(7 / 10) 8話 (7)

小春は会えない寂しさは知っているため井上の気持ちはよく分かる。
しかし何も言えず2人は一階にあるスタート時点へと戻ってきた。
だが…


「あれ…皆いない…何処に行ったんだろ…」

(みんなあの人に連れて行かれたのかな…どうしよう…ニャンコ先生も何処にいるか分からないし…外に出られないし…井上さんは今の状況を知らないし…)


スタート時点に戻ったのだが、その場には誰もおらず静まり返っていた。
自分が出て行ったときは実行委員も数人いたはずなのに…と廊下をもう一度顔を出して覗き見るように確認する井上に小春は考え込んだ。
その瞬間――…


「―――きゃっ!!」

「え…夏目さん?」


小春は後ろから引っ張られ、勢い良く教室から出る。
井上は丁度廊下から顔を戻し不思議そうにしていたため、小春の悲鳴に顔をあげる。
そこには小春の姿がなく、教室には井上1人だけが残っていた。


「え、ちょ…な、夏目さん?冗談はやめようよ…」


突然1人にされ、不安に思う井上の言葉は静まり返る教室に空しくも響いた。





「全く、世話のやける!」


引っ張られた小春は奥にある階段まで一気に引っ張られていた。
階段に座らされ、小春は目の前にいる煙の中から出てくる本来の姿の斑を見上げる。


「ニャンコ先生…」

「あれほど動くなと言ったであろう!」

「う…ご、ごめんなさい…」


斑が教室に戻ってみれば中はすっからかんで小春も井上も居ない状態となっていた。
この時斑はどんなに大人しそうに見えても小春が夏目の妹だと実感させれ、文句を呟きながら小春を探しまくりようやく小春を見つけ服を銜え連れ出した。
小春は斑に叱られしゅんとさせ、上目遣いで見てくる小春に斑は惚れた弱みからもっと文句を言いたいのに言えず『あーも!!しょうがない奴め!!』と声をあげ息をつき自分を落ち着かせる。


「…子分は下等だが相手は意外と大物だ。」

「え…じゃあ皆は…」

「面倒だからさっさと帰るぞ。強力な結界だが私ほどの者なら何とか外へ出られる。乗れ。」

「え…待って…」

「いいから乗れ!小春!」

「いや!」


小春の言葉を分かっていながら最後まで聞かず小春が乗りやすいようにしゃがみ込んだ。
しかし小春は怒鳴っても乗らず、逆に声を荒げ首を振った。
その様子に斑は舌打ちを打ち、苛立ちを静めるように目を閉じその後ゆっくりと開け小春に目をやる。


「みんなを放っておけない…」

「あんな人間達など放っておけばいい。お前達は人間にいい思い出がないであろう。他人など放っておけばいい…お前達には私達がいるではないか。」

「それは…そうかもしれないけど…人でも、他人でも少なくともいい人達はいる……もし、あの人達を放っておいたら私もおにいちゃんもあの人達と一緒になっちゃう!そんなのお兄ちゃんも望んでいないし…お兄ちゃんだったら逃げたらいけないって言うわ!だから私も逃げない…!」

「…………」

「…それに…私、分かってきたの…人の優しさも、可愛さも少しずつだけど…分かってきたの…だから…やれることはやりたい!お願い!ニャンコ先生!みんなを助けるため手を貸して!!」


斑は小春の瞳を見つめ黙り込む。
小春の瞳はとても強く、この瞳は斑は知っていた。
決して折れないのも、知っていた。
斑は負けじと見つめてくる小春に溜息をつく。


「全く…お前達は本当に……」


『良くも悪くも似ておる』と言おうとした斑だったが、後ろから井上の声がし舌打ちをしたあと煙に包まれる。
小春はまた招き猫の姿に戻ると思っていたが煙から出てきた斑の姿に呆気に取られてしまう。


