(10 / 26) *10話 (10)

「はぁぁぁぁぁ〜…」


奈々は1人部屋で大きく長い溜息をつきベットに横になり顔を埋めていた。
リンと薫は別の友人達の所におり、奈々は重丸に手を振り払われたショックと薫の棘のある言葉が見事に刺さり思いっきり落ち込んでいた。
2人が自分を見捨て外にも出れないため別の部屋にいる友達の所へと向かって早数十分…奈々は不貞寝しようとしているのかうつらうつらと目蓋を閉じかけていく。
しかし――


― ゴン!ゴン! ―

「うぇあ!?」


眠りの世界へ誘われるほど気持ちいいものはなく、奈々も気持ち良さそうに眠りに付こうとしたその時、扉からの大きく乱暴なノック音によって眠気が一気に覚め飛び起きたように身体を起こす。


「な、なに!?もう!!」


起きても止むことのないノック音に奈々は起こされた苛立ちもあり、乱暴に扉を開ける。
奈々は思ってもみなかった人物に己の目を疑った。


「すまない!お邪魔させてもらうよ!」

「な…な……名取周一ーーーっ!!?」


奈々が扉を開けたのと同時に入って来たのは昨日から騒がれている俳優の名取だった。
名取の腕にいる小春など突然有名人が来たことに驚愕している奈々が気付くことはなく、奈々は遠慮なく部屋へ入って近くのベットに小春を降ろす名取を唖然と見ていた。
しかし小春をベットに降ろしたのを見て小春の存在にようやく気付きハッと我に返った奈々は慌てて名取と小春の元へと駆け寄る。


「小春ちゃん、怪我は…」

「な、ないですけど…」

「そうか…よかった…」


まだ状況が飲み込めない小春を名取はベットに座らせ絡み付いている紙人形をゆっくりと取ってやる。
怪我がないという小春に名取は安堵の笑みを浮かべ、小春はそんな名取を見上げ何か名取に聞こうと口を開きかけたのだが、駆け寄ってきた奈々に名前を呼ばれ口を閉じてしまう。


「小春!?どうして名取周一と一緒にいるの!?っていうかなんで名取周一が小春をお姫様抱っこして名取周一が部屋に来てるの!?」

「な、奈々ちゃん…落ち着いて…」

「落ち着いていられるもんですか!!あの名取よ!?あの俳優の名取周一の本物がこの部屋にいてこの部屋で立ってこの部屋で息してこの部屋で生きてるのよ!?」

「奈々ちゃん…意味、分からない…」


小春の元へと駆け寄った奈々は小春以上に混乱しているのか眠気もどこへやらで小春の前にいる名取を指差し意味不明の事を話しだす。
指差された名取は奈々に顔を向け眼鏡を外し『お邪魔しているよ』とキラキラと光りだす。
そんな名取に奈々は眩しそうに目を細めその光りを遮るように手で影を作り、そして小春はそんな煌びやかに光り初めて見る名取の姿に『こ、これが噂の…!』と軽く引いていた。
噂のというよりは兄の夏目と斑にいらんことを教えられたというべきか…


「はっ……って名取周一の芸能人オーラに負けている場合か!私!!小春!あんた名取周一とどういう関係!?まさか…まさか…!こ、こここ…っこい…」

「ち、違うよ!!絶対ない!!ただの知り合い!!」

「はは…確かに知り合いだけど…こうも本気で否定されると流石に傷付くなぁ…」


名取のキラキラオーラに負けつつあった奈々だったがすぐに我に返り小春に詰め寄る。
小春は『恋人…?』と疑っている奈々に必死に首を振り否定する。
しかしその否定された名取は確かに恋なんていう感情はないが流石に本気で否定されれば図太そうな心も粉々に砕け散りそうである。
小春は名取の小さな呟きにハッとさせ慌てて名取にフォローを入れるが名取はそんな小春に眼鏡をかけ直し小春から目を逸らし『ああ、うん…分かってる…大丈夫だよ…分かってるから…』と全然大丈夫ではない返答を返した。


「さて…冗談はここまでにして……小春ちゃん、私がいいと言うまでこの部屋からは出ては駄目だからね。」


冗談だったのか、冗談じゃなく本気だったのか…奈々は多分後者の方だな、と冷静を取り戻しつつある頭でそう思う。
そんな奈々などよそに小春は名取の言葉に首をかしげ怪訝そうに見上げた。


「あの…なんでこの部屋なんですか?」

「あれだよ。」

「あれ?」


小春は重丸を探し名取に聞いた時からの疑問をぶつけた。
この部屋に閉じこもっても重丸…妖かしが来る事は来るのでは?と聞いた小春に名取は目を細めある物を指差す。
そのある物とは異様に存在感が大きいこけしだった。
そのこけしは小春が鞄から取り出し何でもないように自分の寝るベットの頭上にある机に置いたのだ。
ズゴゴゴ…となにやら黒いオーラを放つこけしに奈々をはじめリンや薫も怯えていたが1日寝たら慣れたのかもう存在を消去していた。
小春と奈々は名取にそのこけしを指差され、同時に首をかしげる。


