歩み寄り教室のドアに手を伸ばす。
小春が警戒もなく開けようとする井上を止めようと手を上げたその瞬間一つ目の巨大な顔が井上の前に落ちて来た。


「きゃーー!!!」

「わ…!」


人ならざるものが目の前に落ちてきて井上は咄嗟に後ろにいた小春に抱きつき、小春は抱きつかれた勢いで後ろに倒れてしまった。
ドシン、と大きな音が静かな廊下に響き、小春は尻を強く撃ってしまい痛みに顔を歪める。


「い…っ」

「あ!ご、ごめんなさい!!」


痛みに声をこぼす小春に井上は小春に抱きつき転ばしたことに気付き慌てて体を起こし謝った。
小春は差し出された手を掴み立ち上がってお尻を擦りながら気にしてないと苦笑いを浮かべる。
井上が落ちて来た物へ振り返るとそこにはビニールシートの塊があり、ホッと胸を撫で下ろす。


「なんだ…ビニールシートが落ちて来ただけか…」

「え……そう、だね…」


井上の言葉に小春は一瞬目を丸くさせるが、井上に気付かれる前に慌てて頷いた。
井上の目にはビニールシートに見えたそれは小春から見たら巨大な一目面の妖かしが映っていた。
小春は一目面と目と目が合っており薄く笑っているそれから目を逸らし先に進む。
小春が先に進んだので井上は何も疑問に思わずそれに続く。


「そういえば…この校舎に住んでるお化けって…例の逸話の神様?」

「多分ね。」

「多分?」



歩いているとふと小春は井上に聞いた逸話の話を思い出し、井上に聞く。
井上は多分と答え、小春がそれに首をかしげると井上は『笑わないでね?』と恥ずかしそうに笑う。


「私、一年前もこの旧校舎で肝試しに参加したんだけど…私すごくすごく怖がりだったの…それで肝試し中は泣いたり叫んだり校内中走り回ってたんだけど…家に帰って落とし物をしてきてしまった事に気付いて大慌てで戻ってきたの…」


井上は恥ずかしそうにしながらも話してくれた。
落とした物を1人で懐中電灯だけを持って旧校舎に忍び込んで探していた。
当然怖がりだった当時の井上は泣きながら探していたが、全然見つからずしかしその落し物は自分にとって大切なものだから探し出すまで帰れなかった。
そんな時―…




「煩いぞお前…さっきから何をしている。」


男性の声がし、井上は顔を上げた。
まだ残っている人がいたのかと思いながら顔を上げるとその人物はバケツを被っており、井上はその人物を見て驚いて言葉を失った。


「おい?」

「っは…ご、ごめんなさい…あの…お守りを落としちゃって…お母さんの形見なの…」

「どの辺で落とした小童」

「(こ、小童?)…それが分からなくて…」


小童という意味が分からず首を傾げていると、そのバケツ少年は隠す事もなく舌打つ。


「ぐずぐずするな。さっさお探してとっとと帰れ。」


そう言ってバケツ少年はそのまま井上に背を向けどこかへ姿を消した。
井上は姿を消したバケツ少年に『何よ…手伝ってくれたっていいじゃない』と心の中で愚痴っていた。
しかしそう愚痴っても時間は止まってはくれず、母の形見を探すため再び井上は校舎内を探し回る。


「うう…ない……どこに落としちゃったんだろう…あの人もう帰っちゃったかな…」

「おい。」


もう何十分、何時間探しているか分からなくなってきた頃、半泣き状態の井上にまたバケツを被った男子生徒が声をかけてきた。
顔をあげるとやはりまだバケツを被っており、それにはもう驚きはしないが井上は目の前のものに目を丸くさせる。


「これか?」

「そう!これ!!探してくれたの!?何処に…」

「西階段の踊り場だ」


バケツ少年が木の棒の先に引っ掛け井上の探している形見を持ってきてくれた。
井上は笑顔を浮かべながら形見を受け取り嬉しそうに手の中にしっかりと握りしめる。


「よかった!諦めかけてたの!!…でもその棒っきれはなに?」

「…不浄の物は清いものには触れられん…もういいだろ、とっとと帰れ。」


不浄、という言葉に首をかしげ変な人だと思っていたが探し出し見つけてくれたことには変わりなく、井上はお礼を言おうと形見から顔をあげたのだが、その場に居たはずの少年はどこにも姿はなく井上の前から忽然と姿を消した。




「――…次の日さっそく声を頼りに校内中探し回ったけど見つからなくて…あの人の言動を思うとひょっとしてお化けだったんじゃないかと思ったの。」


話していた井上はその時の事を思い出し、懐かしそうに微笑む。
井上の話を聞いていた小春はそのバケツの少年が小春の目の前に立っていた傘を被った妖かしだと気付く。
それと同時に斑から聞いた事のある強力な妖かしは自分の意思で人に化けることができるという言葉を思い出し、無意識なのかギュッと肩にかけてある友人帳の入ったカバンの紐を握り締めた。
もしもの時は妖かしが見えていることをばれてもいいから斑の言う通り斑や三篠の名を呼ぶ事を小春は決意する。
するとふと廊下の隅に小さな妖かしがこちらを見ているのに気付き、小春は井上にばれないようその小さな妖かしを目で追いながらすれ違う。


― 我々の住みかを奪おうなどと… ―

― 1人も出してやらんぞ人の子 ―



それと同時に手を伸ばされた時のその傘の妖かしの言葉を思い出す。
そして小春は一目面やさきほどの妖かしはあの傘の妖かしの配下だろうかと思いながら傘の妖かしの言葉から取り壊しへの抗議なのかと考えた。


「それで色々調べてみたの。」

「…!」

「調べて、あの逸話に辿り着いたわ…」


抗議の為に生徒達を隠したのならどう説得させようかと考えていたら井上の言葉に小春はハッと我に返る。
井上は小春の様子など気付かずそのまま話していたようで、小春は慌てて下に向いていた顔を上げて井上を見つめた。


「あの逸話を知ったその日から私は毎日旧校舎に通ったの。」

「毎日?」

「そう、旧校舎に来て呼びかけたの…きちんとお礼を言いたいから出て来てって…毎日、毎日…休む事なく言ったわ…一度でいいから話がしたいって……でも…だめだった…結局彼は一度も姿を見せてくれなくて…取り壊されちゃうらしいから人間が嫌いになってしまったのかしら……もう、壊されちゃうから…会えないのかしらね…」


淡々と言っている井上だったがその表情はとても寂しそうで小春はそっと井上から目を逸らす。

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