「お、お婆ちゃん!?」


小春の目の前には招き猫でもなく、本来の姿でもなく夏目レイコの姿をした斑がいた。


「ニャンコ先生ってメスだったの?」

「女の姿の方が人は騙されやすいもんだからな。なんだ、レイコが不満か?じゃあ友樹に化けてやろう。お前と並ぶ友樹はまさに双子の兄妹だろうな」

「い、いや!いいよ!!いい!!顔が瓜2つの人に対してどう言い訳すれば言いかわからないし…!」


どろん、と再び人に化けた斑はレイコから友樹へ姿を変える。
小春は慌てて止めに入り、止められた斑は『そうか?』とレイコの姿に戻る。
斑がレイコの姿に戻ったその時丁度小春を探しに来た井上が現れ、駆け寄ってきた井上に斑は『まあ仕方ない。脱出する気になるまで待っててやる。』と言いながら何故かガシッと頭を鷲掴んだ。


「だ、脱出って?あの勝気なお嬢さんは誰!?」

「さ、さあ…多分生徒会辺りが監視役として送り込んできた人だと思うけど…あの人が言うには皆はもう帰ったって言ってた」


突然頭を鷲掴みされた井上はゆっくりと後ろへ下がったあと小春に斑を差しながら聞く。
コソコソと話していても人ではない斑には聞こえており、斑は気にもせずポリポリと頭をかいていた。
井上達のコソコソ話とは別の小声での会話に気付いた斑はふとその声の方へ向ける。
そこには毛の塊の妖かしが見上げていた。


「ヒトだ!ヒトだ!」

「まだ残っていたか!」

「屋上の時雨様に報告せねば…ん?おい、見ろ!あそこに居るのは夏目レイコではないか!?」



小さい妖かしは小春達から斑へ目線を移し、レイコに化けている斑を見て1つしかない大きな目を更に大きくさせた。


「おお!まさしく!」

「若様に勝負をふっかけ名を奪った忌々しきレイコじゃ!」

「さては我々を追い出しに来たな!おのれ人間どもめ!成敗じゃ成敗!!」



小さな妖かし達は斑をレイコだと思っているのかレイコを睨みつけていた。
しかし小さな妖かしに睨まれても痛くも痒くもない斑はフン、と鼻を鳴らしながらその妖かし達の前にしゃがむ。


「おい、低級ども。」

「――!ぎゃ!レイコが来た!!」

「なんだと!?私をあのレイコと一緒にするな!!私の方がまだ慈悲深いし友樹への愛ではアイツ等より私の方が大きいぞ!!!」

「くっ…喰われる!!逃げろー!!」


斑はレイコと一緒にするとは言語道断!とどこに突っ込んでいるんだと思う突っ込みを入れる。
斑の剣幕に妖かし達はキーキー言いながら慌ててレイコから逃げ出し、斑は逃げられたことに悔しそうに地面を蹴っていた。


「ど、どうかしたのかしら…変な人ね…」

(良かった…人型になってて良かった…)


小春は喋りまくる斑を見て密かにそう思う。
井上は突然怒り出したりと不可解な行動を取る斑を見て若干引いていた。
小春はそんな井上を気にしながらコソリと斑に声をかける。


(ニャンコ先生、あの子達と何を話してたの?)

「ん?おう!小春!しめたぞ!例の妖かしは友人帳にあるらしい!どうやら『時雨』という名らしい!さっさと名を返し帰るぞ!」

「妖かしの名?…ひょっとしてそれがあの人の名前!?」


斑は隠す事なく普通に声を出す。
当然側に居た井上も聞いており、井上は疑問に思う前に妖かしの名前に気を取られていた。
小春はまさか本当に友人帳を使う事になろうとは思ってもいなくて緊張から井上の言葉は耳には言っておらず、上手く返せるだろうかと緊張でカバンの紐を握る。
すると視界の端に下っ端の妖かしが見え、そっちへ目をやった瞬間まるで小春から逃れるようにその妖かしは素早く姿を消す。


