(5 / 8) 9話 (5)

会場となる場所につくとそこにはもう出来上がっている妖かし達でいっぱいだった。


「よく集まった!我が同輩達よ!さあさあ!たんと飲んでくれ!」


他の妖かし達よりもはるかに巨体を持つ妖かしが長い挨拶など短く終わらせ楽しもうと大きなお猪口を上に掲げ同輩達を歓迎する。
それが挨拶となり妖かし達は一斉に酒やつまみを口に運びすでにお祭り騒ぎとなっていた。


「紅峰、遅かったな…どこに行ってたんだ?」

「野暮だねぇ…化粧ですよ、化粧。」

「おや?見かけぬ奴等だ」

「ああ…私の連れですよ」


紅峰は適当な場所に腰を下ろし、隣にいた妖かしが瓢箪から酒を紅峰に注いでやる。
酒を注いでもらった紅峰は平然とした表情で笑みを浮かべその妖かしにお礼を述べる。
すると突っ立っている夏目と小春とレイコに化けた斑に妖かし達が気付き、全員ではないが何体もの妖かしに振り返られ小春はビクッと肩を揺らす。
初めて数の多い妖かしを目の前にし、小春は驚き兄の背中に隠れてしまった。


「小春、大丈夫だ…」

「う、うん…」


恐怖は少しある。
しかし怯えるほどの怖さはなく小春は驚いただけである。
夏目もそれを分かっているのか静かに落ち着かせるように小春に声をかけ、ポケットから手を差し出した。
小春はその差し出された手をソッと自分も手を重ね、2人は手を握り妖かしの輪に入っていく。


「…………」


仲の良い2人の背を斑は黙ったまま続き貰った酒を仰ぐ。


「楽しそうなんで混ぜてもらうよ。」

「おうおう!飲みねぇ!…ん?お前等ちょっと人間臭いな…」

「え゙…」


やんわりと酒を断り夏目は妖かしの隣に座る。
断られた酒を斑が『ならば私が貰おう!』と夏目と小春の分を嬉々として受け取り…というか横取る。
それに小春が苦笑いを浮かべていると夏目の隣にいた妖かしがくんくんと鼻を鳴らし近づく。


「本当だ…主様の事を思い出すなぁ…」

「『主様』?」


人間臭いと言われ夏目と小春は一瞬痛いところを付かれたようにたじろぎ、小春はバレたかと思い兄の側に寄り添った。
そんな2人をよそに小春や夏目の匂いを嗅いでいたキツネの妖かし達は懐かしそうに呟き、それに周りにいた妖かしも続けて懐かしそうに頷いた。
主と言われても首をかしげる夏目と小春に妖かしは『お!お前新入りか!』と怒るわけもなく機嫌よく夏目の背中を叩く。
強く叩かれもやしと評される夏目はその強さに咳き込んでしまい、小春は慌てて夏目の背中を擦ってやる。
それを見て斑が『もやしめ…』と呟き斑の呟きが耳に入った夏目は咳き込みながら斑へ睨むが、今の夏目が睨んでもこれっぽっちも怖くないため斑は平然と知らん顔をしながら注がれた酒を仰いでいた。


「人間びいきのこの森の主様さ…家畜を襲うため人に化けた時、キツネ用の罠にはまってしまってな…猟師の男に助けられて以来人に化けてはそいつに会いに行ってたんじゃ…人の友人が出来たと行ってはしゃいでおった。」

「力は強力だったがちっと頭の悪い方だったな…人と友人になれるなどと…」

「そうじゃ主様はちょっと阿呆じゃった…」


阿呆、阿呆、と言いながらも心からは慕っているのか本気で馬鹿にした様子はない。
何故か悲しげに語る彼等だったが、夏目は時間もないと彼等に黒猫の事を聞く。


「なあ、この辺で黒猫を見た奴はいないか?」

「黒猫?…ああ、見たぞ?」

「俺も。」

「ほ、本当か!?」

「私も見たぞ?確かそこら辺で…」

「諸君!!」


簡単にはいかないかもしれないと夏目はどこかで思っていたのか、だめもとで聞いてみるとなんと妖かし達は黒猫を目撃していたようで簡単に頷いた。
目撃情報が簡単に見つかったのに驚きが隠せない夏目だったがどこで見たのか聞こうとしたその時、一際巨体を持つ妖かしがお猪口を側に置き立ち上がって声を張り上げ、妖かしや夏目達はその妖かしを見上げる。


「そろそろ例の事について話し合おうか!主様は下等な我々に瘴気深いこの森で生きていく妖力を分け与えてくれた大恩人!ついに憎っくき人間どもが主様を封じた場所が分かった!今こそ仕返しの時だ!!今宵夜襲をかける!」

「おお!ついに!!」

「人間など恐れるな!皆で一斉にかかれば他愛もない!!」


大きな妖かしの言葉にその場にいた妖かし全てが喚声を上げる。
その声の大きさに小春は耳を塞いでしまうほどだった。


「や、夜襲…?人間を恐れるなって…どういうことだ?」

「なんだ知らないのか?家畜を襲う主様はやがて人間どもに封印されたのか姿が見えなくなったのさ…最近ついにその場所が分かった…赤くて高い塀の近くの家に床下がどうも封印された場所らしいのだ。」

