レイコがいると恐怖する紅峰に斑は溜息をつきながら2人がレイコと友樹の孫だと話し、そしてレイコも友樹も死んだ事を話す。
斑に2人の事を聞いた紅峰は安堵したような寂しいような…複雑な表情を浮かべながら夏目と小春の顔を見比べていた。
「孫、ねぇ…それにしても嫌味なほど2人共顔がにているんだが…人間の孫っていうのはこうも顔が似るもんなのかい?」
「いや…そうじゃないけど…」
「…レイコはともかくお姫が居なくなったのは少し寂しいねぇ…」
レイコが一部の妖かしに怖がられているのは小春も話を聞き知っていたがまさかここまでとは…、とマジマジと見てくる紅峰に苦笑いを浮かべながら思う。
友樹がまるで女のような扱いを受けていることも聞いているのだが、やはり祖父のあだ名にはまだ慣れていないのかちょっと複雑そうに笑っている。
「紅峰、この辺で紙の束を銜えた黒くてラブリーな猫を見なかったか?」
「黒くてラブリーな猫?その猫が何か?」
「いや、知らんならいい」
「あの…さっき妖怪達が列を作ってどこかに行ってましたけど…あれって何ですか?」
「あれはこの森の妖かし達が集まって飲み会をするために集まってるのさ。」
黒くてラブリーな猫、と自分で言う斑に紅峰は記憶の中を探るも見覚えもなく首を降った。
首を振られ3人は少し気落ちしたが、小春は先ほど見た妖かしの行列の事を紅峰に聞くと、妖かし達が集まって飲み会をすると答えてくれる。
その紅峰の答えに小春は『へえ』と興味ありそうに返事を返すと紅峰が『ああ、そうだ』と付け足し、斑へと目線を戻した。
「斑様、ラブリーな猫は見ませんでしたが同じ黒猫で頭のデカイぶさいくな猫なら会場へ向かうのを先ほど見ませた。」
「!、それだ!紅峰さん!そこへ俺達を連れて行ってくれないか!?」
「…正気かい?人の子が行けばすぐに喰われてしまうよ……ただでさえお前達はレイコとお姫の孫なんだ。」
「構わない。人間とバレないように妖かしに化けていく!…お願いだ……俺にはどうしてもあの猫を見つけ出さないとならない責任があるんです!!」
「………」
普通の人間が行っても普通に殺され食べられるのが落ちなのだからレイコと友樹の血が繋がっているのなら尚のこと危険である。
あの中でもやはり友樹やレイコに心酔している妖かしも少なくなく、バレたらどうなるか想像したくはない。
しかし夏目は祖母の大事な友人帳を奪われたのは自分の責任だと強く思い、紅峰はその夏目の瞳を見つめ黙り込む。
暫く無言が続いた後ふと小さく笑みを浮かべ斑へと目線を移した。
「生意気な目と物言いは確かに少しレイコに似ているか…そこが気に入っているんですか?」
「阿呆か。下らんことを言っていると喰うぞ。」
「ふふ…この人の子がどこまでやれるか面白そうだ…よし、夏目の若様、連れて行って差し上げましょう……上手く妖かしに化け切れれば善し、もし人の子とバレる事になればその時はみんなの肴になって頂きましょう。」
「構わない……頼みます。」
面白そうだ、と言って紅峰は夏目の願いを受け入れた。
夏目は頷いてくれた紅峰にお礼を言った後小春に振り返った。
「小春、小春は…」
「私もいく。」
「いや、小春は…」
「わ た し も い く。」
「う…わ、わかった…」
小春は危険だから家に戻れと言いそうになった夏目だったが、にこやかに愛らしく笑う小春に言葉を遮られてしまう。
行く気満々の小春に夏目は『いや、だから…』と首を振ったのだが、やはりにこやかに笑い強調されてしまえば言い返せない。
斑も口を挟む隙もなく夏目同様小春に逆らえないため渋々頷く夏目に茶々は決していられないからか、自分は巻き込まれないようにそっと夏目から目をそむけた。
「ま、まあ…とにかく頑張ろうな、先生、小春」
「うん、頑張ろう!」
「ったく…お前達はまた勝手に決めよって…」
斑は怒り散らしたいのだが自分も小春に勝てないため呆れたように溜息をつくしかなかった。
しかしポン、と音を立てて斑はいつもの招き猫になったのだが…
「ぎ、ぎゃーー!!ま、斑様がちんちくりんにーーーっっ!!」
あのかっこよく美しい斑が丸々太っただけのブサ猫に姿を変え、紅峰の叫びは響く。
「うう…おいたわしい…」
嘆く紅峰をよそに宴会に向けて準備をするためその場から立ち去る夏目達の姿を、1匹の猫がジッと身を潜めながら見つめていた。
****************
紅峰から『友人帳』を所有する獣を連れたレイコに似た少年、または友樹に似た少女の噂はやはり広まっているらしい。
そのため猫の姿の斑は再びレイコへと姿を変え、小春と夏目は面をつける事になった。
「これだけでいいの?」
「ああ、墨に私の血が混じらせてあるからお前達が人だと言うのは気付くまい…それに酒も入っているんだ、まず見分けられることはないだろう。」
面は夏目・小春・斑につける事になった。
夏目と小春は『目』と書かれた面を顔半分につけ、レイコに化けた斑は招き猫の時の自分の顔を描いた面を顔を覆うほどの大きさでつける。
治ってからこのようにお面をするのは初めてで小春は本当にたったこれだけで人間とバレないのだろうかと不安そうに面を触る。
そんな小春に斑は安心させるように頭を撫でてくれた。
「まあ、もしもの時は私が助けてやるが…何せ『夏目レイコ』と『友樹』は有名だからな。」
レイコと友樹。
どちらも違った意味で妖かしから有名だった。
友樹は男だが、レイコと並ぶとどちらも美少女な2人だった。
海の向こうにある国の物には疎い妖かし達からでも天使と悪魔だと呟かれるほど性格は真逆で、この場合レイコが悪魔で友樹が天使である。
人間を嫌い妖かしも嫌ったレイコ。
人間を好み妖かしも好んだ友樹。
どちらも真逆で相容れない存在のはずだった。
その2人が恋におち、そして子を成し、その子が夏目と小春を産んだ。
一度この土地から離れたレイコの娘の子供がレイコの思い出が詰まっているこの土地に来たのだからこれはきっと偶然ではなく必然なのだろうと斑は時々思う。
「…………」
紅峰は愛しげに小春を見つめ頭を撫でる斑にゆっくりと静かに目を細めた。
そして、レイコに化けた斑と友樹に似ている小春が並んでいる姿を見て紅峰は懐かしそうに、そして寂しそうに目を瞑り2人から背を向ける。
「斑様、会場はこちらですよ」
「お?そうか!ついにタダ酒が飲めるのか!」
紅峰の心境など気付いていない斑は酒が飲めると喜び紅峰の後に続き、小春と夏目も紅峰の事に気付く事なくどこまでもお酒にしか頭にない斑に苦笑いを浮かべながら着いていく。
4 / 8
← | back | →
しおりを挟む