「今何か動いた!!」

「井上さん!」


妖かしは見えなくても何か見えた井上は探している時雨という妖かしなのだろうかとその妖かしを追おうとした。
しかしそれは小春に引きとめられ止まってしまう。


「何処に行くの!?」

「時雨様を探すの!今日が会える最後の機会かもしれないでしょう!?」

「でも…」

「人嫌いになった神様が泣いていた人の子の為に一緒に探してくれた…このお守りがどれだけ私にとって大切だったか…見つけてもらってどれだけ私が嬉しかったか…伝えなきゃいけない気がするの…不浄なんかじゃないって…時雨様はその優しさで人の子を救ってくれたのよって……もし…もし夏目さんが時雨様を見る事があったらそう伝えて欲しいと思ったの…もしそんな事があったらでいいから…」

「井上さん…」

「ありがとう、夏目さん…こんな話聞いてくれて…本当にありがとう…」


井上の手には形見だという小さな袋が握られていた。
その袋は丁度手で包み込めばすっぽり入るもので、小春の持っているお守りと似ていた。
彼女の大事そうに握るその姿に小春も服の下にぶら下がっているお守りを服の上から触れる。


(私が…井上さんの言葉を伝えても…時雨様は耳を貸してくれるかな…)


小春はお守りに手を伸ばし目を瞑った。
そして思う。
大切な言葉ほど自分で伝えなければ伝わらないのではないか、と。
声が出せなかった小春だから言葉の大切さは分かっている。
だからこそ小春は井上の言葉に何も返さなかった。


「小春、奴の気配は屋上にあるぞ…どうする…私が奴に話をし、気が落ち着いたら連れて来ようか?」

「…大丈夫、だと思う…」

「…そうか…」


お守りに触れ目を瞑っている小春に斑は心配そうに声をかける。
小春は斑に声をかけられ目を開けた後心配してくれる斑ににこりと笑みを浮かべ首を降った。
その瞬間――…


「!井上さん!危ない!!」

「え…」


井上の横にあった棚がグラッと動き井上に向かって倒れた。
それにいち早く気付いた小春が井上の腕を掴んだお陰で井上は怪我もなく無事だったのだが、小春は引っ張る力が強くしすぎたのか一緒に後ろに倒れてしまう。
井上はガシャン、という大きな音に我に返り慌てて体を起こした。


「大丈夫!?夏目さん!」

「大丈夫…――あ!!待って!!」


お礼を言いながら井上は小春に手を伸ばし立つ手助けをしようとしたのだが、井上の伸ばされた手を掴もうとした小春の視界の端にあの一目面が逃げていくのが見え慌てて起き上がり後を追おうとした。


「小春!!」

「ニャンコ先生は井上さんを安全な場所に!」

「な、なに!?お前はどうするつもりなのだ!!」

「こんなことをやめさせるの!!名前を返して説得しなきゃ!」

「あっ!こら!!1人で行くな!!」


1人で走って行こうとする小春に斑が慌てて止めようとするも斑の言葉が耳に入っていない小春は暗闇へと姿を消してしまう。
斑は聞いていないのを覚悟に『いざとなったら友人帳の力で従わせろ!!あと私の名も呼べよ!!』と言うのだが、やはり小春からの返事はなかった。


「あいつ、やはり夏目の妹だな。」


夏目同様妖かしや人の問題に首突っ込んだ挙句人の忠告もアドバイスも聞かず突っ走る小春の姿を見て疑う余地なし、と呆れたように溜息をつく。
それと同時に斑はふと脳裏に懐かしく愛しい人間を思い浮かべる。


(友樹も…あんな風に活発な人間だったのだろうか…)


自分の姿を見てくれなかった友樹。
声も聞こえず感じられないためいつも影鬼やレイコを通して会話をしていた。
よく友樹を口説き嘘の通訳をされては友樹に笑われた斑は懐かしそうに小春の後姿を見送る。
結局友樹とは触れ合うことも出来ず目と目を合わせる事も出来ず通訳なしの会話も出来ぬまま友樹も、そして毎日のように勝負を挑みに来ていたレイコも居なくなってしまった。
斑はレイコから友樹が病気で死んだと聞かされて以来こんなにも人間が愛しいと思ったことはないと夏目と小春を思い浮かべながら思う。

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