「あのこけしが何ですか?」

「あのこけしは結界の元なんだ」

「「結界?」」


名取の言葉に2人はこけしを見た後名取へと目線を戻す。
こけしが結界になっていると聞いてもやはり小春はピンとも来ず、一般人である奈々は特にそうだろう。
小春よりも奈々は不思議そうな表情を浮かべていた。


「このこけしは誰のだい?」

「私のですけど…ニャンコ先生がどこからか持ってきてこれを出かけるときは絶対持ってて寝る時は枕元に置けって」

「…うん…やっぱりか…」


過保護は夏目だけではなかったか…、名取はそう思い口端を引きつらせながら眼鏡を上げる。
ドン、と床を壊すんじゃないかと思うほどの力でこのおぞましいこけしを置く斑の姿をすぐに思い浮かべる事が出来た名取は自分に乾いた笑いを向けた。
乾いた笑みを浮かべていたが咳払いをひとつし、話しを進めるため気を取り直す。


「…このこけしはニャンコの妖力がこれでもかと言わんばかりに詰め込まれているんだ…どういう仕掛けかは知らないがこのこけしが結界を張っている状態でこの部屋を護っているんだろう。」

「だから奈々ちゃんが手を引っ張ってこの部屋に入れようとした時嫌がったんだ…」


名取の説明に改めてこけしを見る。
こけしにそんな護り神のような機能があるとは思えない。
しかし斑の妖力が入っているあのこけしのお陰でここに悪しき妖かしが入ってこれないのだという。
感謝した方がいいのか、なんでこけしだったのかと問い詰めた方がいいのか…小春は真面目に考えた。


「私は柊の様子を見てくる…だから絶対小春ちゃんはここから出ちゃだめだよ?ノックの音が聞こえても声を聞くまで開けちゃ駄目だ。いいね?」

「は、はい…」


事態はのんびり考えこむほどほのぼのしていなかった。
重丸がどれほどの力があるのかは分からないが支配人達を操れるほどの力はあるというのは分かった。
名取の注意に小春はしっかりと頷き、その頷きを見てとりあえず納得したのか名取はもう一度小春に注意してから部屋から出て行った。


「…………」

「…………」


名取が出て行った後、部屋に静けさが響く。
小春はベットへ座り、奈々は名取が出て行った扉へ目を移したままだった。


「…で?」

「ん?」

「どういう事か教えてくれるんでしょうね?」

「………」


奈々は名取が出て行った扉から小春へと目線を移しジッと見つめた。
その奈々の目線に小春は口を閉じ目をソッと逸らすが奈々はそれでも見つめるのを止めず、無言で話せオーラをかもし出す。
その為小春は奈々のオーラに負け疲れたように溜息をつき、硬く閉じていた口を簡単にも開く。


「重丸くん、覚えてるかな?」

「ああ、うん…まあ…トラウマ程度なら…」

「(トラウマ?)…重丸くん、妖かしなんだって。」

「……は?」

「だから重丸くん、人間じゃないみたい…」

「…………」

「…………」


小さい子供に全身で拒絶されれば大人や同い年の人に拒絶されるより精神的にくるものがある。
まだ引きつっているのか奈々は小春から目をそらしながら聞いていると、次の小春の言葉に耳を疑った。
目線を外していた奈々は疑うような目線を小春に向けるも、小春はその目線に『本当だから…』という意味を込め奈々の期待に満ちた目を否定するため首を振る。
小春が首を振ったため重丸が人ではないことは確定し、奈々は『あー…』やら『うー…』やら何故か唸り始めた。


「奈々ちゃん?」

「ごめん…ちょっと非現実がどっと押し寄せてきてちょっと頭の整理が出来てないの…」

「あ…そ、そう……あの…ごめんね…」

「なんで小春が謝るのよ」

「だって…私が重丸くんを見破れなかったから…今奈々ちゃんに迷惑かかっちゃったから…それに名取さんにも…」


溜息をつく奈々に小春は巻き込んだことへの罪悪感が湧き上がり申し訳なさそうに肩を落とす。
しかしそんな小春によそに奈々は『それよ!!名取周一よ!』と声をあげ小春を振り返り指をさす。
小春は突然大声を出され、そして指を差されビクッと肩を揺らした。


「な、名取さんが…どうしたの?」

「なんで名取周一がここにいるの!?なんであのきっもいこけしが結界だって分かったの!?」

「それは…」


奈々は名取の表の顔しか知らない。
小春はそんな奈々に果たして勝手に裏の顔を言ってもいいのか迷った。
この場にもし名取が居れば名取が話すだろうがここにはもう名取はおらず人の秘密を勝手に喋っていいものかと戸惑ってしまう。
そんな小春などよそに奈々はジッと小春を見つめ答えを待っていた。


「名取さんは…」


小春は考えた末、名取の事を話した。
妖かしが見えること、その妖かしを退治する事を職にしていることも。
大まかで全てではないが話した。


「……な、なんだ…頭から煙が出てきそうだわ…」


テレビで見る華やかな姿の名取しか知らない奈々は小春の説明に頭痛がしてきそうで頭を抑える。
そんな奈々に小春はつい苦笑いをもらし、重丸が妖かしだと知ってから初めて笑った気がした。

10 / 26
| back |

しおりを挟む