名取は1人ずつ小春と重丸の分のお茶が入っているコップを2人の前に置き、自分の分のコップを置いて椅子に座る。
お菓子は流石に持てず柊に持ってもらい、それを受け取り机の真ん中に置いた。
重丸がいるのに関わらず柊に手伝ってもらう名取はどうやら柊から重丸も妖かしの類が見える人間だと知らされていたのだろう。
小春はこれまでの事を話した。
名取と出会う前の事や出会ってからの事。
綾部の事、影鬼の事。
影鬼が原因だった原因不明の病気の事。
そして、治った経由のことを。
名取は小春の話を黙って聞いてくれた。
頷き相槌を打ちながらも決して話を遮ったり質問もなくただ、聞いていた。
兄や斑から名取は妖かし達にあまりいい印象はないと聞いていたため黙って頷き影鬼をひどい妖かしだと否定しない名取に嬉しくて影鬼の短くも長い思い出を話した。
それから治ってからの事も話した。
初めて妖かしを通さず感じる五感、その感想。
初めての学校の試験や学校の制服に袖を通したときの感動。
最初は友達が1人も出来なくて人の輪にすら入る事が出来なかったこと。
でも色々あって自分が妖怪の類を見れると知っていながらも友達になってくれた奈々の事も名取に話し、そしてそれ以来リンや薫など奈々以外の友達も増えて学校生活を堪能していることも話した。
影鬼の時は黙って聞いていてくれた名取は友達の話しをする小春に自分も嬉しそうに笑みを深めながら聞いてくれた。
小春はそれが影鬼以上に嬉しくて笑みを深める。
****************
それからどれほどの時間が掛かったのだろうか…小春は色々な事を名取に話し、口が利けるようになってから初めてこんなにも喋った。
初めて口が渇くほど喋った小春は口の中を潤すため貰ったお茶を口に含む。
するとふと思い出したかのように同じくお茶を飲んでいた名取が口からコップを離しお茶を飲んでいる小春に顔を向け声をかける。
「そういえば小春ちゃんは修学旅行でここにいるのかな?」
「え?あ、はい…」
お茶を飲んで口の渇きを潤していた小春は名取に問われお茶を飲み込んだ後頷く。
その頷きを見て名取は『そっか』とファンなら一撃必殺ものの笑みを浮かべた。
「ニャンコは一緒じゃないのかい?」
「ニャンコ先生ですか?…はい、一緒じゃないですけど…」
何故斑の事を聞くのだろう、と小春は不思議に思い小首を傾げる。
その仕草も男子達が見たら一撃必殺ものだがここには思春期男子はおらず、名取はその小春の仕草に微笑ましく目を細めて笑う。
「よく1人で行かせてもらえたね。」
『…ほら…夏目って…アレだし……』言葉を濁らせながら名取は初めて会った時の彼を思い出していた。
確かにあの時の小春は全てに近いほど体は機能していなかった。
それに夏目にはもう血の繋がっている家族は妹である小春しかいなかったし、親戚にたらい回しにされていた経験からして小春が大切な存在になるのも分かるがそれにしても大袈裟なんじゃ…と名取はその時の事を思い出し乾いた笑いを浮べる。
そんな名取に小春は照れているのか苦笑いを浮かべた。
「お兄ちゃん、過保護ですもんね…」
「うん、まあ、そう、だね…」
『過保護どころじゃないけどね…』と釣られて苦笑いを浮べる小春に、名取はそう思いながら返答に困り苦笑いへと変える。
名取はこの時、夏目にこれでもかと防犯グッズや北海道は寒いからと防寒服を渡される光景や、自分も行くのだと駄々を捏ねるが自分でさえ留守番なのにと苛立つ夏目に抑えられる猫の光景が目に浮かべる。
簡単にその光景が浮かんだ自分に名取は苦笑いを深めた。
「お姉ちゃん、しゅうがくりょこうってなに?」
あはは、うふふ、とある意味笑い合いほのぼのとしていた空気は重丸によってバッサリ切られた。
今まで黙ってお菓子やお茶を遠慮なく…本当に遠慮なく食べていた重丸は首をコテン、と傾げて手にお菓子を持ちながら小春を見上げる。
「修学旅行っていうのはね、学校に行ってる人達が研修と見学を兼ねてて、その旅費は学校側が全部負担して私達生徒はタダで旅行して遊んで学ぶ行事のことよ?」
「えっと…小春ちゃん?それはちょっと違うんじゃ…」
「え!?だってニャンコ先生がそう言ってましたけど…」
タダはまあ、生徒達にとってはタダだろう。
しかし両親から元々貰っているため厳密に言えばタダではない。
前半は合ってたのに後半が斜め上へ逸れたことに名取は顔を引きつらせながら乾いた笑いを浮かべ訂正する。
真実を知った小春は『ええ!?』と大袈裟ではないかと思うほど驚き、嘘を教えた斑に頬を膨らませていた。
子供のような仕草が様になり可愛らしさが増す小春に名取は笑みを浮かべ、拗ねた表情を浮かべる小春の頭へ手を伸ばして優しく撫でてやる。
すると小春は最初はキョトンとさせていたが嬉しそうに微笑み黙って名取の手を受け入れた。
「きっとニャンコも一緒に行きたかったんだ…あまり怒っては駄目だよ」
「…はい」
名取の撫でる手は嫌いじゃない小春だったがそんなに本気で怒っていなかったのか拗ねたところを見られ照れ笑いを浮かべる。
その照れ笑いを名取は目を細め笑う。
「お姉ちゃん、かえっちゃうんだ…」
2人はお互いに話せて嬉しかったからだろう…
重丸の小さな呟きに気付くことはなかった。
「…………」
否、ただ柊だけは重丸の言葉に気付きじっと重丸を見つめていた。
次の日――
まだ雪は強く吹雪いていた。
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