「それで家人を襲うっていうのか!?」


妖かしの言葉に夏目も小春も戸惑いが隠せない。
ただの飲み会だと思った宴会が人間を襲うための集まりだったとは2人は思わなかっただろう。
この町に来てから夏目は色々な妖かしを見て、接してきた。
話し合えば分かってくれる妖かしや影鬼のように襲ってくる妖かしもいることも知っている。
しかし全てがそうではないのを知っているからこそ夏目は驚きが隠せなかった。
夏目の声など喚声が沸きあがっているその場では届かず、説明してくれた妖かしも既に人間を襲うために意気込んでいた。


「何も人を襲う必要はないだろう…しかし必要がないがあの飲みっぷりでは何を仕出かすか分からんぞ。」

「そんな…」

「…………」


夏目の言葉は無視され、それに代わりに答えたのは斑だった。
斑の言葉に今まで黙って兄の後ろに隠れていた小春は顔色を青くさせ、意気込む妖かし達を見つめる。
夏目はただ黙って俯いていたが、それに気付いた斑がハッとさせる。


「あっ!夏目!お前妙なお節介をするんじゃないぞ!?この数では易々は止められん!」

「そうそう、お止しなさいな。何になるってんです?知りもしない連中の為に…所詮人如きに出来る事などたかが知れている…」

「――そうだな…けれど幸い俺にはお前の言葉が聞こえているよ…ここにいる妖かしのも…」

「………」

「そして人の言葉もだ…隔てなく……これは力になりはしないだろうか…」


斑の忠告に今まで黙って酒を飲んでいた紅峰も続けて夏目を止めに入る。
紅峰は斑とは違い面白半分だが、夏目は目の前の妖かしを見つめながらぽつりと呟いた。
夏目の言葉に紅峰は口を閉ざし薄笑いをしていた表情を消し夏目の横顔を見つめる。


「…お前は…レイコとは違うのか……」

「え?」

「あ!お兄ちゃん!あそこ!!」

「――あ!!いた!!」


紅峰の呟きは小さく、側にいた夏目の耳に届くか届かないかほどだった。
そんな紅峰の声に夏目は首をかしげながら紅峰へ目線をずらすと、紅峰同様兄の言葉を黙って聞いていた小春がふと視界の端に映った黒いものに気付き慌てて兄の服を引っ張って黒猫を指差す。
夏目は小春の指差す方向を見ると黒猫がいるのに気付き誰よりも早くその黒猫を追いかけた。


「こら!!夏目!!」

「お兄ちゃん!待って!!」

「あ!小春!!お前らこそ待てー!!」


黒猫は声を上げた夏目の声にビクッと体全体を跳ねさせ脱兎の如く素早い動きで夏目達からどこか遠くに離れていく。
その背中にはどうやって巻いたか不明だかが風呂敷が背負わされていた。
兄が黒猫を追いかけたため小春も慌てて兄に続き、自分から離れる夏目と小春に斑は声をかけるが悉く無視され舌打ちを打ち長い髪を掻き毟る。


「よく分からないガキだ…どこが気に入ったんです?」

「別に気に入ったわけではないさ…私が興味があるのはレイコの『友人帳』だけだ」

「ならばさっさと喰って奪えば良い」

「いいヒマ潰しになる…人の一生などあっと言う間だ。」

「では、あの娘はどうです?」

「娘?…小春のことか…」


夏目と小春を追う事もなく溜息をつく斑に紅峰は夏目と小春が消えた方を見据えながら声をかけた。
そんな紅峰に斑も2人が消えた方を見据えながら溜息混じりに答えたが小春を出され初めて紅峰を見た。
紅峰は斑の言葉に小さく頷き愉快そうに目を細める。


「あの子供も見事にお姫に似ていらっしゃる…」

「…何が言いたい」

「さっさと物にしてしまえばいいのでは?」

「………」


紅峰のはっきりしない物言いに苛立ちを覚える斑は厳しい表情で紅峰を見つめ、紅峰はそんな斑に目を細め微笑む。
斑は次に出た紅峰の言葉に口を閉じるも紅峰は気にもせず更に続ける。


「お姫の生き写しのあの娘…とても美しいですね…そして美味しそうだ。」

「…………」

「私は食べようとは考えませんが…さて…何人の妖かしが私のように我慢できるのやら…」

「…………」

「レイコや影鬼殿が居ない今、守る者といえば斑様ただお1人……いついかなるときに襲われるか分からないではありませんか?」

「…………」

「好都合にもお姫は男ならばその孫は女子……ならば、他の者の物になる前に斑様、あなたがあの娘を物に―――…」

「紅峰」

「…!」

「金輪際そのような事は言うな…その時はお前を噛み殺すぞ」

「…っ」


紅峰は何も言わない斑を良い事に次々と言葉を投げかける。
黙って聞いていた斑はじっと紅峰を見つめていたが先の言葉を口にする前に低く唸るような斑の声に止められてしまう。
斑のその声と今にも襲い掛かりそうな恐ろしげで冷たい表情に紅峰は背筋を凍らせ体を硬直させる。


「小春は友樹ではない…友樹は……1人しかおらん…」


体を硬直させ恐怖に顔を強張らせる紅峰など興味がないと言わんばかりに斑は小春の消えた先に目を移す。
斑の凍りつくような鋭く冷え切った視線が自分から逸れたことに紅峰は安堵の息をつき硬直していた体を解した。
しかし斑の小さく切なげな呟きに紅峰は斑へと目線を送る。


「小春は小春なのだ…」


この斑の呟きは紅峰の耳に届く事なく夏目の呼び声にかき消された。

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