(7 / 8) 9話 (7)
「大丈夫かい?」
キツネ用の罠に引っかかってしまったリオウに1人の男性が声をかけてきた。
「………」
リオウは今日、人里に下り家畜を狙おうと人の子に化けていた。
しかし油断してしまい足にキツネ用の罠に挟まれ激痛に顔を歪める。
そんなリオウに1人の人間の男が声をかけ、キツネ用の罠を取ってやり怪我の治療までしくれた。
「これでもう大丈夫だろう。」
「………」
「痛かったろ?可哀想に…」
「…………」
リオウは別に人間が怖くはなかった。
――が、見下してもいなかった。
人間はコロコロと態度も表情も変わるから見ていて楽しい。
だから人間は好きだった。
「じゃあ、あまり茂みに入っては駄目だよ。またキツネ用の罠に掛かってしまうからね」
「あ…」
人間は好きだがあまり関わろうとは思っていなかったリオウは突然の出来事、そして人間に助け出されろという予期せぬ出来事に戸惑っていた。
いつお礼を言ったらいいのか、妖かしであり人間ではないリオウには分からなかった。
そんなリオウに人間の男は痛みで言葉も出ないのかと勘違いし、優しく頭を撫でリオウから離れる。
男が離れたのをリオウは名残惜しそうに見送り、お礼も言えなかったとグッと拳を握る。
****************
「おや、君は…」
リオウはあれからあの人間を探した。
探して、探して…やっと男を見つけた。
しかしここから先が分からなかった。
どうやって声を掛けたらいいのだろうか、どうやってお礼を言ったらいいのだろうか…
ただ疑問ばかりが浮かぶも回答などひとつもでなかった。
人間は好き。
だが今まで話しかけようとも思っていなかったからリオウは緊張していた。
そんなリオウに男が気付きにこりと優しい笑みをリオウに向け、リオウはびくりと方を揺らす。
「もう足は大丈夫なのかい?」
「う、うん…」
自分を覚えてくれていた男の言葉にリオウは怖ず怖ずと頷く。
リオウが頷いたのを見て男はまるで自分のことの様に嬉しそうに笑い『それはよかった』とまたリオウの頭を撫でた。
「…………」
リオウは男の手が自分の頭を撫でるのを瞳を瞑りじっとする。
男の手は女性の手とは違い、年配なのもありゴツゴツしていて到底気持ちがいいものではない。
しかしリオウはその男の手で撫でられるが好きだった。
あの罠に掛かってしまった時に撫でられてからあれから数日は経っていたがリオウはずっと男の温もりを忘れた事はなかった。
もう一度あの温もりを感じたくてリオウは男を捜していた。
「あの…」
「ん?」
「あ……ありがとう………助けてくれ…」
リオウは撫でられ気持ち良さそうに目を細めていたが我に返り恐る恐る男を上目遣いで見上げる。
男はほのぼのとしていたがリオウに声をかけられ小首をかしげるも目を逸らし照れながらのリオウの言葉に小さく目を見張った。
男の手が止まったのを感じ、更に気恥ずかしくなったリオウはついに俯いてしまう。
そんなリオウに男は目を細め微笑んだ。
「君は泣かなかったね」
「え…」
「大人でもあの罠にかかったら悲鳴すら上げるっていうのに君は泣かなかった……君はとても強い子だ…偉いねぇ」
「……っ」
偉い、偉い、と馬鹿にしていないが完全に子供扱いの人間にリオウは目を丸くする。
見た目は人間の子供に化けているので男の対応は間違っていないが、リオウは男より大分上の年齢である。
普通ならば激怒するものだが、この時リオウは褒められとても嬉しかった。
自分を普通に接し、暖かい優しさを与えてくれる男にリオウは嬉しかった。
「おじさん!」
「おお、リオウ」
それ以来リオウは男の所に度々姿を現した。
時間も日にちもバラバラで事前の連絡もないがそれでも突然の小さな訪問者を男は歓迎する。
リオウは男と一緒に居るこの時間が好きだった。
何をするにも男の後を追いかけ、男とスイカを食べたり、男のところに行く途中に知らない人間にお餅をおすそ分けしてもらい男と一緒に食べたり…
リオウは優しいこの男が好きだった。
人間たちが好きだった。
――男の撫でてくれる手が大好きだった。
しかし、事態は一変しリオウは術者によって招き猫に封じられ深く長い眠りにつくことになってしまった。
リオウの記憶はそこから暗闇へと変る。
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